熱血！　寝子島不良外伝！　～西鬼末旧聖主伝説～｜リアクション

熱血！　寝子島不良外伝！　～西鬼末旧聖主伝説～

【雑魚掃除Ver１】

　不良とは、一般的には倫理観が欠如しているようにも見られる。
　特に、この事件に初めてかかわるものにとってはそう見えるだろう。
　無秩序で、下品で、それでいて、おのれの欲を見たそうとしている。
　そう見えたところで不思議はない。
　しかし、過去、この不良たちは何を主眼に置いていたか？
　そう、喧嘩だ。
「気を抜くなよ！　女とはいえ油断したら危険だ！」
「変な能力を使うやつもいたしな！　なら、その前に接近して力で倒す！」
　不良たちは口々にそう言って、椎井莉鳥に挑む。
（やっぱり、向いてないどころか計算外ね）
　ろっこん【スタンハンド】で牽制しつつ、派手に立ち回っているグラウンドをよそに淡々と立ち回っていた。
「こっ……来ないで」
　近づく不良たちに莉鳥は嗜虐心を煽る言葉を言いつつ逃げ回る。
「どうして……」
　不安そうな顔を作る莉鳥。自分のおとなしそうな顔や整ったからだという女の武器を使う。
　不良たちは顔を見合わせると、一斉に笑い始める。
「そうか、なら望み通りにしてやるよ！」
（うまくいったわ）
　その気になったように見える不良たちを見て、莉鳥はほっと人心地をついた。
（変な能力を使うが所詮は女、集団でやれば怖くない、って思っているはずね）
　そういって地の利を生かして校舎の周辺で立ち回る。
（ついでに自分たちの性欲を満たす、なんてことも考えそうね）
　そして、茂みを利用して相手をかく乱しようとした時だった。
「おっと、そっちは通せんぼだ」
「っ！」
　目の前に立ちはだかる不良に、莉鳥は【スタンハンド】を食らわせようとする。
「おらっ」
「つっ！」
　しかし、追い付かれ両肩を圧迫される。
　そのまま手が自由に動かせなくなり、指先を相手に向けるかどうかというところで制圧されそうになる。
　陸上部所属で鍛えているとはいえ、普段のように整地されたトラックがあるわけでもないし、喧嘩慣れをしていない。
　つまり、いくら相手が雑魚とはいえ緊張下での経験が不足している。
　そして、この不良たちはどうだったか思い出してほしい。
　3度の喧嘩が終わり、着いた決着に納得していない上に、寝子高を倒すために退学までしている。
　不退転の覚悟に背水の陣、そしてそれらをするまでに至る経験。
　超常的な事件の経験はあるにせよ、莉鳥にとって圧倒的に不利な相手だった。
「くっ、殺せば？」
　つい、そんなセリフが口について出てしまう。
　だが、彼らはそのまま莉鳥をとらえようとする。
「もう少し女を意識させるなら、普段から女らしくするんだな」
「ぐ」
　愛想やもろもろの点でぐぅの根も出ないほどの正論である。
　服装もユニセックスなものを好む彼女にとって、コンプレックスを突かれた形となった。
　制服であるなら多少は女らしく見えるだろうが、普段の装いというのはとっさの時に悪く働くこともある。
　あわや、というところで目の前の不良が吹き飛んだ。
「あ～ら。お久しぶりね？」
「き、きさまは！　ぐえっ」
　莉鳥をとらえていたもう一人の不良も吹き飛ばされてもんどりうって倒れた。
「女の子に夢中になってあたしに気付かない。け、ど、夢中なあの子に届かないな～んてね」
「た、助かったわ」
　莉鳥は尾鎌蛇那伊を見ると、礼を言う。
　お互い寝子高2年普通科で、顔と噂は知っていた。
「じゃ、雑魚を倒しに行くわよぉ……派手に、ね？」
　蛇那伊の妖艶な笑みに、とんでもないところに来てしまったと莉鳥は思っていた。