冷たく流れる花の香に、
東城 六は足を止めた。
いつかどこかで嗅いだことのあるような、懐かしいようなそうでもないような、花の香。
秋風が木々を揺らす周囲に視線を巡らせれば、歩いていた道の反対側、キャットロードの入り口。趣味の店が多く店舗を構えるアーケード街のどこかから、花の匂いは流れてきている。
うなじを覆う白い髪を花の香の風に揺らし、六は道を渡る。
ほんの気紛れに花の香を追って、辿り着いたのはコンビニの隣、赤煉瓦壁の建物。開いたままの木の扉の内から花の香が漂うのを確かめ、六はちらり、首を傾げる。
扉にはぶっきらぼうに『開いてます』と白墨で書かれた小さな黒板。看板の端には『ガクブチ画廊』。これは店名だろう。
花の香はますます強くなっている。
誘われるように画廊内に足を踏み入れ、店の入り口の丸いテーブルに据えられた鉛筆と芳名帳にまず気付いた。名前と住所を記すものらしいが、店内に人気は無い。書かなくても問題はなさそうだ。
窓には全て分厚いカーテンが引かれ、室内は薄暗い。外よりも冷たい空気に、六は灰の色した瞳を細める。
そう広くない壁際に、薄暮に似た光を当てられた絵画が一枚きり、飾られている。
画廊の入り口から眼を凝らす。
一枚は精緻な筆で描かれた百花に囲まれ、日傘差して座る少女。ただ、色が差されているのは長い黒髪の少女のみ。彼女を包む花園には一切の色が欠けている。
少女を照らす色彩が揺らぐ。
花の内に佇む少女がうっそりと微笑み、
――花の色を、教えて
そう囁いて手招きしたように見えて、六は瞬く。
こんにちは。
今日は、花にまつわる記憶のお話を聞きに参りました。
ガイドには東城 六さんにご登場いただきました。
ありがとうございます!
もしご参加いただけます場合は、ご自由にアクションをかけてください。
画廊に入って額縁の前に立てば、神魂の影響でモノクロの絵の世界に吸い込まれます。
白黒の花園では、日傘を差した天然色の少女から、花を摘んできてとねだられます。広大な花の庭で、あなたがその色を鮮明に覚えている花を探し出してください。
その花を見つけた後は、その花にまつわる記憶を思い出しながら花に触れれば、あなたの記憶にある花の色が白黒の花に宿ります。
例えば、菫の花の香りと共に誰かに恋をした記憶。
例えば、椿の大木の下で誰かを待ち続けた思い出。
花の種類は問いません。記憶も、悲しいものでも楽しいものでも、何でも大丈夫です。
ただ、できれば天然色の少女が酷く怯えないような記憶の色にして頂けましたらありがたいです。……その、あんまり血みどろだったり、心を引き裂くような記憶の場合は、ものすごくぼかした表現になってしまいます。
誰かと一緒に画廊に入って、一緒に来たひととの花にまつわる記憶を思い出して、モノクロの花園で話し合ってみたり、なんかも楽しそうです。
今回は怖いことも危険なこともなんにも起こりません。花がひとつ色づけば、元の世界に戻ることができます。ちょっと不思議な花園の風景をお楽しみいただけましたらと思っております。
ご参加、お待ちしております。