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雲海を征くクイーン・ラグドール号の行く手に、月を割るようにそびえるお城が見えてきた。まるで絵本に出てくるような、ファンシーさを漂わせた姿形をしている。
ここは星にも手が届きそうなほど、天高く昇った雲の上だ。普通の建物が、こんなところにあるはずはない。
ということは、おそらく。
恵御納 夏朝がクリストファーに視線を向けると、舵輪を操っていた彼の手に力がこもるのがわかった。
「もしかして、あれが……」
「うむ。あれこそが我が故郷――ゴーストリアだ」
少しずつ大きくなっていくゴーストリアのお城は、けれども廃墟のような静けさを漂わせている。
その時、城の陰から巨大な影が姿を現した。
カボチャの頭に、鬼火のような翼、手はハサミで、尾はウツボカズラ。
以前戦ったゴーストフィッシュ・カルカドロと比べても倍はあろうかという大きさのソレは、そんなてんでバラバラのパーツをパッチワークしたドラゴンのような姿をしていた。
さらに翼から、炎の雫が滴り落ちる。するとそれは、瞬く間にお化け兵たちの姿へと変化していった。
「くっ……!」
クリストファーが舵を切り、ラグドール号が雲の中に姿を隠す。
『いまのって、もしかして』
小山内 海が、スケッチブック越しに問いかける。もしかしての先の言葉は、もはや不要だった。
「そうだ。あれこそが、封印されていたお化けだ。名を確か……『ウィル』という」
かつてウィルは、ゴーストの世界の各地でゴーストたちを食べて大暴れしていた。しかし団結し立ち上がったゴーストたちとの激しい争いの末に倒され、ゴーストリアに封印されたのだという。
舵輪を油断なく操作しながら、クリストファーは皆に告げる。
「まずはヤツに気づかれぬよう、ゴーストリアへ船をつける。挑むのはそれからだ」
◆
雲を抜けたラグドール号が停泊したのは、影絵のような森が広がる
カボチャ色の山腹だった。
そこからはゴーストリアの城と、その城下町が一望できる。チョコレート色のレンガ道が行き交い、パステルカラーのカラフルな家屋がいくつも並んだ城下町には、けれどゴースト一人の姿もない。
文字通りのゴーストタウンとなった街は、色鮮やかだからこそより一層空虚に見えた。
『ゴーストさんたちはどこ?』
「我輩を送り出した後、皆はウィルの目を逃れるため潜伏したはず」
海の不安げな問いかけに、クリストファーはほんの一瞬目を伏せた後、強い光を宿した眼差しでゴーストタウンを見渡した
「きっと……いや、必ず無事だ。我輩はそう信じている」
その時だった。森のあちこちから、いくつもの影がぞろぞろと姿を現す。
「まさか、お化け兵!?」
ラグドール号の方へ向かってくるその影に、夏朝はねこシールを体に貼り付けて警戒態勢を取る。それを制したのは、
サキリ・デイジーカッターだ。
「いや、どうやら違うようだよ」
「あれは……!」
クリストファーが、感極まったような声をあげる。よく見れば、飛び出してきたのはクリストファーとよく似た猫や犬など、二足歩行する動物の姿をしたゴーストたちだ。
彼らこそ、クリストファーをラグドール号で送り出した住人たちだった。
「王子、よくぞご無事で!」
「そちらの皆様はもしや、王子の同志の方々でいらっしゃいますか!?」
「ああ。ラグドール号の旅で得た、頼もしい仲間たちだ!」
住人たちの間に、静かな興奮が波のように広がっていく。
そして再会の喜びを分かち合い、一行の紹介をするのもそこそこに、すぐさま話題はウィルのことへと移っていった。
住人たちはウィルやお化け兵たちから身を隠しながら、言い伝えや彼らの行動を調査していたらしい。それはすべて、いつか同志を連れて帰ってくるクリストファーのためだ。
彼らによれば、ウィル打倒の鍵は尾のウツボカズラにあるという。
どうやらお化け兵たちに捕食されたゴーストたちは、あのウツボカズラの中に送り込まれているようなのだ。そして現在進行系で、ゆっくりとゴーストパワーを吸収されていっているらしい。
「つまりあのウツボカズラを壊せば、今まで食べられたゴーストさんたちを助けられるってこと!?」
思わず身を乗り出して問いただす夏朝に、ゴーストリアの住人は「必ずとまでは言えませんが」と前置きをしながら、しかし希望の色と共に頷いた。
『しかもパワーをえられなくなるなら』
海に頷いて、「狙わない手はないね」とサキリ。問題は、どう狙うかだ。お化け兵にくわえてウィル本体の巨体の猛攻を捌きながら、というのは容易なことではない。
その時だった。警戒にあたって居た軽鎧の戦士が、鋭い声をあげる。
「奴め、こちらに気づいたようだ。来るぞ!」
見れば、青白い鬼火の翼をはばたかせ、ウィルが城から夜空へと飛び立とうとするところだった。がらんどうのカボチャの瞳は、確かにラグドール号へ向いているように思える。
そこでクリストファーが、ラグドール号へと飛び乗った。
「クリストファー!?」
「我輩がラグドール号で奴の注意を引き付ける! そなたらは、その隙に尾を破壊してくれ! 尾の破壊が成ったら、その後は――」
「ウィルを倒して、全てを終わらせる。そうだね?」
サキリの言葉に、クリストファーは頷いた。
そしてクイーン・ラグドール号が、夜空へ向けて飛び立つのだった。
ハローワールド、風雅です。
恵御納 夏朝さん、小山内 海さん、サキリ・デイジーカッターさん、ガイドへのご登場ありがとうございました。
お化けの国、最終幕のお届けとなります。
ここまでのシナリオにご参加いただいた方はもちろん、最終幕への飛び込み参加も大歓迎です。
皆様是非是非ご参加ください。
「今回までの間に、いつの間にか船に乗っていた」「実は前回から乗ってたよ」といったアクションも、
もちろんオッケーです。
このシリーズについて
本シリーズは 幽霊猫とお化けの国を起点とするシリーズシナリオです。
おばけの国『ゴーストリア』で起きた異変の影響で、ゴーストになってしまった皆さん。
もとに戻るにはゴーストリアの異変を解決する必要があり、
それには各地でゴーストたちを仲間にすることが不可欠です。
ゴーストリアの王子、幽霊猫のクリストファーと共に、
各地でゴーストを仲間にしながらゴーストリアの異変解決を目指す――というのが本シリーズの概要でした。
概要
古い城塞が遺る島で名もなき戦士を仲間に加えた『クイーン・ラグドール号』の一行は、
ついにゴーストリアへと向かうことになりました。
封印されていたお化け『ウィル』によって荒廃したゴーストリアには、
クリストファーを送り出したゴーストたちが今も身を潜めていました。
既に戦う力はなくしてしまった彼らでしたが、ウィルの打倒のための情報を皆さんにもたらします。
果たして皆さんは、ウィルを打倒することができるのでしょうか。
今回の敵は『ウィル』。かつてゴーストリアに封印された、凶暴なお化けです。
カボチャ頭に手はハサミ、翼は青白い鬼火、尻尾はウツボカズラとなった巨大なドラゴンとでもいうべき、
奇妙な姿をしています。
尻尾のウツボカズラ部分は、ゴーストを取り込むための器官となっています。
これまでお化け兵たちによって捕食されてきたゴーストたちはこの器官の中へ転送され、
現在進行形でゴーストパワーを吸収されているようです。
(時間が経てばそのまま消化される他、破壊しないまま撃破した場合どうなるかは誰にもわかりません)
クリストファーの言うように破壊できれば、ゴーストたちの救出のみならず、
ウィルを弱体化させることができるでしょう。
ウィルの行う攻撃は以下の通りです。ただし、しばらくはラグドール号に夢中になっており、
取り巻きのお化け兵たちによる迎撃が主となるでしょう。
・ハサミ
手のハサミで切り裂きます。ゴーストボディなので真っ二つにされても死にませんが、死ぬほど痛いです。
・緑の炎
お化け兵たちよりも遥かに広範囲、高火力の炎です。ブレス状に放射する場合と、
炎の弾を連射する場合とがあります。
・突進
巨体を活かした突進攻撃です。
・お化け兵召喚
人魂の翼からお化け兵を産み出します。ただし任意に行えるようではなく、
一定の間隔で自動的に産み出すといったシステムの様です。
その他、追い詰められた場合には予想外の行動をしてくる可能性もあります。
本シリーズの特殊ルール
本シリーズでは、幽霊船の影響によって参加者の皆さんはゴーストとなっています。
ゴーストには以下の特徴があります。
<ゴーストボディの特徴>
・空を飛べる
・物体をすり抜けられる
・生身の人間や生物に憑依できる
・任意に姿を消したり出現したりすることができる
・夜になるにつれて力が増し、昼になると力が弱まる
・ろっこんも使用可能(上記の特徴に似た能力の場合、より強力になる)
・霊体に対しても「物理的に干渉するろっこん」が通用する状態になる
※種族「あやかし」の幽霊とは、使用可能な能力などが異なる場合があります。
※あやかしも、このシナリオには問題なくご参加いただけます。
幽霊は、大きな変化はありませんが、火の玉や冷気を出す能力、ポルターガイストが強力になったり、
憑依能力が使えるようになったりすることもあるようです。
妖怪・付喪神は、ゴーストボディになります。特殊能力などはそのまま使用可能です。
>あやかしとは
NPCについて
・クリストファー
ゴーストリアへと返ってきた幽霊猫。
ウツボカズラを破壊してゴーストたちの解放およびウィルの弱体化を行うため、
ラグドール号ごと囮になることを買って出ます。
ウツボカズラを破壊することができれば、ラグドール号の大砲などを駆使してウィルへの攻撃に参加します。
・メモワ
人形島から一行に加わったゴーストドールたちのリーダー。
見た目はフリルたっぷりの洋服を着せられた西洋人形ですが、
周囲の物体を操る、髪を伸ばして拘束するといった強力なゴーストパワーを操ります。
ウツボカズラ破壊のため、ドールたちと共にお化け兵のけん制と制圧を行います。
・ピエロ
遊園地の廃墟で仲間になったピエロ。言葉は発しませんが、身振り手振りがうるさいです。
手製の風船剣や殺人びっくり箱を手に、ウツボカズラの破壊に向かいます。
・アマキ
強力なゴーストパワーを持つ人魚です。戦闘能力はありませんが、
ゴーストパワーを歌声に乗せることで癒しの力を発揮します。
今回も、ここぞというタイミングで歌をお願いしてみるとよいでしょう。
・戦士
城塞の島で仲間になった、手練れの戦士です。特殊能力はありませんが、磨き上げられた戦技は非常に強力です。
元凶の打倒にくわえ、食われた仲間たちを助けられるかもしれないとあって静かな戦意を燃やしています。
なお先述の通り、ゴーストリアの住人たちは力を使い果たしているため、戦力にはなれません。
ですが安全な所に身を潜めてくれるため、特に守ったりする必要はありません。
その他、登録済みのNPCなら、特定のマスターが扱うキャラクターを除き、基本的に誰でも登場可能です。
また、Xキャラクターも登場可能です。
口調などのキャラクター設定は、アクションに記載してください。
Xキャラ図鑑に書き込まれている内容は、そのURLだけ書いてもらえれば大丈夫です。
NPCやXキャラクターも、ゴーストになってしまっているかもしれません。
いっしょに冒険を楽しんでください。