その島は、崩れ去った城塞の名残と草原に覆われていた。雲にかげった月の光も相まって、時に忘れ去られてしまったかのような、物寂しい雰囲気を漂わせている。
そんな島の一角、朽ちた墓場の周辺を、
クリストファーと
桜井 ラッセルの二人が探索していた。上空には、この島から発せられるゴーストパワーに引き寄せられた
クイーン・ラグドール号が停泊している。
「誰も居ねえ……。ほんとにここにゴーストが居るのか?」
「ラグドール号が引き付けられたのだ、確かにこの島の何処かに居るはずなのだが……」
そんなやりとりを交わしながら、二人が墓場のまわりを半周ばかりした時だった。
塚屋の残骸から、人影が飛びだしてきた。その手に構えた剣の刀身が、夜の闇にぼんやりと浮かび上がっている。
「うぉっ!?」
「むっ!?」
火花が散った。
とっさにカトラスで受け止めたクリストファーの目と鼻の先に、剣の切っ先が迫っている。
今しもクリストファーをカトラスごと叩き切ろうと力を込めている影は、軽鎧を着こんだ一人の戦士だった。 憤怒の形相を帯びながら、戦士は怒気と共に言葉を吐き出す。
「貴様ら、かぼちゃの化け物の手の物か!? 懲りもせず、同胞たちの魂を喰らいにきたか!?」
「我輩たちは魂を喰らおうなどと――待て。そなた今、かぼちゃの化け物と!?」
クリストファーの問いかけに、戦士が兜の向こうで訝し気に目を細めた。
「白を切るつもりか?」
「そうではない! そなたがかぼちゃの化け物と対立しているならば、我輩たちとそなたの敵ではない!」
「何……!?」
戦士が動揺する気配を見せた隙をついて、ラッセルが後ろから戦士に飛びかかって羽交い絞めにした。そのまま強引に、クリストファーから引き離す。
「貴様……!?」
「待て待て待てって! とりあえず話する前に武器しまえって、なっ!? クリストファーも!」
「そうだな。すまない」
クリストファーはカトラスを鞘に収め、何も持っていないことを示すように両手を広げて見せた。すると戦士が、「離せ」と落ち着いた声音でラッセルに告げる。
大丈夫そうだと判断してラッセルが手を離すと、戦士もまた剣を納めた。
「お前たちは敵ではない、と言ったな。その言葉の意味を聞かせてもらおうか」
「うむ。実は――」
「……なるほど」
クリストファーの一連の話を聞き終えた戦士が、腕組みして短く唸り声を漏らす。
「あのかぼちゃどもは、貴公の故国の敵だったのか……。知らず大変な無礼を働いたこと、どうか許してほしい」
「しょうがねえって。襲われて気が立ってるところに、俺たちがいきなり乗り込んじまったわけだし」
「うむ、こうして誤解も解けたことであるしな。……して、戦士よ。この島は、お化け兵に?」
「少し前から、何度もな」
苦々しげに息を吐いて、戦士は鞘の先端を地面に突き立てた。 遠い日を懐かしむように墓地を見渡す眼差しの先に、うすぼんやりとした青い炎のようなものがいくつか浮かび上がる。
「うおっ、人魂だ」
「奴らはこの墓地に眠る、同胞たちの魂を喰らおうとしているようだ。……戦いの果てに倒れた彼らには、地の底で憩う権利がある。それを邪魔させるわけにはいかん」
……戦えるのは、あんただけなのか?」
「ああ。……しかし、いつまで持つか」
戦士が突き立てた剣の柄を握る手に、かすかに力を込めるのがわかった。その手をじっと見つめていたラッセルは、ふと首筋にぞわりとする感覚を覚えた。
空を見上げる。
雲が増し、翳っていく月夜を背に、島を目掛けて降ってくる影がいくつもあった。不気味な緑の炎を内側に灯し、突き出た二本の腕には巨大なフォークとナイフを握ったカボチャの化け物たち――お化け兵だ。
兜の奥の戦士の目がギリリと細められ、その手が剣を抜き放つ。
「来たか。だが、あれほどの数とは……!」
「このタイミングであいつらが来たのも何かの縁だろ、俺たちも手伝うって! だろ、クリストファー?」
「うむ。……戦士よ、一つ頼みがある。この場を切り抜けた暁には――」
クリストファーの言葉を遮るように、戦士は剣を横に掲げた。
「共に来い、というのだろう? 化け物どもの元を断つためとあれば、応じよう……!」
剣を構え、戦士はお化け兵の群れへと飛び込んでいく。
明けましておめでとうございます、風雅です。
桜井ラッセルさん、ガイドへのご登場ありがとうございました。
お化けの国、第五幕のおとどけです。
これまでのシナリオにご参加いただいた方はもちろん、今回からの方もぜひぜひご参加ください。
「今回までの間に、いつの間にか船に乗っていた」「実は前回から乗ってたよ」といったアクションももちろん大歓迎です。
このシリーズについて
本シリーズは 幽霊猫とお化けの国を起点とするシリーズシナリオです。
おばけの国『ゴーストリア』で起きた異変の影響で、ゴーストになってしまった皆さん。もとに戻るにはゴーストリアの異変を解決する必要があり、それには各地でゴーストたちを仲間にすることが不可欠です。
ゴーストリアの王子、幽霊猫のクリストファーと共に、各地でゴーストを仲間にしながらゴーストリアの異変解決を目指す――というのが本シリーズの概要となります。
概要
第四幕にて人魚のアマキを仲間にした『クイーン・ラグドール号』は、古い時代の城塞が遺る島へとやってきました。
島に居るゴーストは、軽鎧を纏った戦士が一人。
彼はこの島に葬られた同胞たちの魂をお化け兵から護るため、一人戦っていたのでした。
そしてラグドール号が到着した、その夜も――。
今回の敵はお化け兵。初回シナリオ以来の登場となります。
ハロウィンのカボチャに手が生え、武器を持っているような姿をしています。
ナイフやフォークのような武器でなぐりつけてきたり、口から緑の炎を吐き出して攻撃してきます。
お化け兵は大勢おり、個々の強さも初回シナリオから増しているようです。
また今回のお化け兵は、島の墓場に眠る魂たちの捕食を優先しているようです。
本シリーズの特殊ルール
本シリーズでは、幽霊船の影響によって参加者の皆さんはゴーストとなっています。
ゴーストには以下の特徴があります。
<ゴーストボディの特徴>
・空を飛べる
・物体をすり抜けられる
・生身の人間や生物に憑依できる
・任意に姿を消したり出現したりすることができる
・夜になるにつれて力が増し、昼になると力が弱まる
・ろっこんも使用可能(上記の特徴に似た能力の場合、より強力になる)
・霊体に対しても「物理的に干渉するろっこん」が通用する状態になる
※種族「あやかし」の幽霊とは、使用可能な能力などが異なる場合があります。
※あやかしも、このシナリオには問題なくご参加いただけます。
幽霊は、大きな変化はありませんが、火の玉や冷気を出す能力、ポルターガイストが強力になったり、
憑依能力が使えるようになったりすることもあるようです。
妖怪・付喪神は、ゴーストボディになります。特殊能力などはそのまま使用可能です。
>あやかしとは
NPCについて
・クリストファー
お化けの国『ゴーストリア』から来た、幽霊船『クイーン・ラグドール号』を駆る幽霊猫。
剣と銃の幽霊を手に前線に切り込むのはもちろん、ラグドール号の大砲なども駆使してお化け兵と戦います。
・メモワ
人形島から一行に加わったゴーストドールたちのリーダー。
見た目はフリルたっぷりの洋服を着せられた西洋人形ですが、周囲の物体を操る、髪を伸ばして拘束するといった強力なゴーストパワーを操ります。
仲間のゴーストドールたちと共に、墓場の守りをメインに動きます。
・ピエロ
遊園地の廃墟で仲間になったピエロ。言葉は発しませんが、身振り手振りがうるさいです。
風船で作った武器やパントマイムを用い、お化け兵たちに向かっていきます。
・アマキ
入り江で仲間になった人魚です。戦闘能力はありませんが、ゴーストパワーを歌声に乗せることで癒しの力を発揮します。
喉に負担がかかるようで頻繁には歌えませんが、戦場全域に強力な回復効果をもたらすことができます。
・戦士
軽鎧を纏った戦士です。同胞たちの魂を護るため、剣を手に果敢にお化け兵たちに向かっていきます。
今回ほどの数は初めてなものの、お化け兵たちを何度か一人で撃退している確かな実力の持ち主です。
なお死後長い年月が過ぎる間に、自分の名前は忘れてしまったようです。
その他、登録済みのNPCなら、特定のマスターが扱うキャラクターを除き、基本的に誰でも登場可能です。
また、Xキャラクターも登場可能です。
口調などのキャラクター設定は、アクションに記載してください。
Xキャラ図鑑に書き込まれている内容は、そのURLだけ書いてもらえれば大丈夫です。
NPCやXキャラクターも、ゴーストになってしまっているかもしれません。
いっしょに冒険を楽しんでください。