全てを覆い尽し押し潰す砂の底を、その船は行く。
砂の底に光はない。風はない。あるのは唯、那由他の砂ばかり。
潜れば潜るほど重く圧し掛かり、浮かび上がるを拒絶して押し包み圧殺に掛かる砂を逆に押しのけ、船は進む。
砂の暴虐から船を護るのは、艦底から伸びあがり絡み合い、艦全体を覆う火焔の色した鎖の如き蔦。
不可思議の力持つ火焔の蔦に護られ、光無き砂の底に雷鳴じみた紅い火を撒き散らし、音さえ潰す星雲の如き砂礫を軋ませ鳴らし、船は砂中を進み征く──
◆◆◆◇◇◆◆◆
第三階層に広がる大農場を過ぎてその先、壁の如く立ち塞がる山と深い森を越えるには、徒歩では辛い。
「ちょい休憩しよかー」
徒歩では辛いその道を、だから
服部 剛たちは翼持つ妖精たちの力を借りて越える。道を案内するのは、大農場の主であり水瓶座のアステリズムでもある
リア・トトの家系に永く仕える翼持つ老いた白馬。
「黄金砂漠見えて来たし、土の竜さんのとこまでもうちょいやで」
彼らが目指すは山脈と深い森を越えた先に広がる黄金砂漠の更に奥、砂からその顎だけを覗かせ命果てた『土の竜』。死して鉱山の如く成り果てた巨大な竜の胎内に存在する『絢爛たる土の都』、――その都にただ一人と一匹で住まう、土の精霊の仔テレノと竜の仔ユラン・シエロのもと。
竜の胎内の子どもたちを慰めるべく、
リア・トトからは大量の野菜や果物を持たされている。
一行が森の出口に翼を休め、森の先、金色に視界を埋める砂漠を見遣った、そのとき。
黄金の砂を螺旋に弾き、巨大な火焔が砂漠に噴き上がった。
「なッ……」
『……これは珍しい。砂中より彼らが出るは幾年振りか』
言葉を失う剛に、翼持つ老馬が頭に直接声を届ける。
小山じみた巨大なそれは、紅く燃え上がる蕾のかたちをしていた。
「あれが何か、知っとるんか」
『土の精霊達が己が祖の罪を引き受け都ごと土の竜に呑まれる直前、彼らと袂を分かった者達だ』
黄金砂の大地から乾いた蒼穹へ、紅く輝く雷樹が一筋立ち上がる。目を射る一瞬の光の直後、空気を地面を震わせ、轟音が地を這った。衝撃波じみた荒ぶる風が砂漠の砂を纏い襲い掛かる。
「こっちや! アルスの傍に、早う!」
陽の光さえ巻き込み雪崩寄せる砂の暴風を左右色の違う白と黒の瞳に捉えた瞬間、剛は声を張った。老馬の頸を抱き込み、旅の仲間を集める。傍で翼を畳む相棒、黒鉄竜アルスの影に身を寄せる。
「頼むで、相棒!」
アルスが短く鳴き、鋼鉄の盾にも似た翼を広げた瞬間、――風が来た。
ゴッ、と殴りかかって来た暴風が他の全ての音を掻き消す。草木を、深遠たる静かな森をも何もかもを薙ごうとする砂風が吹き荒ぶ。
『魔術にも近き卓越した技術で以て彼らは砂中に潜る船を造り、故郷たる都が土の竜に呑まれるよりも先に地上より消えた。広大な黄金砂漠の底を彷徨う砂塵の民となった』
吹き荒び、通り過ぎる。
『彼らは、自らをこう呼ぶ』
後に残るは、風に引き千切られた花々や裂かれて地に落ちた梢、風にさらわれて方々に散った誰かの荷、通り過ぎて尚ごうごうと唸る風の群。暴風の残党に白い馬身と翼を打たれるがまま、翼持つ老馬は嗄れた声でその名を囁く。
『砂賊』
それを包んでいた火焔のかたちした蔦が、まるで蕾を開くが如く解け行く。紅い花弁を咲かせるように黄金砂漠に広がった火焔蔦の央には、そう呼ぶにはあまりにも巨大な『船』。
「戦艦や……」
周囲の妖精や仲間を守ったアルスの頸を抱きしめ労いつつ、剛は呟いた。――と。
戦艦で言えば艦橋の位置、窓らしき硝子が窓枠ごと内側から吹っ飛んだ。
「何や?!」
窓を蹴り破り艦橋の外枠に飛び出して来たのは、片手に白刃、片手に短銃を手にした、遠目にも目立つ派手な容貌した赤髪の女。
「化け物如きが、――舐めんじゃないよ!」
青空によく通る声で吼える女のその髪が本来は白であること、今は夥しい血の赤に濡れていることに気づき、剛は唇を引き結ぶ。
破れた窓のその奥、うぞうぞと蠢く濃紫色した鰭と巨大な顎持つ魔物の群れが見えた。土塊で出来た鮫のようなそれを、以前に見たことがある。
「
『竜の尖兵』……!」
『おそらく君たちに滅せられるより先、土の竜の顎より砂中に潜ったか。そして空腹に耐えかね砂賊の船を襲ったか』
魔物の群れに艦内に侵入され、あまつさえ司令部たる艦橋を占拠されても何のその、砂賊の女はその場に足を踏ん張る。艦橋内に向け銃を放つ。
「お頭! 奴ら第二甲板の船尾に穴開けて入って来やがったんだ! 隔壁下ろしちゃいるが、艦橋まで侵入されたってことはきっと居住区の奴らももう全滅してる、もう駄目だ、沈んじまう……!」
割れた窓から這う這うの態で脱出してきた白髪の痩せた男が喚きたて、女の腰にしがみつく。
「崖っぷちで弱音吐くんじゃないよ! あと船長とお呼び!」
その男を蹴たぐり倒し、女はいっそのこと陽気な声で言い放った。そうしてから、砂漠の際に立つ剛たちを視界の端に認める。肩越しに視線を投げ、――誘うように、笑う。
「ちょいとそこの兄さん方! 初めましてで悪いけど手ェ貸しておくれ、仲良く魔物退治と行こうじゃないか! でなけりゃ魔物引きつれて船ごとトト家に突っ込んじまおうかねェ!」
こんにちは。ガイドをお読みくださいましてありがとうございます! 阿瀬 春と申します。
今回は、第三階層の物語をお届けにあがりました。
ガイドには服部 剛さんにご登場いただきました。ありがとうございます!
もしもご参加いただけるのでありましたら、ガイドに関わらず、どうぞご自由にアクションをお書きください。
『竜の尖兵』
●『竜の尖兵』について
砂上を這い、時に砂に潜り、時に跳躍して襲い掛かっている鮫のかたちした魔物です。大きな顎で何でも齧ります。濃紫色の鰭に触れると身体がしばらく麻痺して動けなくなります。
(以前、『【第三階層】竜の肚には土の都』に出て来ていますが、目を通していただかなくとも問題ありません)
以下、出現箇所です。
〇艦橋
艦橋外の僅かな柵内、正に崖っぷちな位置に『船長』と数人の部下たちがいます。全員負傷者、武器もほとんど尽きて正に崖っぷち状態。
伝声管に操舵輪に羅針盤等が配置された船の頭脳部には、小型の鮫ほどの大きさの竜の尖兵が五体、入り込んでいます。多少負傷していますが、まだまだ元気に大暴れしてご飯を求めています。近づくと齧られます。
〇第二甲板(居住区)
艦橋真下の第一甲板の扉から入ることが出来ます。
煤けた色の道管が血管のように入り組んで走る通路を経て、土と砂と鉄で出来た複雑な迷路じみた町に出ます。
町の中空を複雑怪奇に渡る石橋を渡ったその先、第三甲板へ続く巨大な横穴がありますが、今は石と鉄の隔壁で閉ざされています。隔壁の向こう側からは、ごん、ごん、と激しい打撃音。隔壁は歪み、今にも竜の尖兵たちに破られてしまいそうです。
武器を手にした兵士たちが隔壁前の広場や町に散見されますが、皆負傷しています。兵士たちに倒されたと思しき竜の尖兵の死体が何体か転がっています。
町の住人は各自扉や窓を閉めて立て籠もっているため、石と鉄の町には隔壁が壊されて行く音ばかりが不気味に響いています。
(隔壁の向こうには象ほどの巨大な『竜の尖兵』が一体、小型の鮫ほどのものが三体います)
登場NPC
〇『船長』
白髪金眼の女。見た目は三十代前半、刀と短銃を持っています。司令部である艦橋が魔物に占拠されたため、生き残った船員と共に艦橋外の通路で応戦中。
魔物を倒せば、砂中に発見した珍しい鉱石等の報酬をくれたり、『船』内の案内をしてくれたりしそうです。
〇翼持つ老馬
永く生きているため、第三階層の故事・伝説に詳しいようですが、爺なので忘れていることが多々あります。
一人二人であれば背に乗せて翼で飛ぶことは可能です。戦闘能力は皆無です。
※アクションによっては第三階層アステリズムのリア・トトも出てくるかもしれません。が、今は現場から遠く離れた農園で何にも知らずのんびり畑仕事中です。
星の力
星幽塔にいると、星の力 と呼ばれる光が宿ります。
★ 基本的な説明は、こちらの 星の力とは をご確認ください。
星の力やその形状は、変化したりしなかったりいろいろなケースがあるようですが、
このシナリオの中では変化しませんので、このシナリオではひとつだけ選んでください。
ひとともれいびにはひとつだけですが、
ほしびとには、第二の星の力(虹)もあります。
★ 虹についての説明は、こちらの 第二の星の力 をご確認ください。
アクションでは、どの星の光をまとい、その光がどのような形になったかを
キャラクターの行動欄の冒頭に【○○の光/宿っている場所や武器の形状】のように書いてください。
衣装などにこだわりがあれば、それもあわせてご記入ください。
衣装とアイテムの持ち込みについて
塔に召喚されると、衣装もファンタジー風に変わります(まれに変わってないこともあります)
もちものは、そのPCが持っていて自然なものであれば、ある程度持ちこめます。
※【星幽塔】シナリオのアクション投稿時、作物・装備品アイテムを所持し、
【アイテム名】、【URL】を記載することで、
シナリオの中で作物(及びその加工品、料理など)・装備品を使用することができます。
※URLをお忘れなく!!!
※オーダーメイド装備品についてNew!
鍛冶工房のトピックを経る(またはシナリオなどで得る)場合のみ
アクション冒頭で指定した星の力とは別に、装備品固有の《特殊効果》が認められます。
アイテム説明欄に、トピックでの完成時の書き込みURL・シナリオ入手時のURLを記載してください。
例:http://rakkami.com/topic/read/2577/2116
それではっ、みなさまのご参加をお待ちしております。どなたさまもどうぞお気軽にー!