九夜山にある寝子温泉。
夜の闇に紛れ、その場に降り立つ一つの影があった。
「候補地の一つだったが……ふむ、思った以上に良い場所だ。喜べ……我に選ばれるのだからな」
そう言うと黒いローブを身にまとった男――ディガードは温泉に向かって手をかざす。
すると蒼い巨大な魔法陣が出現した。続けざまに冷気が吹き荒れ温泉を凍り付かせていく。
それは寝子温泉全体に広がり瞬く間に寝子温泉は氷漬けとなって巨大な氷塊に包まれてしまった。
「やはり水が多いと凍らせるのに手間は取らずに済む」
すっと凍った温泉に降り立つと入浴中だったのであろうあられもない姿で凍っている女性の前に立った。
女性の入った氷塊は明滅しており、緑色のエネルギーの様な物が吸い上げられてどこかへと運ばれている。
それを目で追ったディガードはゆっくりとした足取りで寝子温泉の中へと入っていく。
戸をくぐり脱衣所を抜けた彼はロビーに出るとそのままその中心に手をかざした。
「さあ、顕現せよ……我が凍てつく下僕よ。終わりなき氷河の夜を与える魔よ……!」
彼はそう唱えると巨大な氷柱が床を突き破る様にして出現した。その氷柱の中心には胸の大きな女性が一糸纏わぬ姿で眠る様に入っている。
光が溢れる様に氷柱はひびが入り砕け散る様に割れると女性がすたっと降り立つ。
ゆっくりと目を開け、女性は緑色の目でディガードを見つめる。
「主殿、私を目覚めさせたという事は……この世界を、手中に収める時が来た、ということでしょうか?」
「そう取ってもらって構わん。だが問題は山積みだがな」
「ほう、主殿程のお方が。それは今のお姿と関係があるのでしょうね、私もこの様な貧弱な人の身体ですし」
「そうだな。ここに顕現する以上、我らは本来の姿を撮る事ができない。とはいえ……そのような状況も改善するつもりだが」
手近にあった浴衣をひっつかむと女性はそれを纏う。
彼女はディガードの前に膝まづき、頭を下げた。
「このレグオル、再び貴方様の剣となり、盾となりましょう。何なりとお申し付けを」
「頼むぞ。お前の戦闘力には期待している」
「そこまでだぁッ! 俺がここにいる限りは、貴様らの好きにはさせんっ!!」
「ふむ……余計な面倒な奴がここにいたようだな」
彼らの前に躍り出たのは白いスーツを身に纏った寝子島のヒーロー『ザ・ストレイト』こと
風雲児 轟であった。
彼は戦闘態勢を取り、いつでも飛び出せるような構えを取っている。
ディガードは溜息交じりで背を向け、女湯の方へ入っていった。
それを追いかけようとする轟であったがその前にレグオルが立ち塞がる。
「主様の邪魔はさせません。ここを通りたくば、私を屠るといいでしょう。ですが……貴方にできるとは思えませんが」
「そんな事、やってみないとわからな――な、なにぃッ!?」
飛び交った彼は驚愕する。レグオルと打ち合う瞬間、彼の姿はザ・ストレイトから元の姿、
風雲児 轟へと戻っていたのである。
身体能力向上の効果はなくなった拳はいとも簡単にレグオルに受け止められてしまった。それだけ力を込めようともびくともしない。
「わかりましたか。今のあなたでは……私に勝つことはできません。諦めてください」
そう言うとレグオルは轟を片手で持ち上げそのまま投げ飛ばす。放られた轟は机や椅子を破壊しながら床に叩きつけられた。
仰向けに倒れ、まだうまく立つことができない轟にレグオルは背を向けディガードのあと追おうとしたが背中からの声に立ち止まる。
「誰が……諦めるかよ、例えッ! 力を失おうともッッ! 俺はヒーローなんだよ、ヒーローは……諦めちゃいけない」
「バカですか。力がないヒーローなど、ただの人間も同然。それでも……あなたは立ち上がる。理解に苦しみますね」
「へっ、言ってろよ。お前らみたいな奴には……一生かけてもわかりゃしないさ」
床を蹴り、瞬時に轟へ近づいたレグオルは彼に膝蹴りを打ち込む。区の字に曲がった轟の身体を掴み壁に勢い良く叩きつけた。壁が衝撃で窪み、轟の口から血が吐き出される。
「うぐぅああっ! がはっ!」
「わからなくて構いません。あなた方の思考は理解不能。正直、無駄の塊です」
空中へ轟を放ると飛び上がりレグオルは一回転して勢いをつけたかかと落としで彼を地面へ叩き伏せた。
動かない轟を見てレグオルは背を向け再び歩き出す。だが。
「……待てよ、まだ、俺は……死んじゃいねぇ、ぞ……ッ!」
レグオルが振り向くとそこにはふらふらと立ち上がる轟の姿があった。彼は立っているのもやっとの状態であるというのにその眼差しは真直ぐにレグオルを見ていた。
その目に戦士を感じたレグオルは空気中の水分を集め、氷の戦斧といった様相の蒼いハルバードを顕現させ右手で掴んだ。その先端を轟に向ける。
「その目……あなたはどうやら根っからの戦士のようですね。わかりました、戦士には……敬意を表し、戦士としての死を……与えましょう」
「やってみろよ、俺は……まだ折れちゃいねぇッ! うぉおっぉおおおーーーーッ!」
お互いに二人突進した。激しくぶつかるハルバードと轟の拳。ハルバードと拮抗しあうその轟の拳には白いスーツが手袋の様に纏われ輝いていた。
それを見たレグオルは信じられないといった様子で目を見開く。
「どういう事でしょうか。あなたの力は、今は消失しここでは使えないはず……」
「知るかよぉォっ! 俺はァっ! ヒーローだからなッ! ヒーローは心が折れない限り、絶対にぃッ! 負けやしねぇんだよぉおおおッ!」
◆
「ということで今度は寝子温泉が氷漬けにされてしまったのです! 近づこうにも周囲には氷属性のゴーレムが多数いてなかなか近づけません。なので……わぷぅっ」
「そのゴーレムを陽動部隊の方へ引きつけ、厳選した精鋭部隊で敵の本陣を一気に叩く。だがやっかいな事に特殊なフィールドがあって俺達のろっこんが非常に弱まってしまうようなんだ」
ばたばたともがくちーあを軽く抑えつけ資料をホワイトボードに広げ、要点を説明していくのは
八神 修であった。
彼によればろっこんを弱めているフィールドの発生源は男湯の方にありそれを裏から攻めて破壊する部隊と破壊後、突入する部隊が必要だという。
それを聞く一同に説明を八神が続ける最中、一人の少女が戸を開けて走り出して出ていく。
少女……異世界の勇者であるナディスが走り去ろうとしたその時、ちーあの仲間であるイヴァがその背中を引き留めた。
「ちょっとっ! 一人でどこに行こうというんですか!」
「放してっ! だって、だって師匠がッ!」
「師匠? 轟さんの事ですか? 轟さんが……何か?」
「師匠、疲れを取るには温泉が最高だって今日、誘ってくれたの。でも私は装備の新調があったから後から行くっていった……そしたら寝子温泉が氷漬けに! だからいかないと師匠が! あの人、ろっこんが弱くなっていても絶対に立ち向かっちゃう! だから私も早く師匠の所に!!」
すぐにでも走り出しそうなナディスを何とか引き留めると彼女を落ち着かせるように静かにイヴァは話す。
「だったらなおさら焦ったら負けですよ。いいですか、師匠である轟さんは例え力を失っていても、敵に負けるような人ですか?」
「……ううん、負けない。師匠はどんな時でも諦めないから」
「ですよね、それなら準備をしっかりと整えてみんなで助けに行きましょう、ね?」
「…………うん、わかった」
涙ぐみ今にも泣きそうなナディスはごしごしと自分の目を腕で拭うと九夜山の方角を仰ぎ見た。
「待っててね、師匠……絶対に、助けに行くから!」
そう言うとちーあから手渡された包みをナディスは握り締めたのであった。
お初の人もそうでない人もこんにちわ、ウケッキです。
寝子島町役場に続いて、次に狙われたのは寝子温泉!
絶対零度の冷気により氷塊に包まれてしまった寝子温泉を取り戻せるのは皆様だけです!
また、このシナリオでは通常よりもろっこんが強力に描かれる場合があります。
風雲児 轟さん、八神 修さん、ガイド登場ありがとうございました!
これ以外のアクションも勿論大丈夫ですのでよろしくお願い致します。
◆勝利条件
ディガードの撃破
レグオルの撃破
◆敗北条件
寝子温泉従業員、使用客の死亡。
ちーあの死亡。
◆場所
寝子温泉
:周囲を氷のゴーレムによって防衛されている状態。
寝子温泉内部ではフィールドを発生させている氷柱を破壊するまでろっこんが超弱体化する。
正面玄関
:3メートルの特殊な氷のゴーレム『ギガントゴレムス』によって守られている。
中央ロビー
:冷気により極寒の地となっている。いるだけで体力が消耗される。
男湯
:ろっこんを超減退させるフィールドを発生する氷柱がある模様。
女湯
:ディガードが鎮座している。
◆予測される敵
氷のゴーレム
:大きさは2メートルほどでダイアモンド並みの硬さの氷の装甲を持つ。
常に冷気を発している為に生半可な炎攻撃では役に立たない。
動きは緩慢でゆっくりしているがその力は太い木すら一撃で粉砕するほど強力。
ギガントゴレムス
:巨大な氷のゴーレム。基本的には氷のゴーレムと同じだが両の手に氷の魔法を放つ篭手を装備している。
近づけば近づく程に冷気が強くなり、彼の周囲では徐々に体力が失われる。
動きは遅い。
氷の不浄霊
:男湯に漂う怨念の塊。女性を発見するととりつき、淫らな夢を見せて心を侵す。
心に侵入された人物は霊の支配下に置かれ、新たな獲物を淫らに襲う存在とかしてしまう。
実体があるので物理攻撃が有効。
レグオル
:氷のハルバードを振るう女性の戦士。その身には常に冷気を纏っており炎を完全に無効化する。
当人の戦闘能力も高く、素早い剣戟と格闘能力を併せ持つ。
魔法の類は使用できないが彼女の放つ冷気により、近くによればよる程に体力が失われる。
◆登場キャラ
ツクヨ
:とある組織に所属していた金髪紅眼の悪魔の女性。巨乳。ないすばでー。
人を殺す事に何の罪悪感も抱いておらず、寧ろ楽しみを覚える性格の戦闘狂。
どうやら悩みは吹っ飛んだ模様で絶好調。
イザナ
:ツクヨと同じ組織に所属していた黒髪の悪魔の少女。
両腕が黒い大きな異形の腕であり、そこから雷の剣を出現させたり雷をレーザー状に放って戦う雷の戦士。
なお、普通サイズの腕に変化も可能。素直になれない性格だが根は優しい。
基本的に面倒くさがりで何も事件がない時はお菓子を食べてゲームしてゴロゴロしている。
ちーあ
:異世界に皆様を飛ばす際、いろいろ問題を引き起こす張本人。
技術その他もろもろ、色んな所があと一歩足りなく、未熟。でも笑顔でカバー。
モンスターに引っかかって連れ去れたり、不意に崖から落ちたりなどはもう既に日常茶飯事。
その姿は幼く、絶壁ロリ少女である。物事に対して一生懸命に取り組むがんばり屋。
イヴァ
:ツクヨやイザナが所属する組織の副司令官だった悪魔の少女。
顔は幼いが、身体はなかなかに育っておりその色気で知らずに相手を誘惑してしまう事も。
人間の心の暖かさに触れ、ちーあや召喚者達の数回に及ぶ説得の末、組織から離反し仲間となった。
おかん気質であり、ちーあ達の頼れる保護者的な存在。
戦闘では大鎌を高速で振り回し近寄る事さえ許さない強靭な戦士となる。
ナディス
:異世界『マシナリア』出身の勇者見習いの少女。召喚者達と触れ合い、勇者とは何かを学び日々修行に励んでいる。
現在、寝子島のローカルヒーローに憧れを抱いている模様。女の子らしく振る舞えない事を若干気にしている僕っ子。
戦闘では勇者らしく魔法と剣技を合わせた技で戦う。なお、回復魔法は練習中。
◆ちーあの支給装備
一人につき、一つだけ選ぶことができる装備。
・リボルバーブレード
:リボルバー状のシリンダーが装備された長剣。剣そのものの切れ味も高いが、
トリガーを引く事で魔術炸薬を爆発させ、剣に炎を纏う事が可能となる。
なお、弾薬を全て使い果たすと30秒後に爆発する。
・ブレストさんだ棒
:ちーあの巨乳への羨望と恨みが込められた杖。使用すれば雷を操る事ができる。
だが巨乳であると周囲が認める様な者が使うと敵に雷が落ちるのと同時に自身の胸も微弱な電流に襲われる。
男が使用すると問答無用で頭上から雷が落ちる。
・スライステイル
:蛇腹状の剣身を持つ尻尾の様な長い篭手状の剣。二本で一組であり両腕にはめて使用する。
鞭のように使用する『テイルモード』と長剣状に使用する『スラッシュモード』がある。
◆予測されるルート
●Aルート『氷のゴーレムを陽動』
登場キャラ:イヴァ、イザナ
危険度:そこそこアブナイ
:寝子温泉周囲にいる氷のゴーレムを陽動し、正面玄関のギガントゴレムスを相手取るルートです。
このルートでは氷のゴーレムを大量に相手取りながらギガントゴレムスと戦う事になるので継戦能力が必要となります。
なお、寝子温泉の外で戦うのでろっこんの使用に制限はありません。
●Bルート『裏からフィールドを発生させている氷柱を狙う』
登場キャラ:ちーあ、イザナ
危険度:アブナイ
:Aルートの陽動部隊が陽動を行っている間に裏から男湯へ侵入しろっこんの使用を阻害している氷柱を狙います。
氷柱の周りではろっこんが超減退する上、氷柱はろっこんによる干渉を受け付けない為、物理的に破壊する必要があります。
男湯には氷の不浄霊が漂っている為、憑依に気を付ける必要があります。
●Cルート『ディガード、レグオルを狙う』
登場キャラ:ツクヨ
危険度:非常にアブナイ
:ろっこんを超減退させるフィールドの停止後、戦力を温存していたメンバーがレグオル、ディガード目掛けて突撃します。
強力な相手との戦闘になる為に、事前の準備、作戦を立てる事が推奨されます。