道端に並ぶ露店の店先で、頭にターバンを巻いた気さくなおじさんが、
ファ・ルーを見かけて言いました。
「おや、お嬢ちゃんかわいいねぇ。そら、こいつはおごりだ!」
「わぁ、ありがとネー。いただきまーす」
もぐもぐヨー
薄くて丸いパンに、焼いた羊肉を挟んだものをもぐもぐもぐ。もちもちのパンに、噛むたびじゅわっと染み出るジューシーな肉汁……! 食べることが大好きなルーは、何とも幸せそうなお顔です。
ここ、第七階層に横たわるアラビアン風の美しい都市は、にわかに活気づいておりました。
先日の一件で、階層を治める獅子座のアステリズムこと、美貌の女主人
レオーネ・ナジュムが、めでたくかつての情熱を取り戻したのです。おかげで街はすっかり、お祝いムード!
ターバンのおじさんもにこにこと嬉しそうに、道行く人へ気前よく料理を振る舞っているのでした。
「星幽塔、おいしい食べ物がいっぱいでうれしいネー」
「おっ。美味そうなもん食ってるな!」
もぐもぐにこにこなファルへ、通りがかりの少年が、うらやましそうに声をかけます。
「そこの坊主も、そら! レオーネさまが元気になられたお祝いだ、食ってきな!」
「いいのかい? ありがとな……けどおっさん、オレは坊主じゃないぜ!」
「オレはルーク! ルーク・ポーラスター!
いつか勇者になる男だ、覚えといてくれよな!」
どでかい目標をぶち上げた元気な少年は、旅の装いに剣を提げていて、どうやら冒険者であるようです。
「ゆーしゃアルか、それはすごいネー。もぐもぐもぐ」
「だろ? キミも何かあったら、遠慮なく言ってくれよな。勇者の心得その4、困ってる女の子には親切にすべし! ってね」
と。店先でもぐもぐもぐ、美味しいパンを味わっておりますと。
「……みなの者、建物の中へ! シムーンが来るぞ、備えよ!」
突然、物々しい空気があたりを包みます。
兵隊を連れてやってきたのは、
レオーネその人でした。彼女のかたわらには老執事のシェルタンさんや、ライオンのラサラスの姿もあります。
レオーネは住人たちへ、大声で何かを呼びかけて回っていて、何やらただ事ではない雰囲気です。
ルーク少年が、レオーネのぼんきゅっぼんっ! なナイスバディにちょっぴり目を白黒させつつも、尋ねます。
「シムーン? ってなんだい、領主さま」
「ああ、冒険者か。シムーンとは、言わば
毒の風だ。数十年に一度この地方へ吹き荒び……しまった、遅かったか!」
かつての無気力が嘘のようにあでやかな感情を表すレオーネが、焦りをにじませて空を見上げた……その瞬間に。
ぶわーーーーーーっ!!
一陣の風が、人々や家々の合間を吹き抜けていき。
なんと!
「……あいやー!?」
ルーの手の中で、しおしおしお。
あんなに美味しそうだったパンが、あっという間にかさかさのパサパサ、砂のように乾いて崩れてしまったではありませんか!
「ふぁっ、ふぁるのパンがーーー!!」
「シムーンが吹くと、
ありとあらゆる食べ物・飲み物が砂のように乾いてしまうのだ……だがおかしい、前回のシムーンからまだ十年ほどしか経っていないし、これは規模が大きすぎる。一体何が……」
「……きゃきゃきゃきゃきゃーーー!!」
奇妙な声に後ろを振り返ると、ずごごごご……! 街の中心へ突き立つようにそびえた巨大な竜巻の中に、ちょびヒゲを生やした太っちょな子ども……おじさん? とにかくそんな顔が浮かび上がって、彼らを笑っておりました。
「お前は、
ジンか!」
レオーネが、竜巻の中の顔に向かって叫びます。
「悪戯者の砂漠の精霊め、なぜ街に害を及ぼす!?」
「しらないもーん! ボックンとっても良いキブンなの、イタズラしちゃうんだもーーーん!」
どばばばば! 街のあちこちに竜巻は現れて、そのたび住民たちの、『イヤーッ、私の朝ごはんがー!?』『晩酌の楽しみにしてた俺の酒がー!?』なんて声が聞こえてきます。
「やめろーっ!!」
ルーク少年が剣を抜き放ち、ジンの顔へびしりと突きつけまして、
「食べ物や飲み物をダメにするだって? 食料が無けりゃ、旅も冒険もできやしない! 水が無けりゃ、砂漠を渡ることもできないぜ……! 勇者の心得その27、食い物を粗末にするべからずっ!!」
「ヤダもんヤダもん、ボックンやめないもーーーん! きゃっきゃっ、うきゃきゃきゃきゃきゃーーー」
ぼわん! 耳障りな笑い声を残して、竜巻は消えていきました……けれどあたりには、砂まじりの緑がかった奇妙な風が、びゅうびゅうと吹き荒んでおりました。
「……街の人々を守り、健やかに暮らしていけるようにすること。それが私の取り戻した情熱だ。今こそ、使命を果たす時!」
レオーネはきりりと口元を引き締め、心配そうに寄り添うラサラスのたてがみをひと撫でしてから、くるりと振り返ります。
「あの悪戯者をこらしめ、街に平穏を取り戻さねばならない。冒険者たちよ、力を貸してはくれないだろうか?」
ルークはぐぐっと拳を握り、気合十分!
「ああっ、もちろんオレも力を貸すぜ! 勇者の心得その12、目の前の冒険にはとにかく飛びこむべし! キミもそうだろ?」
食べることには並みならぬこだわりのあるルーもまた、こくりとうなずきます。
「食べ物がダメになってしまったら、ふぁるはお腹が空いてしんでしまうアル……フトドキモノには天誅を下すのヨ!」
かくして第七階層を救うべく、砂漠の精霊討伐作戦がここに発令されたのでした……!
「ふぁるの『ぱん打拳法』が火をふくネ!」
墨谷幽です、よろしくお願いいたします~。
ガイドには、ファ・ルーさんにご登場いただきましたネ。ありがとうございました! もしこちらにご参加いただける際は、ガイドのイメージに関わらず、ご自由にアクションをかけていただいて構いませんアルヨ~。
このシナリオの概要
アラビアン風の美しい都市を中心として成り立つ第七階層にて、ちょっとやっかいな敵と戦ったり、
お腹を空かせた住人たちへ料理を振る舞ったりするお話です。
平和な第七階層にて突如、毒の風と呼ばれる緑色の風『シムーン』を操る砂漠の精霊、
『ジン』が人々を襲い始めました。
シムーンが吹くと、この階層のありとあらゆる食べ物がダメになってしまいます。
どんなに瑞々しい果物も砂のように乾いて崩れ去り、美味しいお酒は泥水のごとく濁って、
味を失ってしまうのです……!
このままでは、住人たちが餓えてしまいます!
皆さんは、第七階層を治める女主人、獅子座のアステリズムであるレオーネの要請により、
この危機を乗り越えるべく協力することになりました。
街にはお腹を空かせた住人たちがあふれていて、食べ物を求めています。
住人たちへ、美味しい料理を振る舞ってあげましょう!
料理ができなくても、給仕などのお手伝いへ回るのももちろんアリです。
レオーネによると砂漠の精霊ジンは、どうやら都市から少し離れたところにある、
『忘れられたオアシス』を住処としているようです。
放っておけば、いつまた戻って来て悪さをするか分かりません。
腕に覚えアリな方は、忘れられたオアシスへと向かい、悪戯者なジンを懲らしめてやりましょう!
ちなみにオアシスには、ちょっとしたお宝なども眠っているかも? とのことですよ。
アクションでできること
アクションでは、以下の【1】~【3】からひとつをお選びください。
【1】住人に料理を振る舞う
食材が全て使えなくなってしまったことで、住人たちは空腹でへろへろになっています。
この階層の食べ物はシムーンによって全てダメになってしまったものの、
別の階層から持ち込んだ食材や、星の力を帯びて育った作物などは使うことができるようです。
料理が得意な方は、腕によりをかけたメニューを住人たちへ振る舞ってあげてください。
広場で炊き出しをしたり、どこかのお店の厨房を借りて本格的に料理したりと、
提供するのはどんな形でも構いません。
また、シムーンは住人たちの中でも特に星の力が弱い人々に影響して、その気力をも奪ってしまったようです。
自分で食べにくることもできない人も街中にはいるかもしれませんので、そうした人々に、
料理をお届けしてあげるのも良いでしょう。
【2】砂漠の精霊ジンの討伐へ向かう
討伐隊は都市を出発し、砂漠を渡って『忘れられたオアシス』を目指します。
道中では、ジンが作り出した『風のけもの』たちが道を阻みます。
これらは緑色の風シムーンと砂漠の砂から形作られた魔法の生き物で、大型の狼のような姿をしています。
牙や爪による攻撃に加え、風に乗って高速移動し翻弄したり、つむじ風を放って切り裂いたり、
といった技を使います。
元が風と砂なので脆いですが、非常に数が多い上に、足場がやわらかい砂漠地帯での戦いになりますので、
注意が必要かも?
ジンの根城である忘れられたオアシスは、湖のほとりに建てられた小さな町の跡で、
ずいぶん昔にシムーンが吹いた時に棄てられてしまったようです。
ジンは風を自在に操るほか、巨大化と変身の能力を持ち、さまざまな怪物に姿を変えながら襲ってきます。
巨鳥に変われば空を飛び、竜に変われば炎を吹き、鯨に変わって砂の中を泳いだりも。レパートリーも豊富です。
巨体から繰り出される攻撃は強力ですが、変身は一度でも攻撃を加えると解除することができ、
しばらくは同じ姿になることはできないようです。
【3】その他
ほか、何か別の形で第七階層の人々のために貢献できることがあれば、自由に考えていただいても構いません。
おもな登場NPC
○レオーネ
剣を掲げて自ら砂漠へ突撃しようとしたところ、執事のシェルタンさんに止められました。
今回は街の中で住人を励ましたり、皆さんとともに料理を手伝ったりすることになりました。
……あれっ、ところでレオーネさまの苦手なものってなんでしたっけ?
○ルーク
星幽塔を旅する冒険者。勇者を目指す元気な少年剣士。ジンの討伐へ同行します。
剣の腕は確かですが、熱血漢で、かなり猪突猛進気味。
お願いすれば指示には従ってくれそうですが、あまりむつかしい作戦には向かないかも。
○ステラ
生中が泥水のように変わってしまい、住人と一緒にドンヨリしています。
美味しいものを食べ飲みさせてあげれば回復しそうです。
○ジン
砂漠の精霊。ジンには炎を操るもの、水を操るもの、良いジンに悪いジンなど多種多様な種類がおり、
今回ちょっかいをかけてきたのは風を操るジンのようです。
砂漠を旅する人々に風を放って転ばせたり、竜巻を作り出して脅かしたりといった軽い悪戯をして楽しむ程度で、
本来はそれほどに悪いジンでは無かったようなのですが……?
星の力
星幽塔にいると、星の力 と呼ばれる光が宿ります。
★ 基本的な説明は、こちらの 星の力とは をご確認ください。
▼最近加わった星の力(こちらも利用できます)
・幻視の光(銀):物に宿った、作り手や持ち主の記憶や想いを垣間見ることができる。
星の力やその形状は、変化したりしなかったりいろいろなケースがあるようですが、
このシナリオの中では変化しませんので、このシナリオではひとつだけ選んでください。
ひとともれいびにはひとつだけですが、
ほしびとには、第二の星の力(虹)もあります。
★ 虹についての説明は、こちらの 第二の星の力 をご確認ください。
アクションでは、どの星の光をまとい、その光がどのような形になったかを
キャラクターの行動欄の冒頭に【○○の光/宿っている場所や武器の形状】のように書いてください。
衣装などにこだわりがあれば、それもあわせてご記入ください。
衣装とアイテムの持ち込みについて
塔に召喚されると、衣装もファンタジー風に変わります(まれに変わってないこともあります)
もちものは、そのPCが持っていて自然なものであれば、ある程度持ちこめます。
※【星幽塔】シナリオのアクション投稿時、作物・装備品アイテムを所持し、
【アイテム名】、【URL】を記載することで、
シナリオの中で作物(及びその加工品、料理など)・装備品を使用することができます。
※URLをお忘れなく!!!
以上になります~。
皆さまのご参加をお待ちしております!