燃え盛る村の中に一人の少女が立っている。死体が無数に転がる中に立っているだけで既に異常な光景だった。
半脱ぎのローブの様な服装の少女は熱を孕む風に金色の長髪をなびかせ、笑顔で村を見渡す。
「もう誰も立ってないですねぇー。自警団って……こんなものなんですぅー?」
「ひっ、ば、ばけも……」
腰を抜かし仲間の血に染まった身体を引きずって逃げようとする青年を発見した彼女は笑う。
それはもう、とても楽しそうに。狂気を浮かべながら。
「あはぁ。まだいたんですねぇー、逃げちゃ、ダメなんですよぉー。ハガル様の命令はぁー邪魔者は皆殺しですからぁー」
彼女が腕を戯れに振ると彼女の腕から血の様にどす黒い赤色の鎖が伸びる。
魔力で生成されたその鎖は真っ直ぐに彼を捕らえると少女の眼前へと連れていく。
「いや、いやだぁあぁああ、しにたくないぃいあああッ!」
「もう、そんなに怖がらないでくださいよぉー。ただ私は――――」
数十本もの魔力鎖が彼を取り囲む様に広がり……その身を貫いていく。
一度ではない、悲鳴をあげさせながら何度も、何度も、何度も……その身を貪っていく。
おびただしい量の血液が辺りに撒き散らされた。
「いぎゃぁっ!? ひぎぃいいうあああぁあああああああああーーーーーッッ!?」
「あひゃぁ……いいですねぇー。もっといい声で啼いてくださいねー」
魔力鎖によって空に浮かべられた肉片を幾度も穿ちながら、彼女は狂気の笑いを浮かべた。
そんな彼女の背後に現れたのは、騎士を思わせる甲冑の様な物を全身に纏った者であった。
「ああ、やっと出てきてくれたんですねぇ。異骸に認められ、それを纏いし者……聖骸者。待ちくたびれたツクヨはぁー、あなたの為にぃー、みぃぃーんな、殺しちゃいましたよぉー」
「これはお前がやったのか……」
「はいー? なんでしょぉー?」
彼の目線はツクヨの足元に転がる物言わぬ肉片となった村人へと向けられていた。
(ウィル、落ち着くのじゃ! こやつ、怒りに任せて勝てる相手では――――)
「これは……お前がやったのかと聞いているんだぁーーーッ!」
頭に直接響く少女の言葉を完全に無視し、彼は怒りのままに走り出す。
鞘から剣を抜く様に手の平から引きだした長大な剣を振るい、騎士は眼前の彼女に襲い掛かった。
魔力鎖が何本も纏められバツの字に交差、剣を受け止めて火花を散らす。
「あひゃぁっ! いいですよ、いいですねぇー! 聖骸者……いえ、ウィル・リベリオン。愚かでぇー可愛いですよぉー!」
がきんっと剣を弾かれ、無防備となった騎士風の男――ウィルはその胸部を鎖で貫かれた。
「がふっ……な、ん……」
「さよならですよぉー、憐れな、憐れな……聖骸者」
「ぐあああぁあああああーーー!」
紫の光が鎧の隙間から噴き出した直後、勢いよく鎖が引き抜かれ……激しい血飛沫を胸部から撒き散らしながら彼の命の炎は消えた。
そこで映像は途切れ、世界は白に包まれていった。
彼らは何度目のもしくは初めての感覚に浸されながら、世界に意識を溶かしていく。
――。
――――。
気が付くと彼らは村の入り口といった場所に立っていた。
建物の配置を見る限り、ここは燃えていた村と同じ場所であっているらしい。
「すいません、またもや転移時間をまちがえてしまいました! ごめんなさいなのです、ごめんなさいなのです!」
「ま、そういうこともあるって。要は、いつもと同じ様に重要人物を助けて……事件解決すればいいんだよな?」
申し訳なさそうに謝り倒す少女、ちーあの頭を撫でながら
風雲児 轟はポケットから飴を取り出し手渡した。
ちーあはそれを受け取ると包みを開け、美味しそうに頬張る。ころころと口の中で転がしてはその甘さを堪能しているようだ。
「むふー、ほぉれででふねー、ほんはいのもふへひはー……」
「説明する時は飴を一旦、頬の方へ逃がしてからだと喋りやすいわよ?」
尾鎌 蛇那伊は飴と戦いながら喋ろうとしているちーあを見かねてか、飴を吐き出さずに喋れるやり方を教える。
そのおかげでちーあはなんとか判別可能な言葉を喋りだした。
「今回の、目的はー……『ウィル・リべリオン』っていう方の保護ですー」
その場の全員が聞く姿勢を取っているのを確認したちーあは話を続ける。飴を味わいながら。
「しっている方もいるかもしれませんが、ある重要物資を列車でいそーちゅーにリベレイターの襲撃を受けた事があるのです。そのこと自体は皆様の活躍もあって、防ぐことができたのですが……」
「……何かあったのか?」
「まあ、リベレイターって連中がただで諦めるとは思えないものね」
「げんみつにはー違うのです。何もなかったんですけどー……この村に運び込んだ重要物資の一部『異骸』が消えちゃったのです、跡形もなく」
壁に背を預けながら尾鎌はちーあの方を向く。轟も同じように聞きたいことがあるようだった。
「ちょっと待って……未来のあの光景を防がなくてはならない、それはわかったわ。でも異骸が消えた事とウィルに何の関係があるのかしら?」
ちーあは少々悩んだ表情浮かべるとその問いに答えた。
「実は……観測データの反応を見る限り、異骸は適合者であるウィルと融合してしまって取り外せない状態みたいなのです。しかもリベレイターのツクヨという人物は諦めずに異骸を狙っているようなのですー」
「そうなるとウィルの保護と彼を狙うリベレイターのツクヨの撃退……その二つが今回の達成条件なのね?」
「そういうことなのですよー」
轟と尾鎌はちーあ先導で村を歩き始める。
「一体どこにいるのかしらね、そのウィルって子」
「村の人達に聞いて回るしかないですねー、ウィルは温厚な方っていう情報は得ているので見つけてじじょーを話せば協力してくれるはずなのです」
「あの……ウィルをお探しなのでしょうか?」
「そうだけれど、あなたは?」
いかにも村娘といった見た目の茶髪少女がぺこりと頭を下げる。金色の小さな月の形をしたイヤリングが合わせて揺れる。
「申しおくれました、私はルナって言います。ウィルとは幼馴染みで、よくいなくなる彼を探しているんですよ」
「よくいなくなるのです?」
「そうなんです、探究心が強くて……気になる事があれば、経営している道具店をほったらかしでどこかへ行ってしまうんです」
「なるほどーそれはこまったさんですねー」
「もしよろしければ、一緒に探しますか? ある程度の目星はこのメモにまとめていますので」
見ればそれは年季の入った羊皮紙で、ウィルの居場所メモと書かれていた。
「こんなのが必要なくらいいなくなるって、ルナさん苦労してるんだな……」
「あはは……はい、苦労の連続です」
笑いあうルナと轟を見ながら尾鎌は鼻に突く何かの匂いに気がついた。
微かなものであるそれは気のせいかもしれないが。
(血の匂い……まあ、小さな村だし食事用の動物も自分で捌いたりするのかしら?)
いまは気にしないようにし、尾鎌は皆と共にウィルの捜索に赴くのであった。
お初の人もそうでない人もこんにちわ! ウケッキです。
機鋼世界マシナリア、シリーズの二話となります。
今回からリベレイターが徐々に動いてきますよー。
彼らの思惑、狙っている事柄……さて、事態はどうなっていくのでしょうか。
下記に記されている情報は事前にちーあから聞かされているという事となります。
全く知らないという雰囲気で、突如戦闘中に召喚されたという感じでもOKです。
村に運び込まれた重要物資の一つ、異骸を偶然にも適合者であったウィル・リべリオンが入手してしまいました。
融合してしまった以上、もう取り外す事はできません。
彼をいち早く発見し、同じように彼を捜索していると思われるリベレイターのツクヨを撃退する事。
これが今回の達成条件となります。
未来の映像を見る限り、ツクヨはかなりの実力者です。
何の策もないまま挑めばまず、勝ち目はありません。
ツクヨはちーあ達よりも先に村に来て捜索を開始していますので、
村を調べたり、ツクヨに関しても村人に聞けばなにかしらの目撃情報や苦手な物のヒントがあるかもしれませんよ。
※このシリーズのみ、ろっこんが強力になって描写される事があります。
■登場人物
ウィル・リべリオン
:重要物資『異骸』に適合し融合した人物。行方不明はいつもの事らしく、村のどこかにいるようだ。
理由は不明だがリベレイターも彼を狙っており、彼らよりも先に見つける必要がある。
普通の村の青年で普段は道具屋をイザナミと共に営んでいる。
仕入れも自前でこなしているゆえか、コミュニケーション能力は高く、また危険察知能力も高い。
イザナミ
:ウィルの隣にいつも浮いている謎の小人の女性。黒髪で黒い着物を着ている。
サイズ的には手の平サイズだが、数分なら人間サイズになれるらしい。
性格的には用心深いのだが、飯の事となるとそれを最優先にする所がある。
ルナ
:村の少女。物静かな印象でウィルが行方不明になる度に捜索している模様。
笑顔を絶やさない少女だが、その目は笑ってはいないようだ。
ちーあ
:ある人物に頼まれて皆様を異世界に放り込んだ人物。
基本的には人畜無害な少女。どじっこ属性があり、厄介ごとに巻き込まれやすい。
今回は一緒にウィルを探してくれるらしい。
ツクヨ
:未来の映像の中でハガルに命令され、村を襲った金髪紅眼の少女。
人を殺す事に何の罪悪感も抱いておらず、寧ろ楽しみを覚える性格。
リベレイターに所属しているようだがハガルに忠誠を誓っているかは怪しい所。
何よりも自分自身の楽しみを優先しやすいようだ。
■参考情報
アルッケルト村
:列車で輸送されていた重要物資が運び込まれた村。
農地以外に特に変わった特徴のない村のはずだが重要物資をどこに保管したのか不明。
更には運んでいた兵士達の所在も不明なままであるというやたらきな臭い村。
広場を中心に円形に広がる普通の村で、いくつかの商店を除けばあとは民家のみが立ち並ぶ。
重要物資
:以前、列車で輸送中にリベレイターの『イザナ』によって奪取されそうになった物。
中身の大部分は不明なままだが、どうやら古の力ある者の魂を封入した『異骸』が含まれていた模様。
異骸
:古の力ある者の魂を封入した鉱石。適合者が近づくと問答無用で融合を図る。
内部に封じられている意識が目覚めると適合者は試され、負けると正気を失い、強い者との戦いだけを求める破壊の権化となる。
■ルナのウィル捜索メモ
道具屋から出発し、方々歩いた後は疲れるのか広場で昼寝している事が基本です。
昼寝場所は噴水の裏、広場の木の上、食事処の隣にある草むらの中。
このいずれかにいます。
これ以外の場所にはいないので、きっとウィルはあたしと――――。
……最後の部分が何かで汚れており、読むことができない。
■ちーあのお助け装備
ちーあお手製の装備です。
一つだけ持っていくことが可能となっています。
余談ですが、武器の命名はちーあがしているようです。
痩身薄刃剣
:とても軽いスマートな薄刃の剣。女性でも軽々と振り回す事ができる。
鞘に納めて柄をバイクのハンドルの要領で捻ると駆動し、一度だけ高速の居合抜きを発動できる。
発動後はこの剣は崩れ去り、使用不可能となってしまう。(鞘は残る)
怪力もりもり篭手
:はめると力が湧いてくる篭手。これで殴られたらひとたまりもないだろう。
珍しくリミッターが装備されているが、着用してから5分で勝手に外れオーバーロードを起こしてしまう危険な一品。
オーバーロードするともれなく爆発する。
ボーボースプレー
:見た目はまんま虫よけスプレー。だが押すと薬剤の代わりに炎が噴射される。
射程距離はそこそこ長く5メートル程度まで届く。
入れ物の強度に不安があるらしく、連続して使用していると溶けてしまいあらぬ所から炎が出る。