雪深い雪原に鋼鉄の影がある。
それは敷かれた線路の上を走る列車だった。
だが、それは今線路の上から大きく脱線しその巨体を雪原に投げ出している。
吹雪の中で列車の屋根に数名の人影が見えた。
人影の一人が腰のバッグから弾倉を取り出し、構えているライフルの空になった弾倉と交換する。
手際よく交換し、再びスコープを覗いて遠方を監視するように姿勢を低く保った。
その人影の隣が彼に声をかける。
「あと、どのくらい持ち堪えればいいんだよ……そろそろ弾薬も底が見えてくるぜ」
「さあな。本国がこの状況に気づくまで、じゃないか?」
「はっ。気づくってのかよ。異常なしって五時間ごとの定時連絡いれたばっかだぜ?」
「気づいてくれることを祈るだけさ。どの道、持ち堪える以外選択肢は無いんだからな」
声を掛けた方の人影はヘルト・シュタール。国所属の軍人である。
軍人とは言っても階級は一兵卒に毛が生えた程度。あまり偉い方ではない。
もうひとりのスコープを覗いているのはヴァイゼ・ベトリューガー。
彼もまた軍人でヘルトと階級は同じである。
二人は今、攻撃により脱線した列車の屋根の上で警戒任務にあたっている。
「他の奴らは? まさか逃げたとか……」
「ヴァイゼ、君じゃないんだから逃げないよ。しっかり他のポイントで警戒に当たってる」
「そうかよ、ご苦労なこって――っと来たみたいだぜ、お客さんだ」
二人のスコープの照準が雪煙に混じって迫ってくるいくつかの影を発見する。
それらはゆらゆらと揺れながら中心の大きな影に追従しているように見えた。
「いいぜ、さっきと同じように全部撃ち抜いて……」
「待て! ヴァイゼッ! 何か様子が変だ!」
そういった瞬間、轟音と共に列車が揺れる。
二人は態勢を崩しながらも雪原に飛び下り、列車から距離をとった。
振り向いた彼らが見たのは黒い影によって真っ二つに両断される列車であった。
四足で馬のような下半身を持つ黒い魔物は人のような上半身に黒光りする鎧を纏い、巨大な大剣を両手に一本ずつ握っている。
近くにいたであろう数人の他の兵士達がライフルを構えて射撃するが弾かれるだけで黒い鎧に傷一つつかなかった。
薙ぎ払う様に振られた大剣が兵士達諸共雪を巻き上げて赤い雪の花を咲かせる。
「おいおい、マジかよ……見た事ないぞ、あんな魔物!」
「これはヤバいね……次の目標は――――僕らだッ!」
二人は背を向け一目散に逃げ出す。
近くもないが遠くもない洞窟の入り口を目指して。
◆
「あれが見えますねー? いいですか、今回の目的はあの列車にある重要物資の防衛とヘルスという人物の護衛ですっ」
列車を見下ろせる高い崖の上に雪山の温度に見合わない白いローブを着た少女が踏ん反り返って説明をしている。
目の前には先程の兵士達と同じ衣装に身を包んだ
八神 修と
御剣 刀であった。
二人は何やら頼りない少女に不安を抱きながらも話を聞いている。
「本来はテューアが異世界からの来訪者である貴方達をサポートするのですが、今回は手が離せないとの事でわたし、ちーあが担当するのです!」
身ぶり手振りをつけながらぴこぴこと説明するロリ少女は自信満々にいい放つ。
「事前に選んでもらったわたしの生成した武器を用いてくれれば、きっと素早く助け――」
言葉の途中でちーあの身体が傾いた。
兵士の放った流れ弾のグレネードが崖に命中し、ちーあの立っていた場所を崩したからである。
「うきゃああああああーーーッ! 落ちるぅうーーっ!?」
御剣は崖を器用に滑り降りながら撃鉄がガチリと落ちるイメージをする。
その瞬間、崩れ落ちる岩の破片よりも早く彼は駆けた。
世界の速度がゆっくりとなる中で、彼はちーあをしっかりと抱きしめて地上に着地する。
「ふぅ……助かったのですよ――って岩! 岩が落ちてきてますぅーっ!?」
「大丈夫、彼に任せておけばね」
次の瞬間、降り注ぐ岩の破片は全て八神によって跡形もなく分解された。
「ほら、ね?」
「ふわぁ……すごく、すごく驚いたのです……」
ちーあはしっかりと地面に立つと、再び仰け反って――――消えた。
「ッ!? ちーあさんはどこに!?」
「あ、あそこに!」
「きゃああああーッ! だ、誰かぁぁぁぁ降ろしてぇぇぇなのですぅううーーッ!」
見れば、下半身が馬で上半身が人型の巨大な黒い魔物が走り去っていく。
どうやら何かを追いかけている様であった。
ちーあはといえば、その魔物の背中にある突起物に引っ掛かっている。走る揺れに合わせぶらぶらと揺れていた。
二人もまた、ちーあ救出の為に走って魔物を追いかけるのであった。
◆
人馬一体の魔物が両断した列車で戦う兵士達。
彼らは魔物を追わなかったのではない、追えなかったのだ。
「くそ、撃て! 撃て! 奴をあれに近づけるなッ!」
兵士達は列車の残骸を盾にライフルを連射するがその存在には効果がないらしく、弾は全て弾かれていた。
「つまんない……もう死んで」
髪を大きなツインテール状に結い上げた少女――イザナは手をかざす。
次の瞬間、極太の雷光が兵士の数人を焼いた。
震える手で兵士はライフルを構える。重要物資を守るという任務……兵士に逃走の文字はない。
「ば、化物がぁぁぁぁぁーーーッッ!」
雄叫びと共に激しい銃声が雪原に木霊した。
お初の人もそうでないひともこんにちわ、ウケッキですっ。
機鋼世界マシナリア編開始です。
なお、過去のシナリオとも関連がありそうですが、特に読んでおく必要はありません。
本文中の出来事はあらかじめ知っているという感じでもOKですし、知らないといった感じで挑んでもOKです。
皆様のやりやすい方でよろしくお願い致します。
さて、今回のシナリオですがファンタジーな異界の雪原でのお話となります。
人馬一体の魔物に追われるヘルトとヴァイゼ、そして魔物の背中に引っ掛かっているちーあ。
更に列車の残骸の方では謎の少女イザナと兵士達が戦闘中です。
誰から助け、どのように行動するのか。
順序がとても大事となります。
ろっこんはいつも以上の効果を発揮する可能性があります。アドリブもあります。
■重要物資
・重要物資
名前の明かされていない物資。鋼鉄製の箱に入っており、強度はそこそこ。
イザナはこれを狙っているようですが、理由は判明していません。
兵士達には命を捨ててでもこれを国に持ち帰る様にと命令が下っています。
■洞窟
入口から入ると200メートル程度奥まった所で行き止まりになっている洞窟。
横幅の広さは5メートル程度。高さは6メートル程度です。
一本道とはいえ、ごつごつとした岩が点在しているので身を隠す事もできます。
※人馬一体の魔物はギリギリ入れます。
■登場人物
・ティーア
ちーあを派遣した女性。基本的に完璧超人。
今回は多忙の為、ちーあに対して指示だけした模様。
・ちーあ
この異世界に皆様を飛ばした張本人。
ティーアと違っていろんな所が足りなく、未熟。でも笑顔でカバー。
その姿はロリ少女ぐらいに見える。
物事に対して一生懸命に頑張るがんばり屋でもある。
・ヘルト・シュタール
国に属する軍人の青年。見た目は高校生ぐらいに見える。
真面目な軍人で同期のヴァイゼと仲がいい。
得意科目は狙撃で、装備もそれに準拠している。
・ヴァイゼ・ベトリューガー
国に属する軍人の青年。見た目は大学生ぐらいに見える。
軍人ではあるが不真面目で正直サボれる所はサボりたい派。
得意科目は近接射撃と格闘で、装備は軽さを重視している。
■登場するマモノ
・人馬一体の魔物
下半身は馬で四つ足。
上半身は人型の巨大な魔物。大きさは家屋と同じぐらいです。
上半身や下半身に黒光りする鎧を纏っており、その強度はライフルを弾き返すほど。
刀剣等による効果も薄い。
両手に身の丈を超える巨大な大剣を一本ずつ持っており、その一撃は強烈。
振る速度は大きさに見合わない程に速い。
・影の魔物
人馬一体の魔物を護衛するように追従する人と同程度の姿の魔物。
対峙した相手の武器をコピーし動きを真似る特性がある。
しかし動きを真似るだけで能力は真似られない。
・イザナ
露出の高い黒い服を纏っており、生足。
雷光を操る。銃弾は無効化される模様。
■ちーあの贈り物
いまだ未熟なちーあの為、能力に限定的な物が多く、本人の好みか威力特化型といえる装備品類。
異世界に降り立つ前に皆様が一つだけ選んで装備しているという認識でOKです。
複数選ぶことはできません。
・ハンドガン ちーあかすたむ
ちーあが拾ったハンドガンをモデルに必要な機能だけに特化して強化製造した代物。
パーツの中身から組み替えており、威力特化に絞った結果、装弾数はたったの三発。予備弾倉はない。
反動も大きく、一回撃てば轟音と共に衝撃波を伴って弾丸が発射。銃身が大きく上方へ跳ね上がった上に、使用者はもれなく数メートル吹き飛ぶ。
だがその威力は戦車の装甲ですら容易く撃ち抜く。弾速も速い。
残念ながら通常のハンドガンの弾は使用できない。
・鉄裂き振動丸
ちーあが見惚れた日本刀がモデル。高周波による振動で物体を切断する。
やはり威力特化の代物であり、高周波を使用しての最大稼働ができるのはせいぜい数秒間のみで、それを使用しない場合の切れ味は普通の日本刀である。
なお限界まで上げられた威力の犠牲に、最大稼働後は刀身が砕け散ってしまう。
最大稼働させる為には鍔の下に付いている引き金を引き続ける必要がある。
・光の盾 絶対防御仕様
ティーアがよく生成する盾がモデルで、盾の金属部分は中心のごく小範囲に抑えてそこから水平に光の盾を展開し身を守る。展開した後のサイズは大人一人をすっぽりと覆う程に大きい。
例の如く強度重視であり、盾を稼働できるのは長くても三秒。それ以上はオーバーヒートを起こし、爆発四散する。
なお、稼働した後は冷却時間が必要で二分間は稼働不可能。
だが、展開中は光の部分にあたったあらゆる物体の運動エネルギーを零にし、無効化する。
中心の金属部分の強度はそれなりにある為、手の平サイズではあるが小盾のような使用は可能。