人生とは、ままならないものだ。使い古されて錆び付いたそんな言葉が今、頬に感じる熱、しんとした夜へ向かって立ち昇る黒煙や清廉な月の明かりとともに、
桜栄 あずさの胸へと染みた。
バッグの中で歌うスマートフォンを取り出し耳へ当て、眼前で爆発炎上した愛車の残骸をぼんやりと眺めながら、通話口から流れ出す聞きたくも無い男の声へと耳を傾ける。
「僕だよ。プレゼントは気に入ってもらえたかい?」
「……はん。
黒崎 俊介。私の居所をどうやって?」
「クロサキ機関を甘く見ないほうが良い。いかに名うての女泥棒だとしても、代償も無く僕から盗めるとでも?」
危険な相手であるのは当然にして、重々理解していた。その上で足跡を残さずやってのけたはずだった、その確信があった……これまでに幾度も、いつだって成功させてきたような仕事のひとつには変わりないはずだった。
しかし、人生とは往々にして、ままならないものなのだ。
「今さら何の用? あなたのお金なら、とっくに無いわよ」
「もちろん分かってるとも、しかし借りは返してもらう。ひとつ、君にうってつけの仕事があってね。断れば……聡い君なら、言わずとも理解できるだろう?」
通話を切ると、桜栄は静かな夜を照らす真っ赤な炎の熱気に大げさな渋面を浮かべ……性、というものだろうか? それでもどこか愉悦めいた笑みの色を頬に張り付け、つぶやく。
「フフ。楽しいことになってきたわね?」
定められた期限の中で、桜栄はまず真っ先に、仲間を集めることにした。泥棒稼業も今やテクノロジーと分業の時代であり、そして桜栄の負った負債には、単独で成しうる程度の仕事では到底賄えない額面が記されていたからだ。
「そこで、俺たちの出番というわけだね」
「ご一緒できて、光栄です♪」
「ただし! 俺たちは、安くは無いぜ?」
鴻上 彰尋。
桧垣 万里、
夜海霧 楓。三人組の若手ながらに卓越した腕前はあずさの耳にも入るところであり、先日は同業者らの間で大いに話の種ともなった、記憶に新しい
中沢邸での一件もまた、その名声を高めるのに一役買うこととなった。これからはやがて、彼らのような気鋭の世代が主役となっていくのだろう。
もっともいかに頼もしくとも、当然桜栄とて、後ろからその背中を眺めるばかりの役柄に落ち着くつもりもない。
「狙いは『
森繁美術館』に展示中の名画、瀬島作太郎の『
子猫を抱く女』! 警備はそりゃあ厚いけど、私は借金を返せてあなたたちの懐も潤って、何より素敵なスリルが味わえる。これってばもう、美味しいお仕事でしょ?」
「違いないね。もちろん、乗らせてもらうよ」
「準備が必要ですね。ご同業の皆さまにお声をかけなければ」
「やれやれ、面倒なこった。が、まぁ、付き合ってやるさ」
人生は往々にして、ままならない……さもなくばこの世とは、何と退屈なものであるだろうか?
ままならないからこそ彼らのような人種は、かくも素晴らしき人生を、存分に謳歌することができるのだ。
墨谷幽です、よろしくお願いいたします~。
何となくシリーズ化! 『悪徳』シナリオ第二弾です。
ガイドには、鴻上 彰尋さん、桧垣 万里さん、夜海霧 楓さんにご登場いただきました。ありがとうございました!
(もしこちらへご参加いただける場合は、上記のシーンによらず、ご自由にアクションをかけていただいて構いませんので!)
前回に引き続き、いつもの墨谷シナリオとはちょっぴり雰囲気の異なる、『~だ・である調』でお送りいたします~。
このシナリオの概要
こちらは『IF』のお話、もしもの世界観で、いつもとは違ったキャラクターを演じていただきつつ、何らかの犯罪行為へと関わっていただく、クライムアクションシナリオとなります。
舞台は現代、どこかにある大都会。
著名な女泥棒である桜栄 あずさは、青年実業家、黒崎 俊介の金をまんまと盗み出したものの、ヘタを打って足がついてしまいました。表向きの知名度は高くないものの、裏では何かと黒い噂が付きまとう黒崎は、盗んだ金へ目をつぶる代わりに、あずさへひとつの仕事を持ちかけます。
美術コレクターでもある黒崎が求めるのは、『森繁美術館』に展示されている、とある名画。彼はこの絵の対価として、あずさへの負債の免除だけでなく、多額の報酬すら約束したのだそうです。
そこで、首尾よくこの仕事を成し遂げるため、あずさは同業者である他の泥棒たち……つまりは皆さんへと助っ人を依頼したことで、ここに再び、即席泥棒チームが集まることとなりました。
美術館の警備は厚く、盗みは困難を極めます。けれど成功した暁には、それぞれに得る物もまた大きいことでしょう。
泥棒チームとして行動するほか、その他の役柄や別の立場として、おひとりからでもご参加いただけますので、お好きな形で、お気軽にどうぞ!
アクションでできること
アクションでは、泥棒チームの一員としてご参加いただく場合は、【1】の中の担当場所と行動内容を、それ以外の方は【2】とその内容について、それぞれご記入くださいませー。
【1】泥棒チームの一員として参加
ターゲットとなるのは、『森繁美術館』。過去に幾度か窃盗の被害に遭ったことがあるようで、その教訓から多数の警備員や最新のシステムを導入し、厚い警備態勢が敷かれています。
現在は、近代美術に大きな影響を与えたことで知られる画家『瀬島作太郎』の作品展が催されていて、昼間はたくさんの来場客で賑わっています。絵画の管理は非常に繊細かつシビアなので、夜間も多数のスタッフが常駐し、夜を徹して作業を行っているようです。
侵入や盗みのプロセスはアクション次第ですので、最適な方法を考えてみてください。
ただし、前回の舞台とは異なりこちらは一般の施設ですので、あまり派手なことをすると見つかって警報が鳴ったり、警察が詰めかけることになるでしょう。
<美術館の構造と憂慮すべき障害>
○1F・特別展示フロア
…一定の期間ごとにテーマと展示物を入れ替える、特別展示が行われるフロア。
目的の絵画『子猫を抱く女』は、このフロアの最奥に展示されています。
・昼間:多数の客。巡回する警備員。監視カメラ。
・夜間:一般客立ち入り禁止。正面玄関施錠。赤外線センサー。絵画周辺の床に感圧センサー。監視カメラ。
○2F・常設展示フロア
…美術館が所有する芸術作品が展示されているフロア。
選択する侵入経路次第では通り抜けることになるでしょう。
・昼間:少数の客。巡回する警備員(低頻度)。監視カメラ。
・夜間:一般客立ち入り禁止。巡回する警備員。監視カメラ。
○B1F・スタッフルーム、管理フロア
…スタッフ用の作業場や、美術館全体のセキュリティシステムを司る管理室があるフロア。
展示物の搬入口でもあるガレージは、1Fの裏手へスロープで繋がっています。
・昼、夜間:一般客立ち入り禁止。美術品の修繕作業等を行うスタッフ。監視カメラ。管理室に警備員。
セキュリティオフライン時、一定時間(数分)の経過後に自動警報。
※上記に記載されていないような箇所は、一般的な美術館のイメージと変わりない構造とお考えください。
【2】その他の立場で参加
こちらは自由枠になります。
例えば、美術館に務める警備員やスタッフのひとりだったり、黒崎の送り込んだ助っ人だったり、偶然にも同じタイミングで忍び込もうとする第三の泥棒であったりなど、何でも構いません。
アクションには、上記と合わせて、
・泥棒として参加する理由
(メチャすごい借金抱えてて仕方なく、人から物を盗むのが生きがい、孫に小遣いあげたくて……などなど)
・プロフィールとは違ったキャラクターを演じる場合、その内容
(名前、職業や肩書、性格など。元とは全く違うものでも、もちろんそのままでもOK)
といったあたりも、必要に応じてお書きくださいませー。
前回から引き続きご参加いただく場合も、同じ人物を演じるのはもちろん、仕切り直して別のキャラクターになっていただくのも構いませんので!
なお、『瀬島作太郎』という画家はこちらのシナリオに登場し、色々と背景などがあったりしますけれど、特に参照はしなくても大丈夫です。ただ、何かしらうんちくなど語ってみるのも楽しいかも?
その他
●参加条件
特にありません。どなたでもご参加いただけます。
●舞台
いつもの寝子島とはちょっと違う、どこかにある大都会。
その中心部に程近いところに建っている、森繁美術館(構造は、寝子島にある同名の美術館と異なる場合があります)。
時刻の描写は、皆さんのアクション、実行する作戦等によって異なります。昼夜で希望する時間帯が割れた場合、またどうしても整合性が取れない場合は、どちらかに絞らせていただくかもしれません。
●NPC
○桜栄 あずさ
寝子島高校のセクシー理事長さんですけれど、今回はパラレル設定なので、セクシー女泥棒役。
なかなかの手練れで名が知られているものの、ちょっぴり失敗してしまい、皆さんに助けを求めることとなりました。
俊敏かつ大胆な身のこなしとお色気が武器。
基本的にはサポート役として、皆さんの指示に従って行動します。
○黒崎 俊介
寝子島高校の存在感がウッスィー教頭先生ですけれど、今回はパラレル設定なので、何となく大物感を醸し出しております。
表向きは、やり手ながらさほど目立たない普通の青年実業家。裏では目的のためなら違法な手段も厭わない、冷酷な男として通っているそうです。
首尾良く品物を手に入れることができた際は、取引場所へと姿を現すでしょう。
ちなみに『クロサキ機関』は、このへんのネタから名前を拝借。
●備考や注意点など
※上記に明記されていないNPC、及び今回のシナリオには参加していないPCに関するアクションは基本的に採用できかねますので、申し訳ありませんが、あらかじめご了承くださいませ。
※なお、当シナリオでは犯罪行為にスポットを当てているものの、あまり血生臭いのはNG、ということにさせていただきます。華麗にドライに飄々と、人死には出ない方向でということでひとつ、お願いいたします。
以上になります~。
それでは、皆様のご参加をお待ちしております!