食欲の秋。運動の秋。そして……芸術の秋!
と、いうことで。
「うむ。なかなか良い色だ」
ダイナミックに絵筆を走らせ、キャンバスに鮮やかな紅葉を描き出しているのは、
鷹取 洋二です。音楽が専攻、けれど絵をも嗜む多才な彼、その腕前はなかなかのものなのです。
美術部の部室のそこかしこに置かれている、学生たちの作品は色とりどりで、テーマも様々。そこはまるで、いささか垢抜けない、でも生き生きとしたエネルギッシュな魅力にあふれる、ちょっとした美術館のようにも見えました。
と。軽快に躍る筆先がぴたりと動きを止め、洋二はふと眉をひそめて、小首を傾げます。
「何か、物足りないな……もう一つ、目を惹くような何かが……」
キャンバスで展開される華やかな彩りは、傍目には良い出来に見えましたものの。どうやら彼的には、ちょっぴり何かが足りないようです。
かたんと筆を置き、描きかけの絵を前に腕を組んで、うーんと本格的に思考モード。
とはいえ、言葉や論理的思考ではなかなかに図りにくいのが、芸術の難しいところであり、また面白いところでもあり……うんうんと唸ってみたところで、洋二の頭には、なかなかインスピレーションは湧いてきてくれないようです。
「ちょっといいかしら?」
そんな時。がらら、と扉が開いて顔を見せたのは、美術部顧問の
若林 沙穂先生でした。
「良いものをもらったから、みんなにも……って、あら、良い色じゃない?」
「ありがとうございます、でも少々、行き詰ってましてね。もう一つ、工夫が欲しいと思っていたところです。何か、刺激を受けられるようなことがあればいいんだが……」
難しい顔をする洋二に、沙穂先生は、にっ。笑みを浮かべ、手に持った何かを、彼の目の前へと掲げました。
それはなにやらカラフルな、細長い紙切れの束。
「なら、ちょうど良かったわ。森繁美術館でやってる、『四季彩展・秋』のチケット。何枚か頂いたから、あなたたちにも分けてあげようと思ってね。みんなで行ってきたらどうかしら?」
旧市街にある『森繁美術館』では、しばしば様々なテーマの企画展が行われており、今回は美術教師で陶芸家でもある沙穂先生のツテを通じて、そのチケットが回ってきたようです。
といったことを語る先生自身も、何かお目当ての作品が展示されるとのことで、どこかうきうきとしているようにも見えました。
「ほう、これはありがたい。誰かを誘って行ってみるとしますよ」
洋二は先生に感謝しながらそれを受け取ると、美術展で出会うことになる、素晴らしい作品たちへと思いを馳せました。
墨谷幽です、よろしくお願いいたします~。
美術館で秋の名画を楽しむ、なんていうのはいかがでしょうか?
このシナリオの概要
旧市街にある『森繁美術館』にて催される絵画展、『寝子島の四季彩展・秋』を見に行こうというシナリオです。
秋めく寝子島を題材とした絵画や、寝子島出身の画家が描いた秋をテーマにした作品など、幅広いジャンルの絵が一堂に会し、中には目玉となる著名な作品もあるようです。
絵が好きなPCさんは、見て楽しんだり、うんちくを語っていただいたりとか。そんなに好きじゃないという方も、これを機にたまには芸術に触れてみたりとか。または、美術展をダシに誰かをデートに誘ってみたりとか。
作品を鑑賞しながら、思い思いの過ごし方をしてみてください。
アクションに書いていただきたいこと
ご参加いただくきっかけは、鷹取 洋二くんに誘われて一緒に行くという形でも良いですし、沙穂先生に直接チケットをもらったとか(美術部の所属でなくてもOK)、別のところで展示会のことを知って訪れた、という形でも構いません。
作品は多数展示されていますが、今回のシナリオでは、以下の目玉となる作品の中から、重点的に見たいものを一~二つお選びください。
あ。館内では、作品に手を触れたり、騒ぎすぎたりしないようにお願いいたしますね!
<目玉となる作品>
○『紅葉狩り』
肩越しにこちらを振り返り、頬を赤く染めながら微笑む、美しい女性を描いた肖像画。激しい情動をそのまま塗りこめたような、大胆な筆致の油彩画。
日本近代美術において活躍した寝子島出身の画家、瀬島作太郎の晩年の代表作。
モチーフの人物については諸説あるものの、瀬島の若い頃の恋人だった、とある気難しい女性の肖像ではないかという説が有力。
○『寝子島三夜湖猫釣之図』
九夜山頂上から見た秋の三夜湖と、そこで釣りに興じる猫たちの姿を描いた浮世絵。紅葉の赤と湖の青のビビッドで鮮烈な色使い、奇抜な構図に、ユーモア溢れる遊び心がふんだんに盛り込まれている。
江戸時代後期の浮世絵師、奇才・歌川猫麻呂の傑作。
猫麻呂が寝子島を訪れた際に、その風土と奔放な猫たちを大いに気に入り、半ば即興で描いたものだという。
○『灯台と秋雲』
雄大な海、そびえるエノコロ岬灯台。広がる青空にたなびくイワシ雲ならぬ、秋のサンマ雲。清々しい秋の寝子島を写実的に、精緻に描いた風景画。
一貫してリアリズムを追求しながら、絵画、彫刻、写真など幅広いジャンルで活躍する現代アーティスト、アマヨイカヲルの近作。
アマヨイは数年前に本土から寝子島へと移住して以来、島の美しい風景やそこで出会った人々、動物たちの姿をモチーフとし、現在も精力的に作品を産み出し続けている。
アクションには、
・どの絵を見る? その絵についてどの程度知ってる?
・美術館を訪れるにあたっての心情など
(絵大好き、人に連れられて仕方なく、良く分かんないけど来てみた、など)
・どんな風に見る?
(周りも見えないほど食い入るように、すぐ飽きちゃって流し見、楽しみつつも恋人とイチャイチャ、など)
といったあたりをお書きいただけましたら。
ちなみに絵の感想などを述べていただく場合、上記の絵について、何かうんちくの類を付け加えてくださっても構いません。
必然性があったり、面白ければ採用させていただきますのでー。
その他
●参加条件
特にありません。どなたでもご参加いただけます。
●舞台
旧市街にある、『森繁美術館』が舞台となります。
なお森繁美術館には、寝子島の郷土資料などを展示している常設コーナーもありますが、今回のシナリオで扱うのは企画展示のコーナーのみとなります。
●NPC
○鷹取 洋二
寝子高生。絵も描けるバイオリニスト。
今回のお目当ては『寝子島三夜湖猫釣之図』で、自身の創作のための刺激になればと考えているようです。
絵に興味がある人がいれば、美術部の所属でなくとも、誰かを誘って行きたいと思っています。
○若林 沙穂
寝子高の美術の先生。
『紅葉狩り』は以前から一度生で見てみたかったそうで、今回はプライベートで、ごく個人的に美術館を訪れる予定です。
館内で偶然出会ったら、作品を解説してくれたりするかも。
●備考や注意点など
※上記に明記されていないNPC、及び今回のシナリオには参加していないPCに関するアクションは基本的に採用できかねますので、申し訳ありませんが、あらかじめご了承くださいませ。
以上になります。芸術なんて言うと堅苦しいイメージですが、そこは気取らず、どなたもお気軽に。
それでは、ご参加をお待ちしております~!