「首尾は?」
「上々」
今や無機質なコンクリートの四角い箱でしかない空間と外界を繋ぐものは、階下へ続く暗闇めいた階段か、さもなくばガラスの名残が少々と視界を阻む黄色いテープがまばらに張り巡らされた、かつては窓という名であったであろう安っぽいアルミの枠だけ。
街中の人間が一斉にタバコをふかしたような灰色の雲を眺めて、
日向 透は晴天のごとく晴れやかな笑みを浮かべ、目の前の男へ尋ねた。もっともその作り笑いは半ばクセのようなもので、
鉄 衛守に対して何らかの心理的効果を期待しての演出では無いのだろう。
「メンバーは? 見たところここには俺と、鉄さんの仏頂面しかありませんが」
「直に着く。
ジニー・劉と
本田 宗次だ」
聞くなり日向は、大げさに渋面を浮かべた。良く知った響きであり知られた名だが、決して良い意味では無い。
「本田さんが良く乗ってきましたね。面倒ごとは好まないタチかと」
「さてな、だが腕は確かだ」
「劉さんのほうは……想像がつきますね」
「ああ、また尻に火が付いてるんだろう。ヤツは渋らなかった」
「信用できますか?」
鉄はそっけなく肩をすくめる。
「それは重要じゃないな」
「ごもっとも」
今さらの疑問、つまらない問いだ。そんなものは初めから望むべくもないのだから。
気にしないほうが気が楽だ。
「よう、待たせたな。しょぼくれたツラが集まってまァ、辛気臭えこった」
「お前さんは一度、鏡を見たほうがいいな……本田だ、ま、程々にな。よろしく頼む」
現れた劉と本田の口元でくすぶる紫煙が瞬く間に、鉄と日向もろともに空間を、外の曇り空と同化させていく。
男たちには似合いの空気であったろう。ここからが本番だ。鉄が手のひらでひとつ壁を打ち鳴らす。
「狙いは中沢邸の最奥、
リッカルドの地下金庫室だ。鉄壁の守り、最新のセキュリティ・システムを突破し血の気の多い武装警備員を出し抜けば、各々が抱える厄介ごとを一度に解消してなお釣りがくるだろう」
コンクリートにテープで貼り付けられた大雑把な図面に、多岐に渡る緻密な書き込み。無数の鮮明な写真の示す邸宅が、街に名だたる悪徳事業家のものでなかったら、彼らもいくらか尻込みして見せたかもしれない。とはいえ今回に限って微塵も遠慮の必要がないことは、誰もが理解していただろう。
「さあて、一仕事といくか。てめえら、足を引っ張るんじゃねえぜ?」
「楽しい夜になりそうですね。フフ……」
「俺は平穏に暮らしたいだけなんだがな、やれやれ」
「……時間だ。では、行くか」
鉄は事も無げにそう言った。もちろん、慄く者は一人とていない。
男たちは緩やかに行動を開始した。まるで近所へ酒でも買いに行くかのように気楽で、目の前に壁などひとつも無いと言わんばかりに不敵な面構えで。
緊張など似合わない。仕事はスマートにやり遂げる、それが彼らのスタイルなのだ。
墨谷幽です、よろしくお願いいたします~。
ガイドには、ジニー・劉さん、鉄 衛守さん、本田 宗次さん、日向 透さんにご登場いただきました。ありがとうございました!
(もしこちらへご参加いただける場合は、上記のシーンによらず、ご自由にアクションをかけていただいて構いませんのでっ)
なお今回は気分を変えまして、いつもの墨谷シナリオとは違って『~だ・である調』でお送りいたします~。気分!
このシナリオの概要
まず今回は『IF』のお話、もしもの世界観となります。皆さんにはいつもと違ったキャラクターとして、何らかの犯罪行為へと関わっていただくことになります。
いわゆるひとつの、クライムアクションというやつですね!
舞台は現代、どこかにある大都会。
今夜、郊外に建つ豪邸に、ある集団が侵入を試みようと画策しています。彼らは犯罪における各分野のスペシャリストとして集められた、即席の泥棒チームです。それぞれに、例えば多大な借金を背負っていたり、大切な家族を養うためにやむなく、あるいは生まれながらの犯罪者だったり……参加を決めた理由は様々ながらも、各々の持ち味を活かして協力したなら、彼らに盗めないものは何もないと思われるほどのプロ集団なのです。
そんなチームが今夜狙うのは、とある事業家が悪どいビジネスによって莫大な私財を貯め込んでいると噂される、邸宅の地下金庫。無数の監視カメラに張り巡らされた警備システムに、過剰なほどに武装した警備員たちが常に巡回しており、それらを潜り抜けて地下金庫から金を盗むのは至難の業です。
皆さんには、それぞれの理由でチームへの参加を決めた泥棒のひとりとして、持ち前の知識や技術を発揮し、このハードな金庫破りへ挑んでいただきます。
取り得る手段は、自由! 地面に穴を掘るもよし、ヘリからパラシュートで降下するもよし。陽動として派手な銃撃戦を展開しつつ、別同部隊がコッソリ金庫へ向かうもよし。もちろん、ろっこんを駆使するのもアリです。お好みのプランで、スマートな仕事ぶりを演じてみてください。
なお今回は基本的にチームとしての行動になりますが、その他泥棒役以外にも、別の立場でもおひとりからご参加いただける要素もありますので、お好きな形で、お気軽にどうぞ!
アクションでできること
アクションでは、泥棒としてご参加いただく場合は【1】の中の担当場所と行動内容を、それ以外の方は【2】をお選びいただき、ご記入くださいませー。
【1】泥棒チームの一員として参加
ターゲットとなる邸宅は広く、3階建てで、それぞれの階に突破すべき障害があります。
チーム内で分担したり、それぞれの持ち味を発揮したりとチームワークを意識することで、クールでカッコイイ仕事ができるかもしれません。
<邸宅の構造と憂慮すべき障害>
○1F
…リビング、キッチン、ダイニングルーム。広大な庭、プールなど。
警備員の詰め所があり、多くの人員が常駐しているほか、常に邸宅内外のあらゆるところを警備員が
巡回しています。
警備員は拳銃やライフル等で武装しています。
○2F
…寝室。バスルーム。バルコニーなど。
邸宅を司るセキュリティシステムのコントロールルームがあり、担当の警備員が常駐しています。
邸宅の庭や外壁のいたるところに監視カメラがあり、この部屋で任意にON/OFFや操作が可能です。
○B1F
…何台もの高級車が止められているガレージ。本命の金庫室もこちらにあります。
金庫室は頑強な鋼鉄の扉と、カードキーと虹彩認証式の強固なセキュリティを誇る電子ロックで封印
されており、持ち主以外が正規の手順を踏まずに扉を開くことは極めて困難です。
※上記に記載されていないような箇所は、一般的にイメージできる現代建築の豪邸といったものと
変わりない構造とお考えください。
【2】その他の立場で参加
こちらは自由枠、ということになります。
例えば、事業家の秘書として悪事に加担してたり、警備員の一員として法外な報酬を受け取りつつ泥棒チームと対峙したり。漁夫の利を狙う第三の泥棒などなど、何でも構いません。
また、上記の泥棒チームの活躍とは絡まず、舞台となる大都会のどこかで何らかの犯罪行為に関わる、といった形でのご参加もOKです。こちらはストーリーの本筋の合間に挿入される、ミニエピソードのような形で描写させていただこうと思います。
アクションには、上記と合わせて、
・泥棒として参加する理由
(メチャすごい借金抱えてて仕方なく、人から物を盗むのが生きがい、孫に小遣いあげたくて……などなど)
・プロフィールとは違ったキャラクターを演じる場合、その内容
(名前、職業や肩書、性格など。元とは全く違うものでも、もちろんそのままでもOK)
といったあたりもお書きいただけましたら~。
その他
●参加条件
特にありません。どなたでもご参加いただけます。
●舞台
いつもの寝子島とはちょっと違う、どこかにある大都会。
その郊外に建っている豪邸。
時刻は基本的に、夜の描写となります。
●NPC
○中沢 リッカルド
ホンモノの町長さんは大変にイイ人ですけれど、今回はパラレルなのでワルモノかつ一事業家です。
悪事で稼いだお金を金庫にしこたま貯め込んでますが、実際どんな悪いことしてるのかは、ご想像にお任せします。
(もしくはアクションで指定してくださってもOK、参加のきっかけにしていただくとか)。
●備考や注意点など
※上記に明記されていないNPC、及び今回のシナリオには参加していないPCに関するアクションは基本的に採用できかねますので、申し訳ありませんが、あらかじめご了承くださいませ。
※なお、今回は犯罪行為にスポットを当てているものの、あまり血生臭いのはNG、ということにさせていただきます。ドライに飄々と、人死には出ない方向性ということでひとつ。
以上になります~。要するに、某映画の『11人の仲間たち』みたいな感じをイメージしていただけましたら。
それでは、皆様のご参加をお待ちしておりますー!