【エクストリーム☆ファイナルエージェント】

「くっ、このままじゃ生徒たちばかりが目立って、ますます僕の影が薄くなってしまう……！？　先生方、後はよろしくお願いします！」
　と言って黒崎先生、何か準備でもするつもりでしょうか？　しゅたっと手を上げ後を託し、勢い込んで講堂から走り出て行きました。
　後に残されたのは、一部のざわめく生徒たちと、多くのフツウにテストを解答し始めた生徒たち。それに、
「よーし、それじゃ遠慮なくパフォーマンスしてくれ。私たちが、ちゃんと見ててやるからな！」
　カカカ！　と笑った高野 有紀先生を始め、泉 竜次先生、樋口 弥生先生を加えた試験監督の先生方が、シビアな目で持って彼らを見守っております。
　エクストリーム☆中間テスト！　何か派手なパフォーマンスでもしながら問題解いてね、なんていきなりそんなこと、言われたって……！　というわけでして、生徒たちはしばし困惑の中。周囲の出方など見守りつつ、静観しておりました。
　そして、今はまだ静謐な空気を切り裂くように。やがて口火を切ったのは……ちゃーらーりーらーりーらーりらー。旅鴉 月詠のポケットから聞こえ出した、この着信音は……！
　かの名作映画を彩る、誰しも一度は聞いたことのあるあの名曲。『ゴッドマザー　～アイのテーマ～』だ！
　ずばっと一斉に生徒たちの注目が集まる中、月詠はゆったりと携帯電話を取り出し、何やら通話するそぶりを見せた後に。名優もかくやといった、実に諦観の極みのような渋みが滲む絶妙な表情を浮かべながらに、ぽつりと呟きました。
「それが、世界の選択か……」
　ざわっ……！　せ、世界！？
　何かデカイ話をし始めましたもので、周囲がにわかにざわめき始めましたけれど、月詠はお構いなしに、今度はどこかへぴぽぱっと電話をかけ始めました。
「……私だ。ああ、どうやら、クロサキ機関は私たちとやる気らしい」
　ざわざわっ！　く、クロサキ機関……！？
　チラッ、と視線を試験監督の先生方へ向けると、全生徒の目線が集まり、泉先生などは『俺、知らねいよ？』といった顔で眉をひそめましたけれど、ともかく月詠は通話を続けて、
「ああ。解ってる、ヤツらなりの考えだな……」
　などとホザくわけなのです。
　締めにはもちろん、
「イシブマ・ガマタア・ノーチョウコ」
　意味の無い別れの言葉を添えて、月詠は電話をプツリと電話を切り、ふっ……と寂寥感漂う自嘲めいた笑みを浮かべてから、何事も無かったようにテストを再開しました。
　ざわ、ざわわっ……！　クロサキ機関なる謎の組織が今、寝子島高校で何やら底知れぬ陰謀を巡らせ始めているらしい……！　という事態に、生徒たちのざわめきは大きくなるばかり……！
　まぁ、月詠さんが電話してたのって１７７番、ただの天気予報でしたけれども。
　月詠はひとしきり騙ってまわりに脅威を与えて満足すると、携帯電話をきちんとマナーモードにして、ざわめきもほったらかしてマイペースに、英語の問題に取り組み始めました。
　試験監督の先生方が、彼女なりのパフォーマンスにまんまと巻き込まれていたことに気付いたのは、しばらく後のことでした。

高野先生：９点「こういうのインターネットで見たことある！　あれだろ、なっ！　あれ！（嬉しそうに）」
泉先生　：３点「『講堂の女』ってところかい？　ネタが少々マニアックだが、面白かったよ」
樋口先生：６点「教頭先生が、そんないかがわしいことをしてたなんて……要注意ね（？）」



【エクストリーム☆セッション】

　かりかり、かりかり。無心に走る鉛筆の音が、講堂を埋め尽くすように鳴り続けています。
　と……そこへ混じり出す、異質な音。
　びゅっ、しゅば！
「クロサキ機関、一体何者なんだ……！　でも、敵がいるというなら、ちょうどいいな」
　奈良橋 博美が披露し始めたのは、武道の型。彼女が嗜む奈良橋流古武術の、勇ましい技の数々！
　一応テスト中ということでして、裂帛の気合を口に出して轟かせるのは控えつつも。博美は見事なフォームの突きやら蹴りやらを、びゅっ、しゅばばっと繰り出しつつ……合間にかりかりかり、鉛筆を走らせて、ちゃんと問題も解いていきます。
　博美の型は後の先、相手の攻撃に対応するための型。イメージの中、仮想敵からの攻撃を優美な動きでさばきつつ、鋭い突きで相手をＫＯ！
（文武両道こそが、武道家の務め。心・体・技！　全てに優れたオレを、ここに実現しよう！）
　びゅびゅっ、しゅば、かりかり。しゅば、ずばっ、かりかりかり！
　これも神魂の影響なのでしょうか？　不思議なことが起こりました。講堂の中を巡る音が、次第にリズムを帯びて……いつしか、一体になっていくのです。
　がた、がたん！　じっとしていられず、思わず立ち上がった二人がいます。雨寺 凛に、音海 なぎさ！　もう、我慢できない！　とばかりに二人は、講堂の一番前、ステージへと駆け上がります。
　凛が、叫びます！
「いえーーーいッ！　みんな、テスト頑張ってるーーーっ！？」
　なぎさも負けていられません、迸る魂のままに、
「ステージがあって、観客がいて……エクストリーム！　だったら！　音楽しか無いでしょ！」
「私たちのゲリラライブ、盛り上がっていこーーーっ！」
　二人はそれぞれに設置されたマイクに向かって、音楽パフォーマンスを始めました……もちろん、スピーチ台の上で問題を解きながら。
　にやりと笑った博美の型もリズムを刻み、しゅば、かりかり、びゅっかかかん！　と鉛筆も翻り。
　ノリノリななぎさが何故か開始したのは、ラップミュージック！

　　　　♪
　　　　　さぁさ皆でクラップ・ユア・ハンド！　ファンタジーなテストの世界！
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　♪
　　　　　　　　　　　♪
　　　　　　　　　　　　ここでは何でも許されるのさ！　さあとべ、さあいけ、さあさあさあ！
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　♪

　チェケラ！　韻（ライム）を踏みつつノリにノッて、肩を揺らしながらなぎさは歌い、かりかりかりっと鉛筆も軽快に走る、走る！
　そこへ軽音部長、凛が録音したギンギンのロックを流し始めたもので、テスト中の講堂は、瞬く間にライブ会場へと変貌。鉛筆と答案用紙をギターとピック代わりに、凛もまた、テンションマックス！
「それじゃ、Question１！　次の例文の空欄に入る単語は何かな～、Are you ready？」

　　♪
　　　Spring！　Summer！　Fall and Winter！　are the words for ○○！　Answer to me！
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 ♪

＼Seasooooooons！／
　彼女にかかれば、問題文もあっという間に歌詞へと早変わり。今やフツウに授業を受けていた生徒たちまでも巻き込んで、コール＆レスポンス！
　パチパチばんばん、ハンドクラップス！　手のひら机も小気味良く。
　鉛筆かりかり、かんかかん！
「よし、オレも負けないぜ！」
　しゅびしゅば、ずばびゅっ！　博美の正拳風を切り。

　　　　♪
　　　　　さぁさ皆でクラップ・ユア・ハンド！　答案かくのは忘れるな！
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　♪
　　　　　　　　　　　♪
　　　　　　　　　　　　それさえ守ればフリーダム！　さあとべ、さあいけ、さあさあさあ！
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　♪

　なぎさに降りてきたのは神魂か、それとも音楽の神でしょうか？　ステップをたたんと踏めば、どんどん！　生徒たちも揃って足を鳴らして。
「どんどんいくよー、Question２！　イエーーーイッ♪」
　ずんちゃずんちゃとあらゆる音を巻き込みながら、エクストリーム☆セッションはもはや、留まることを知りません……！

高野先生：８点「おおっ、すごいじゃないか！　やるね、あんたたち！（手拍子で参加しつつ）」
泉先生　：４点「これは壮観だな。まるで良質なプロモーション・ビデオを見ているようだ」
樋口先生：７点「ついつい気分が高揚してしまうわね！　ああ、ここにギターがあったなら、私も……！」