深く深く、藍色に澄み渡る夕空にのぼりたての月ひとつ。
白々と輝き始める月を映すは、九夜山の天辺に青々と水湛える三夜湖。
昔々のその昔、大ナマズと黒猫との三夜かけた戦いに因んだ様々な言い伝えの残る湖は、今は山頂流れる夕風を受けて静かにゆらゆら、さざなみたてるばかり。
言葉ひとつ零さず、
音羽 紫鶴は白鶴の翼を羽ばたかせる。水面に音もなく伸びる月光の道につまらなさげな一瞥のみを投げ、水際の森へと降りたつ。
ひいやりとした空気が頬を撫でるに任せ、感情宿さぬまなざしを夕暮れの湖に向けていて、
「ん」
紫鶴は小さく首を傾げた。月が投げかける光の道を、何者かが渡ってくる。――否、半ば溺れる格好で泳いできている。
さざなみ静かに寄せるあおい湖畔に、
「うわもう死ぬ! 死ぬか思うたわ、もう!」
賑やかな悲鳴あげて、男がひとり、ほうほうのていで泳ぎ着いた。
うなじでひとつに束ねた髪も、着古した着物も、顔に掛けた紅色鮮やかな猿のような面も、全身もれなく水浸しな男は、湖畔の砂利に濡れ鼠の体を投げ出し、
「……おう、久しぶりやなあ」
湖畔に佇む紫鶴に軽く片手をあげてみせた。
いつだったか、白霧の向こうの奇妙な町で出会った仮面の男に、紫鶴は怪訝そうに眉をひそめる。あの時は確か能に言う翁の面を掛けていたが、今日は猩々。酒好きな精霊を表す面を掛けている。
「いやもう、参ったわ。なんやなあ、いつもはあんたらが迷うて来るんに、今日はわしらが迷うてしもたわ。なんでやろなあ、道っ端の水溜り踏んだったらな、こう、気ィついたらこっちの水にどぼーんてなァ」
「……君の他にも?」
「うん」
起き上がって髪の水気を絞りながら、猩々面の男は指折り数える。
「一つ目のジジイやろ、神木の巫女……あんたらにはカンナて名乗っとったか? カンナとなー、人面の子犬となー、這い寄る井戸端の女となー、あとなんか有象無象」
「有象無象」
「なあ、ここで行き会うたんも何かのご縁や、ちィと手伝うてくれへんか。こんな人間ようさん居るとこで人間のかたちしとらんもんが跳ね回ったらエライこっちゃ」
大騒ぎになるでェ、と猩々面は困惑気味に頭を掻く。
「見つけたらな、月の道が無うなるまでに此処に集まれて伝えたって。わし、此処で待っとるさけ。この通りや、頼む」
砂利の上に座したまま両手を合わせてみせる。
お三夜祭に賑わう町に繰り出して騒ぐ、ひとのかたちならざる者共と、それについて回る騒動を思い、クスリ、紫鶴はちょっぴり意地悪な笑みを零す。
「へぇ、楽しそうだ」
「勘弁したってんか」
濡れ鼠な猩々面が情けない声をあげる。
こんにちは。阿瀬 春と申します。
お三夜祭、楽しそうです。ねこー。
ガイドには音羽 紫鶴さんにご登場いただきました。ありがとうございます!
ガイドはサンプルのようなものですので、もしご参加いただけますときは、ご自由にアクションをお書きください。
今回は、そのおまつりの夕暮れに紛れ込む人ならざるものの回収(?)のお願いに参りました。
紛れこんだのは、過去何回か書かせて頂いたことのある『その向こう』のお話(とりあえず直近のものにリンクしてみました)の世界の物の怪たちです。
人のかたちをしていないものが多くいますが、言葉は通じます。大抵がおまつりの雰囲気を楽しむ、基本的に気のいい物の怪ばかりです。回収はそんなに難しくないはずです。
時間があるようでしたら、フツウの人々の目を避けて、物の怪と一緒に町を回ってみたり、遊んだりしてみても楽しいかもしれません。
とりあえずは、迷い込んでいるのが確実な物の怪何人かを。好みそうなものや場所もいくつか。
■一つ目ジジイ
一見和装のおじいちゃん。ただしひとつ目。
酒好き。将棋好き。
帽子を目深に被って旧市街の場末の居酒屋に居座っています。
■カンナ
おかっぱ巫女姿、十歳くらいの少女です。大抵墓地に居ます。過去に賑やかだった場所を好みます。
三夜湖湖畔の大規模な廃墟を遊び歩いています。
■人面犬
体は子犬、頭は少年。割と美少年。可愛くしゃべります。
こちら側に迷い込むなり見知らぬ場所と溺死の恐怖に怯え、泣きながらとぼとぼ山を下りました。故郷(江戸時代の町並みに似ています)とよく似た場所を見つけて、ニンジャにビビりつつ隠れています。
■這い寄る井戸端の女
長い黒髪に隠れた顔、四つんばいであなたの後ろに這い寄ります。気のいいおばちゃんですがホラーです。井戸の中から出没してはひとを驚かすのが大好き。今回は温泉宿の井戸に潜んで観光客を驚かすべくどきどき待機しています。
■その他の有象無象なナニカ
上記の物の怪の他にも、何体かも物の怪が寝子島のあちこちをうろうろしています。
ご参加、お待ちしております。