シーサイドモールに設置された、n.k.FMの公開録音スタジオ。
パーソナリティーとゲスト数人が入ることができ、ガラス張りで外からブース内を観覧可能な公録ブースと簡単な観覧席に加え、演奏等の可能な簡易ステージが設置される。
さて、今日のプログラムは……?
今日ここに来てくれたり、今、自分の部屋でラジオを聴いてくれてる中で、
8月下旬~9月の始め頃、差出人不明のメールが届いたっていう人、居ませんか?
小さい子がお友達に宛てたような……それでいて、ちょっと怖い感じのメール(ちらっと市子を見て)
(ピックを滑らせながら。足元のいくつか並んだペダルのひとつを、ぐっと踏み押して。
弦が震えるたび、旋律に合わせて、少し耳に触る秒針がモールにこだます…)
(ブースの光量が絞られ、一瞬の沈黙の後、ステージの照明が灯る―――)
(元気のない人も、楽しそうな人も。
期待を煽るようゆっくりと観覧席全体を見渡し、ウインク)
さてさて、今回のメインイベント。
どうやら準備ができたみたいね。
それでは――一曲いってみましょう。
狛猫で『やくそく』、どうぞ。
(観客を向いたまま、察し。
隣ともブース側ともつかない曖昧な方角にピックを摘まんだ手をひょいっと上げて、合図)
(機材の調整を終え、ふっと小さく息をつき、目を閉じて心の準備をする。
一瞬後にゆっくりと目を開け、
スタンバイ完了。相棒の合図を待つ)
(電子ピアノに近づいて、
おもむろに、ジーンズのポケットから紙マッチを取り出すと同時に片手で着火、ランプを灯す)
………(ここまで相棒を見ようともしない。でも、耳を澄ませて。やんわり構えて。窺っている…)
(電子ピアノの傍に寄り、音源モジュールを軽く操作し設定を確認。
小さく頷いた後、ショルダーキーボードを構えてまた軽く弄る。
表情は真剣そのもの)
(ズタ袋に手を突っ込んでランプを引っぱり出し、ピアノの上に載せて。
ギターを取りストラップをかける。窮屈そうな仕草で長すぎる三つ編みを外側へぴっと弾き)
(薄暗く照明の落とされたブース外にはシンセサイザー…ではなく、電子ピアノが1台。
その両脇のアンプ、音源モジュール、エフェクター…等といった幾つかの機器と接続され。
片隅にズタ袋と黒いギター。対の場所にはレトロなフォルムの赤いキーター)
(市子とほぼ同時に立ち上がり、ブースの外に視線を向ける。
外にいる人達の様子を軽く見回し、それを噛み締めるように微笑みつつ僅かに会釈。
そして市子に続いてブースを出て行く)
(かったるそうに立ち上がって。でも、また人が増えたことを見逃さず。
人だかりの遠くから徐々に手前へ、ひとりひとりの顔をざっと見て。一瞬だけ笑い。
ブースを出ていく)
(すごくワクワクしています)
二人の演奏…!
(嬉しそうに瞳をキラキラと輝かせる
【思いっきり疲れた表情でふらりと歩いている最中、ブースが盛り上がってるのに気づき、
明るい雰囲気に引き寄せられたようにゆっくりと近づく。
目立たないよう出来る限り背後へ移動】
……OK!スタンバイお願い!
あたりはもうすっかり暗くなっちゃったけど、思った通り綺麗な月が出てるし……アウトレットはまだまだ賑やか。
夜はこれから、って感じ?
任せろ。
(鳴の目配せを受けて)…どーもこーも…(「ミュージシャン」にじわじわ)
オメーがやる気なってんのにあたしが引っ込むワケいかねーし。しょーがねーな。
……ミュージシャンだって、市子。
(くすっと含み笑いを浮かべ)
そう言われたら、緊張なんて吹き飛ばさなきゃいけないわね。
あたしは大丈夫だけど、どう?(市子に目配せし)
(観覧席に微笑み返しつつ)
へー……二人ともわりかしクールなタイプっていうか、丈夫な心臓の持ち主に見えるけど……あ、今ねこったーで「お前が言うな」に類する内容を呟いた人は総発言数の数だけ腹筋してね。
……と、それはともかく。
あの時の演奏聞いた皆の中には、結構強ーい印象残ってるんじゃない?
私も、一足先にそういう体験しちゃったってわけ。
―――さあ、ここまでお二人にいろいろ聞いてきたけど……
(反応を覗うようにブースの外をぐるりと見渡しつつ)
みんな、正直どう?
せっかくこうしてミュージシャンが来てるわけだし、そろそろ演奏聞きたいと思わない?
……二人はどう?何か聞かせてくれる?