シーサイドモールに設置された、n.k.FMの公開録音スタジオ。
パーソナリティーとゲスト数人が入ることができ、ガラス張りで外からブース内を観覧可能な公録ブースと簡単な観覧席に加え、演奏等の可能な簡易ステージが設置される。
さて、今日のプログラムは……?
(また一歩、鍵盤の前へ)
ぽつり眠った みんな知ってる
(沈黙。歌声。伴奏。
追いかけっこというより、異なる存在同士の追走か。
変わった展開を見せる演奏に少し驚き、目を見開く。
すると乃木さんの顔があってちょっと驚きつつ……)
……♪
(にっこり微笑んで手を振り振り)
(ガラス越しから中の様子を伺っている 無意識に中の人の眼帯が視界に入らないように右側面を前にするように)
同い年ぐらいかな……? 学校で見たような顔だけど
(一秒あと、電子ピアノへ一歩)
ひまわりぽつり
ひまわり色したショベルカーぽつり
(一歩、電子ピアノへ)
空き地にはひまわり
(市子へ応じる意思がないのか、まるで気がついていない風に、手を停めたまま。弾む声で)
「どうしてないの?」左手をみた
「いつまで掘るの?」左手の空き地
(鳴の表情に皆目そぐわない、先ほどのうすら寒い伴奏を再開。
よりおどろおどろしくトーンダウンしながら、しかし、よりリズミカルに運ぶ)
(こちらも手を休めて、瞑目。
やがて。沈黙を破る、またもせっかちな秒針――数えて十五回目の一度きり。
もう二本、針の音が重なるのと一緒に瞠目。その顔は、いやに明るくて、笑みすら浮かぶ)
(欠けた音色を補う様子もなく、不穏な、不気味なメロディをフェードイン。
悲壮な眼差しを、鳴に向けて…)
どうして
(…ひた。と。唐突に、演奏を停める)
(雨音か、朝露か、涙か。上下する音階が零れ落ちるしずくのよう。
だが、次第に速度が落ちて、音がひとつずつ失われて。ついに右手のみの演奏に)
(ビブラートを飲み込んで、観衆へ、ブースへ。モールへ。リスナーへ。誰へとなく、ささやかに)
だから最後の 練習しよう
だからお願い 目を開けて
だから…ねえ 学校、行こうよ
(けれども発声と滑舌は明瞭。キーもそのまま、じわり。じわり。染めるように音を寄せ、重ねて…)
だから
(MCが終わると共に優しいペースでステップを踏み出した旋律に、
薄暗いブースで、目を閉じて、耳を澄ます……)
………♪
(今はただの聴衆のひとり。
ピアノの音に、あ、好きな音だ。そう思った。
うまい言葉もないし必要ない。
ただ聴き入り、楽しむ)
今日はお楽しみ会 みんな待ってる
人気者のきみのこと、だから…
地下室でふたり今日は
…朝早く ピアノ弾くの
だれにもないしょ 地下室で
ずっと前の朝―――Ah―――――――――――…
(ちく、たく、ちく…たく………。
針の音がフェードアウトする代わり、ギターがキーターの隙間を縫いつける。
ついで。りん、と発した声は、ピアノと同じヴォリュームにチューンしたアルト)
夢をみてた………ずっと
噂やメール、それと夢のことに心当たりのない人にも、……ある、人達にも。
この歌を、捧げます――。
(目を細めて、ギターのイントロに鍵盤をなぞらえ。程なく独立した旋律を進む。
軽やかに清々しくも、どこか気だるくて。寂しくて。変調するピアノのバラッド。
さえずり――曙光――目眩さえ――音に。甘く。優しく。低く深く。また…高く)
(鳴を見返してから)さもなけりゃーアレだ。女のコのウワサ。
夜寝てるとユメんナカでそのコと遊んだり。一緒に探し物したりする…ハナシ。
あたしはメール届いてビビったクチ。
で気になって自分なりに調べてみたんだけど…結局あんま詳しいコト分かんなくて。
でも…まー分かったコトもなくはないっつーか。イヤやっぱ…(ピックを持つ手をだらんと放り)
分からんけどね(呆れたように小さな溜め息をして)
つーワケで…(また、弾き始め)…分かんねーナリにカタチにしてみたし。