シーサイドモールに設置された、n.k.FMの公開録音スタジオ。
パーソナリティーとゲスト数人が入ることができ、ガラス張りで外からブース内を観覧可能な公録ブースと簡単な観覧席に加え、演奏等の可能な簡易ステージが設置される。
さて、今日のプログラムは……?
(そろーりと忍び寄り。死角からブース内へ)……………。楽しそーだな。
あはは、内緒でいいの?
もったいない。
んー……親しい?
……うん。そうかも(何か思うところのある表情で曖昧にうなずき)。
あ、でも、それ。クールってとこ。
ああいう低血圧ノリだけど、でも実際は真面目でお人よし、ツッコミ役だしいじられ役だし。
あと、ふふ。あの人あれでけっこー繊細。
そういうとこはちょっと可愛いところで……(にこにこ顔)。
あ―――でもでも。
見た目の印象通りなところもあってね……ちょっと機会があって一緒に服を買いに行ったんだけど、試着の時……(声を潜め、市子さんのあることないことを暴露しようと―――
(時折ブースの外に微笑みを向けつつ)
そうなんだ……随分手馴れてるように見えたから意外。
きっと天賦の才があったのね。
それにしても……圭花って市子と個人的に親しいみたいね。
やっぱり、いつもああいう調子なの?
あ、変な意味じゃなくて……市子って態度が基本的にクールっていうか、冷めた感じ……あ、同じ意味か。そんな感じじゃない?
でも実際はかなりアグレッシブで……あたしも市子に引っ張られてここにいるわけだし。あとなんだかんだで情に厚いし。
なんていうか、上手く言えないけど……いい女よね。
(言ってからはっと我に返り、慌てた様子で人差し指を唇に当て)
あ、あたしがそう言ってたってこと、市子には内緒だからね?
(市子さんを唖然と見送り。
ブースに明かりが戻ると、頬をぐにと引っ張って狐に抓まれたような顔を引き締め直し、こほんと咳払い。
取り出したフリップボードに「お花を摘みに行きました。」と書いて市子さんの席へ)
……お疲れ様!
ふふ、そのへんは全然大丈夫。
てか私だって人の喋りを上から評価するほど玄人でも何でもないからね。
ラジオで喋ったのなんて、ネコフェスの時が初めてよ?
たまたまそれが上手くいっちゃったせいで、元は裏方のバイトで入ってたはずがいつの間にか放送枠ができてて……あとはこの通り。
ま、嫌いじゃないけどね……あ、リスナーの皆はとっても愛してるから(思い出したように笑顔を作ってブースの外に手を振りつつ)。
え、っ……?(咄嗟のことで市子に反応できないまま見送りつつ、キーボードを置き戻る)
(ブースの外を見回して微笑み、軽く会釈して着席。
CM中でマイクが入っていないことを確認)
ふー……(大きく息をつく)
やっぱり緊張するわね、こういうの。あたし変なこと喋ってなかった?
(ジングルが始まると同時、ギターをスタンドに置いて、鳴の肩ぽんと)
ちょいと「レコーディング」行くし…(ひそ)
(返事も待たず妙にそわそわと小走り。
圭花にも「ヨロシク」と片手を上げ…るなり全力疾走でどこかへ去る)
(賑やかなジングルと共に、しばしCM入り――……)
(曲に乗せて紡がれた言葉に、何か特別思うところがあったのか。
明かりを落としたままのブースの中で、少し複雑な表情。
だけどそれも一瞬のこと。
2人の挨拶が終われば我に返り、手でスタッフに合図を出す)
(しばし目を伏せ、余韻が抜けるまで空気に身を任せ
一息ののち静かな声で)
……ありがとうございました。
……………。ありがとうございました。
(しめやかに、でも、少しばかりの明るみの中。名残と、余韻と――――了)
夢で
またね
(スローテンポ。
イントロで鳴が弾いていたものを、少々キレのあるアレンジで真似て…)
大好きなきみの 夢
大好き――
(ビブラートの最中、少しずつ歩み去るように、手を離し、ピアノから離れ)
大好き…
いつか絶対また遊ぼう
弾こういつか
ちゃんと練習しておくね 一緒にピアノ弾こう
ありがとう ちゃんと
(揃った指で、きらびやかに、快活に、隣の音色と調和を果たし、面相も朗らかなそれへ)
ごめんね やくそくやぶって
でもみんなが見つけてくれた 大丈夫アリガト