ある日の寝子高生徒会会議｜リアクション

ある日の寝子高生徒会会議

○伊達メガネ投入！

　次に桜庭円が挙げた議題は、多くの委員たちを困惑させた。
「はいっ！　学業レベルの向上の為、生徒一人に付き一つ伊達メガネを投入しよう！」
「伊達眼鏡、ダト……！？」
　武道が自分の眼鏡に手をやる。
『いみあるのこれ？　ただのむだづかいじゃない？』
　皆が反応に困りざわめく中、友人の海の突っ込みは厳しかった。
「皆の反対も解るよ。コストが掛かりすぎる事……だよね。
　眼鏡チェーン店に勤めている知り合い経由でタイのとある工場につなぎ取ったから、プラスチック製、大量生産で安く済むと思う。
　コンセプトは直接購入する事で中間マージンを抑え、大量生産でコストを抑えた事。GOサインさえもらえればすぐ動けるよ」
　円は平然と壮大な計画を話す。

「待って。視力が悪い生徒がかけるならわかるけど、伊達眼鏡がどうして学力向上につながるというの？」
　風紀委員長の北風貴子が皆の疑問を代弁する。
「眼鏡で学力向上の根拠が無い？　悲しい事だけど、間違った知識を持った質問は来ると思ってた。
　プラシーボ効果……ご存知でしょうか？」
「知ってるわ。薬理作用のない薬で、治療効果が上がることよね」
　貴子が即答する。
「思い込みの力とは、如何ほどの物でしょうか。偽薬等で思い込ませ、効果が出ることは現在の科学では証明されています。
　重ねて、アンケートで結果が得られています。眼鏡をかけた人間とそうでもない人間どちらが頭がいい風に見えるかどうかと。
　やはり、眼鏡をかけた人のほうが圧倒的に、頭が良さそうに思えたそうです。一般認識的に、眼鏡＝頭がいいという図式が成り立ちます」
「なるほど、貴子ちゃんがクールビューティなのは眼鏡の影響もあるよねえ」
　信彦が頷く。
「ある科学者はメガネをかけることで視野が狭くなると述べております。短所ではありません。一箇所の注意力を高めるという長所を得る事になります」
「伊達眼鏡が、……学業集中に？」
　貴子は混乱しているようだ。
「熱い気持ちを感じるアル。賛成アルよー」
　華菜子が賛成する。
「あっでも、やっぱり初めは推奨からだよね！　いきなり義務化はちょっとね」
　すでにやる気満々の円である。
「デザインが自由なら賛成するよ」
　夏朝が言う。
「デザインが自由？」
　キラリ、と貴子の眼鏡が光る。
「それは見逃せません。皆が好き勝手な眼鏡を掛けだしたら……」
　何か嫌なことを思い出したようだ。
「メガネの改造に関する校則をどうするかも今後の案件にしなければいけないでしょうね」
　と円は語るが。

（ふむふむ、眼鏡をかけた人は頭がよく見えるという思い込みからと……）
　海は、スケッチブックで真っ向から反論した。
『それはまちがいだよ円ちゃん』
「えっ？」
『ぼうこくみんてき青ねこたぬきアニメの主人公を見てごらんよ、めがねをかけているのに頭がよくないじゃないか』
　さらさらと海はスケッチブックに青猫狸の顔を描いてみせた。
『つまり、かれのことをしっているかぎり、かんぜんにめがね＝頭がいいという図式を思いこむことはできないんだよ！』
「な、なんだってー！」
　動揺を見せた円が、反論しようとするが。
「ハイハーイ俺伊達眼鏡デッス！　試しにかけてみちゃう？」
　武道が、自分の眼鏡を近くにいた御剣刀にかけた。
「「！　………」」　
　伊達眼鏡をかけた刀の顔を見た円と海は電流が走ったかのように沈黙した。海が沈黙しているのは元からだが。
「なんだよそれ、どういう意味だ！」
　刀の抗議に答える者はなく。
「今回は問題提起ってことで……眼鏡のデザインとか、もうちょっと考えてみる！」
　円はそう言って着席したのだった。
「次、誰か議題はあるか」
　何事もなかったかのようにスルーする生徒会長だった。

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