ある日の寝子高生徒会会議｜リアクション

ある日の寝子高生徒会会議

○エアコンをめぐる熱い討議

「1年3組美化委員、椿美咲紀です！」
ポニーテールの少女が立ち上がる。
「美化委員会の報告の補足かな」
　茂の問いに、美咲紀は熱く語りだす。
「校内美化推進のため、もっと花壇を増やしたいのです。
　噴水周辺の花壇で皆さん癒されています。校舎の側に花壇を作れば、季節の移り変わりもより鮮明に判って情緒的芸術的に刺激されること請け合いです！
　それに植物達が植わっている事で太陽光の照り返しとか温度・湿度の微妙な調整が期待できますね。花壇が無いと将来への死活問題につながります」
「死活問題とは少し大げさじゃないか？」
　茂が言うが。
「大げさじゃありません。何故ですって？　この夏は授業中酷い暑さを我慢する事を強いられ、正しく、奇数クラスでは地獄絵図でした」
（たしか奇数クラスには設置されてないんだったっけ）
　話を聞いていた１－２の学級委員、小山内海は思う。
「ランダムなクラス分けから私達がこんな理不尽に非人道的なメに遭わされるなんて、基本的人権の侵害としか言いようがありません。
　同じように学校へ授業料や設備費など納めてるのにこんな格差が何の改善もされずまかり通っているなんて、あまりな仕打ちじゃないですか」
　そう訴える美咲紀に、華蓮も同意する。
「そうですわよね、奇数のクラスにエアコンが無いのはおかしいですわ。皆同じ環境で教育を受けられるようにするべきですわ」　
　美咲紀はそれに頷いて、生徒会長に詰め寄る。
「生徒会長、どうして私達奇数クラスだけこんな不利益を強要されるのですか？
　搾取されている事実にいつまで目を背けるのですか？　この不公正を見過ごすのですか？」
　名指しされた茂は表情を変えずにつぶやいた。
「エアコンのことか。今日の議題にもなっているが、そんなに深刻な問題なのか」
　美咲紀が、信じられない！　という表情になる。
「え、生徒会長って３組ですよね？」
「茂くんは猫鳴館住まいだから、エアコンがなくても気にならないのよね」
　琴理がにっこりと突っ込む。
　焔も言う。
「やっぱエアコンの話になるわよね、理事長も無茶をするわ、あたしは偶数組だから夏はありがたかったケド、エアコンがないとやっぱり大変だったみたいね、今から手配して冬が終わるまでに付けられるんならやるべきよ」
「そうアルねー」
　真剣な眼差しで意見を聞いていた華菜子も焔に同意した。
「椿の提案は良い案だ。環境問題は大切だよ」
　修がすっと手を上げた。
　茂が頷くのを待って、立ち上がり発言を始める。
「知っての通り半数の生徒が劣悪な環境を強いられている。エアコン導入は死活問題だ。
　観測所の平均で、今夏、県の平均最高気温は３５度、学校衛生環境基準は３０度まで、薄着で快適なのは２４度。
　基準から５度、最適温度からは実に１０度も高い。
　……強いられてるな」
　苦笑する修。
「んー俺白組でそのエアコン水泳に参加してたから、その頑張りがなくなるのは悔しいっちゃ悔しいが……今後クラス替え、特に偶数奇数組が変わった時に現状ままだと問題出そうな気はするな」
　武道が言う。
「賛成だ。お金とか難しい問題はよくわからないけど、オレ自身９組の生徒だから快適に過ごせるようになるのは嬉しいしさ。来年は１０組になるかもしれないけど、今からじゃわからないし」
　博美も言う。
『予算とか大丈夫なのかな？』
　子供のころの病気で声が出ない海がすっと手を上げ、スケッチブックに書いた文字を見せる。
『年度初めに1年分の使い道決めちゃうと思うんだけど……予算がないならむずかしいと思うけど、そのあたりどうなのかな？』
　それを見やり、修は続ける。
「俺が入手した情報だと職員会議でも検討された。しかし予算的に難航中だ。
　なら、目処が立てば良い」
　そういうと、修はバッグから分厚い資料を取り出しテーブルにドサリと積んだ。
「『予算要求書』『要求資料』に『予算獲得提案書』だ」　
　国の基準、夏期平均気温算出根拠、近隣私学の導入状況……さまざまなデータがまとめられている。
（教頭先生にも聞いて貰いたかったんだが）
　残念ながら、都合がつかないのと生徒主体の会議であるのを理由に断られてしまった。

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