【爆発レベル：３　遊撃的な意味で爆発してみた】

　志波 武道は選択課題の制作のため、寝子高で作業の真っ最中。
「空き教室を課題の為に貸してくーださイット！」
　軽い口調で彼は許可を取り、機材を搬入して早速開始。
　今回、志波が作るのは『全方位パノラマ写真（どこでも武道☆Ver.）』である。
「コマ送りアニメとかおもしろいよなー……。そういえば芸術で写真なんだけど、繋げたらパノラマになるようなのあったな！　うっし、どの写真見ても俺が入ってる、教室の360度パノラマ写真をつくるZE☆」
　つまり、北のクールな武道、東の脱衣の武道、南の陽気な武道、西のカッコイイ武道が写りこんだパノラマ写真を完成させ、教室全方位に貼りだそうという作品なのだ！
　四天王ならぬ四武道である。
「それじゃ、デジカメセット、よーっしセルフタイマーで連続撮影にして！　まずは本邦初公開☆俺の神速脱衣の瞬間の撮影から！」
　タイミングを合わせるために志波は精神を集中。
「イマダ！」
　志波はシャツのボタンに手を掛けたかと思えば、一気に上下の衣服がするりと滑り落ちていったではないか！
「フッ……、今日もいい脱ぎの手応えだったぜ……。どれ、出来栄えはどうかな？」
　志波はあまり期待せずに写真を確認する。
「こーいうのってさー、素人の腕だとブレたりピンボケかつ、動くもの撮影したら十枚中九枚見切れるはずダヨナー！　ん……？」
　しかし、志波にも神魂の影響が出ていた。
「うそぉぉー！？　全てのカットに鮮明に撮影されてるジャナイカー！？」
　神速脱ぎの瞬間が、コマ送り状態で克明に撮影されていたのだ。
　これを見れば、神速脱ぎの偉大さを他人が見ても分かるほどくっきりはっきり写りこんでいた。
「どうしたんだ、俺？　もしかして、撮影の才能が爆発してKA☆I☆KAしちゃった！？」
　鉄壁のブーメランパンツ姿のまま、もう一度撮影をしてみる。
　今度は西のカッコイイ武道の場面だ。
「見よ、俺の筋肉！」
　連続して瞬くストロボに合わせて、素早く何種ものポージングをする志波。
「やっぱり……。俺は目覚めてしまったのか……？」
　いや、これは多分神魂では？
　志波はふと疑いを挟む。
　フツウの乱れを予感した彼だが……。
「そんなことよりも筋肉だー！」
　すっかり自分の筋肉美の追究に没頭してしまう。
　続けて北と南の武道を撮影し終えるも、まだまだ筋肉美の追究熱が冷めることがない。
「この感情……、たまには身を委ねてもいいかも☆」
　と、いうことで。
　志波は着衣後、機材をまとめて外へ繰り出す。
「俺よりも腹筋凄い奴に会いにいくぜ☆」
　志波はスマホを取り出すと、数名の知人へ連絡を入れた。

　八十八旗 信彦はこの世に存在する女性全てに敬意を払っている。
　そんな彼が、紳士として寝子島の美女たちを素材にしたスマホ時計アプリ『寝子島美人うぉっち（美人時計＆見物のダブルミーニング）』を作ろうとするのは、もはや運命ともいえよう。
　更に、神魂効果で、八十八旗のやる気と撮影の腕前が青天井！
「おおおっ、この高揚感は！　今なら漏れなくレディ達の奇跡の１枚が撮れる予感がするよ！」
　そんな彼は、持ち前の顔の広さを武器に、交遊録から美女たちに片っ端からアポイントメントを取っていく。
　なかには断る女性もいたが、なんと短期間に10名もの美女・美少女（八十八旗談）たちと約束を取り付けてみせたのだ。
「なぜだろう、今日はいちだんと俺のトークスキルが洗練されているじゃないか！」
　これも神魂効果なのかもしれない。
「勿論、無償でとは言わないよ。ささやかだけど、ケーキと飲み物の差し入れをしようじゃないか！」
　出かける前に、人数分の差し入れの準備を終え、まずは同じ星ヶ丘寮の協力者から訪問することに。
「待っててね、レディ達！　この俺が芸術的に撮影してあげるよ！」
　八十八旗は意気揚々と機材を抱えて出立する。

　そして、もう１人、遊撃するヤバイ奴がいた。
「クローネ、早くお店に来てほしいのねん！」
　ゲイバー『ジオフロント』のママ、ミッシェル・ナイスゲイ！
　ここ最近、全裸で闊歩している姿しか見かけていない気がするが、多分なにかの間違いだろう。
　彼、否、彼女は混沌のらっかみ、クローネの専用ボトルを自分の店でキープしているのだ。
　そしてまた、彼女はパリのジャパンエキスポ参加済という、大の日本のサブカルチャー好きでもあった。
「フランスでも有名な日本の“さぶ”カルチャー『ネコミケ』！　ウキウキルンルン♪　ああ～楽しみなんですわ～ん！」
　……何か、違和感があったような？
「ゲイ術のために、クローネのコスプレがしたいですわ～ん！　ほとばしる、パッションッ（重低音）を具現化するために、ゲイ術パワーを振り絞るのよ～ん！」
　違和感ってレベルではなかった。
　ミッシェルはサブカルチャーを取り違え、あまつさえ芸術ならぬゲイ術だと言い張っていた。
　なるほど、そうきたか。
「でもナニカ足りないですわ～ん……」
　クローネを意識した黒の全裸タイツに黒い羽のヒラヒラ衣装を着込んだミッシェルは、鏡の前で思い悩んでいた。
　全身タイツなのは、彼女の良心、自主規制らしい。
「……足りない物……日本のさぶカルチャーと言えば、ＨＥＮＴＡＩ！　これだわ～ん！」
　この時、ミッシェルの脳内で神魂効果によって化学反応が起きていた。
　ミッシェル脳内：ＨＥＮＴＡＩ＝やおい（やめて　お尻が　痛い）要素
「検索エンジンで同人作家を英訳すると“HENTAI　Artists”なるって聞いたことあるわん！」
　現在は修正されているが、一時期、本当にこういう訳が検索エンジンで引っかかるようになっていたのだ。
「つまり！　ゲイ術に必要なHENTAIを集めるために、イケメンハントが必要よねん！　今からアタシはカラスではなく夜鷹になるわよ～ん」
　ばさっと大きな黒い翼を広げると、ミッシェルは夜の闇に紛れ、低空で飛び続ける（性的な意味で）。
「いきなり硬度、もとい高度を上げるのはイケメンハンティングにおいて素人よん♪」
　今夜も性技を御旗に、ミッシェルは通常運行の動きを見せた。

　なんだろう、カオスの予感しかしないぜ……！