怪人セブンの正義｜リアクション

怪人セブンの正義

【18】

　銃声が鳴り響く少し前。
　脱出した面々は、生き延びられた喜びに涙する者もいれば、取り残された者を案ずる者もいた。
　そして、いつの間にか菜々緒の周りには寝子高生が囲っていた。
「私、やっぱり中に戻って皆さんを助けます！」
　菜々緒がこの調子だからである。
　根っからの正義バカといえよう。
「あなたって人は……。まだ分からないの？」
　ブリジットは彼女のあまりの意固地さに、遂にさじを投げた。
　八神も呆れ半分で彼女に告げた。
「忘れたのですか？　先輩は狙われてたんですよ？　今はここから離れて、警察に保護されるべきです」
　霧生は菜々緒を諭すように言い聞かせる。
「お前１人でテロリストに歯向かった所で何が出来るんだ？　それこそあいつらの思う壺だし学生の出る幕じゃねぇ。警察に任せたほうが確実だ。それにお前の親父さんに迷惑かかるぞ。お前、孤児だったんだってな……」
「おい、個人の家庭の事情に首突っ込むのはやめろよ……」
　月居が菜々緒を気遣い、あえて話に割って入る。
　だが、菜々緒は「大丈夫です、続けて下さい」と霧生を促す。
「……まかりなりにも、育ててもらった恩義があるだろ？　それを無視してまで語れる正義がお前にあるのか？　……早く無事だって連絡取ってやれよ」
　その言葉に、自虐気味に菜々緒は漏らした。
「お義父様は『放任主義』だから、そんなに心配してないと思いますけど……。ご忠告、感謝します」
　そのトゲのある言い方は、間違いなく地雷を踏んだ証拠だった。
「俺は菜々緒の選択に任せたいが……」
　吉祥寺は難しい顔のまま菜々緒に話し掛けた。
「俺の傲慢だけど……、友達をむざむざ死なせるような選択は了承出来ねェ。だから、俺から提案だ」
　吉祥寺は菜々緒に抱きつくと、その腕をしっかり絡ませる。
「俺たちとここにいろ！　菜々緒、お前を守って戦った奴らの努力を分かってやれ！　ここで菜々緒が戻っちまったら、それが全部無駄になっちまう！」
　その言葉に、菜々緒ははっと気が付いた。
　自分のために動いてくれた人たちの存在を改めて認識、実感することで、自分がどれだけ傲慢だったかを理解したようだ。
「私は……、とんだご迷惑を……！！　ごめんなさい、クロ……！　みなさん……！」
　吉祥寺の腕の中で涙をこぼす菜々緒。
「なんだよ、急にしおらしくなっちまってさ……」
　吉祥寺は舌を出し、また呟いてみせる。
「友達とこうして生還できるなんて、俺は『幸運』だな。このまま全て万事丸く解決するかもしれねぇな、こりゃ」
　彼女の起こした女神の祝福は、どのように発動したかは定かではない。
　――だが、後日、彼女は『銃で撃たれたような』謎の腹痛で３日間緊急入院する不幸に見舞われ、菜々緒がお見舞いに来るのだが別の機会の話である。
「芽森先輩、２年の朝海って言います。ご無事で何よりです」
　朝海は菜々緒の後ろから声を掛けると、不躾ですが、と付け加えた上で質問をぶつけた。
「今回、怪人セブンがここにやってくるという噂がありましたけど、先輩は怪人セブンについてどう思いますか？」
　この問い掛けに、菜々緒は涙を拭うと、やや振り向き気味で朝海に答えた。
「彼は、私にとって正義です。……過去に、私は彼に助けてもらったことがありますから」
　この告白に、一同は顔を見合わせるしかなかった。
「もっとも……。今の彼は正しいとは思えませんけど」
　菜々緒は溜息混じりに、こうも付け足したのだった。