何でも屋『いぬもり』の楽しいにゃんこあつめ｜リアクション

何でも屋『いぬもり』の楽しいにゃんこあつめ

　パシャリ、とスマートフォンに付いたカメラのシャッターを切る。
　そこに猫がきちりと、警戒心のない姿で映っているのを確かめて、
「――よし」
　と、御剣刀は仄かに口の端を上げた。
「もう結構な額だな。懐が寂しかったから、この日雇いの臨時バイトは助かる」
　金は天下の回りもの、である。
　お金がもらえるならこの依頼受けようじゃないか！　と旧市街の街並みを行く刀だが、
（依頼人の望みも出来るだけ叶えたいからな、頑張ろう）
　と、この依頼の底にある部分にもしかと目を遣っていた。
「次は……団地や寝子島漁港はもう回ったし、参道商店街でも行ってみるか」
　猫の姿を求めて歩きながら、刀はこの依頼の内容へと思いを馳せる。
（『今の姿』っていうのが何を指しているのか分かりづらいけど……）
　こちらの視線に気づかれて警戒をされたら駄目だろう、とは思った。
　依頼人が生き生きとした様子の猫の写真を望むなら、刀は全力でそれに応える気でいる。
　やがて、刀は参道商店街の片隅で丸くなっている猫の姿を見つけた。
　猫が顔を上げるより早くに、頭の中にガチン！　と撃鉄を落とす。
　瞬時に【加速】した刀の身体は、気付けばもう、猫の視線を外れた場所だ。
　あれ？　今誰かがいたような……ときょとりとしている猫を、また写真に収める。
　シャッター音に気付いた猫は、意外なところに立っていた刀に驚いたようで、ぴょんと跳ねて逃げていった。
「あれ、驚かせちゃったか……」
　悪いことをしたな、とは思い首の後ろを掻いた刀だったが、
「うし、綺麗に取れてる。最近のスマホのカメラは本当に性能いいよな～」
　という具合で、写真の方はバッチリだった。
　写真の中、きょとん、とした寝起きの猫は、思わず笑みが零れるような愛らしい様相だ。
　暫く参道商店街を散策したあと、刀はそのまま路地裏へと入った。
　人気のないそこに、また別の猫の姿を見留めて、
（加速して回り込むには狭いな……）
　と、刀は今度は、ろっこんで空気を足場にして空中を駆け上がる。
　空気を蹴って、壁を蹴って、また空気を蹴って、蹴って――。
　あっという間に、刀は辺りの建物よりも高いところから路地裏を見下ろしていた。
（う、わ……！）
　目が回った。恐怖のせいではなく、新しい世界がパッと拓けたような感覚が走って。
（っと、写真だ、写真）
　吹いた風にふと我に返って、慌ててシャッターを切りすぐさま地上へと戻る。
　空に浮くのは普通じゃない。
　人に姿を見られた途端に、ろっこんの力が弱まって真っ逆さま、というのも充分にあり得るとの判断だ。
　地上に落ち着いたあとで、自分でも見事だと思う出来の写真を目に、ほうと息を吐く。
　そうして刀は、スマートフォンへと指を走らせた。
　今の猫の姿を通して見える寝子島の様子も、依頼人へと伝えたい。
　その為には、自分が感じたことをメモしておく必要があると感じたから。
　見上げた空に、先ほどあの場所から見た景色を想う。

（写真を撮るっていうのは、普段は気にしてなかった景色を見せてくれるものなんだな）
　この島ってこういう所もあったんだ、猫達はこんな風に過ごしているんだ。
　写真の数が増える毎に、段々と依頼が楽しくなってきているのを感じた。
（何でも屋に戻ったら、依頼人に俺が感じたことを話そう）
　今の寝子島を少しでも伝えられたらいいなと思いながら、刀は再び歩き出す。
　参道商店街で、撮った写真をプリントしてもらわなくてはいけない。