石造りの2階建て、その1階が店舗スペースである。
日の差し込む一角が外から中が見えるショーウィンドウにはサンプルの箒が飾られており、申し訳程度の客引きとなっている。
店内は開放的で存外物は少なく歩きやすい、シンプルでナチュラルなテイスト。
魔法具の材料となる素材のサンプルが宝石箱のような物に入った状態で設置されている円形の大きめなカフェテーブルが空間の中央にあることと、奥に元は喫茶かバーでもやっていた建物なのかカウンターテーブルがあること、そしてお試し用の品を収めたガラスケース程度。
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入口には、
【小さな道具、お買い求め頂けます】
【魔法の手助け致します】
・小さな素材を貴方に合った形に加工します。
箒の材料でも、貴方が持っているものでも、此処にあるものでもかまいません。
星の力に『形』を持たせる際の補助に。小さな変わった小物として。お気軽にご相談下さい。
・店主が趣味で作った道具達もお譲り致します。
如何せん、癖が強い子が多いこととは思いますが気になった子、手に触れてみたい子が居た場合はお気軽にお申し付け下さい。
と記されたボードも置いてある。
そのような方がいらっしゃるんですか。ああ、でもその型のまま、ご自分で意志を持つ方なら……手を加えられ、相性の良い方と出会えたなら更にですしね……。
(目にしたことが無いからこそ想像し、考えながら)
少し癖のある子には確かになってしまうかもしれませんね。ふふ、色々考えるのは好きですからー。
(伸ばされた腕を避けること無くすっぽり収まり)
そうですね。僕も好きですよ。
色々な子が、道具や箒やその材料が此処には居ますが、どれもこれも色々な縁があるのはやっぱり見ていて嬉しいです。どれが一番では無くて、どれも一番なのが何だか嬉しいのですよー。
あー、聞きかじりだけどさ、所謂呪いとか魔性の品っつー感じの…自分じゃ動けないけど結局人を自分で魅了しては破滅させて次々主を変えてるやつがあるんだって。怖ぇなって思ってさ。
(肩をすくめてみせつつもそれほどの物を目にしたことがない為か言葉は何処か真剣なところからは剥離して漂い)
夜を切り裂く暁…そいつは鋏の刃の所に刀の要領で別の刃付けをしなきゃなんない気がするけど。
でも確かにあのブーツとは相性良さそうだな。
(視線を宙に浮かべつつ、過去の商品を思い出し)
…ああ、悪い夢のまじないにかかったままの奴を助けられる唯一の道具になれるかもしれないよな。それほどの力を残した加工ってなると持ち主の技量か素質を選びそうだけどさ。
しかし、時計の針か。チェスの発想はいつも面白いから好きだわ。
(からっと笑って頭を撫でようと手を伸ばし)
たまにはいいな、こんな話も。オーダー通りにカスタマイズされて『変更』されてくのも変形されてくのもみるし、既製品がそのまんま売れてく時もあるけどさ、俺やっぱどっちが良いとかはない気がする。
うーん。持ち主が居る子の方が希有と言うのもありますから、難しいところではあるんですけれどねー。
道具は自分で動ける子の方が圧倒的に少ないですし、どうしても座り込んで待ち人を待つだけの迷子になってしまいがちなのかもしれません。
(カフェテーブルの脇に立ち、箱の中身をひと撫でして)
靴、ですか。
(きょとりと目を瞬かせて)
ヒールにするには少々鋭利ですが、エッジ部分だけでしたらとは彼が言うかもしれませんねー。
夜を切り裂く暁の。朝を呼ぶ朝焼けだったら、歓迎されそうな気もしますし。最後の夜空の余韻を切って朝を呼ぶ・・・先ほどの彼誰(かわたれ)のブーツと同じ刻を生きられそうなので、もしこの子たちが靴同士だったのなら案外仲良しさんなのかもしれません。
あとは、そうですね。今言ったものとも更に違う生を歩むと云うのならば、眠気の尾を切ってお寝坊さんを起こす時計の針になれるかもしれませんし、悪い縁を断ち切るお守りにだってなれるかもしれません。
もっとも、まだこの子は鋏のままなので、どうしても「かもしれない」の話になってしまいますが、未来が沢山なのもなんだかわくわくしますよね。
この子はこの子のまま、変わったり変わらなかったり出来るんですからー。
(楽しそうに色々な「もしも」の話を語りながら)
あ、まだ見つかってなかったのか。
(持ってこられた箱を覗き込んで、張り紙の内容を知っていながらもう一度読み直し)
持ち主をとっかえひっかえするよかいいと思うけど、長らく主無しの迷子みたいな奴だよな。
コイツは流石に欠片レベルにバラして何かに組み込むっつーわけにもいかないだろうし…そもそもうちの店の物は大抵“そのまま”使わなけりゃ意義を損なうもんばっかりだしさ。
(ふーむ、と腕組みして首をひねり)
…でもこう、性質を損なわないっていうか、何かに移してやれたらいいんじゃないかとか思うんだけど。
前にあった、彼誰のブーツみたいに、靴に仕込んでやったら、とかさ。…スケート靴にもなんねーか。湖面の鏡に映した夜を限定的に切り取るくらい?
ええ、箒や道具の材料達と一緒です。>ご縁
夜空の裁断ばさみですか……?
(ひょこりとカウンター影から顔を出して)
確か、貰い手が見つから無かったと聞いていますね。張り紙と一緒にしまってあった気がします。……あ、ありました!これですねー。
(一度カウンター影に隠れた後、再び少々年代を感じる張り紙と箱と共にクーノさんへ近づきながら)
ーーー以下、鋏に付属した張り紙の内容ーーー
【募集】夜を切り裂く鋏はご入り用ではありませんか?切り口は小さくとも、星の子達に少々恨みがましい目で見られるこの鋏。作ってみたものの箒に使うには少々重いため、欲しい方にお譲り致します。ご連絡はsweep∽sleepまで。【張り紙】
運だもんな、簡単に言っちゃえば。
出会うべき人でも、そのタイミングが来ないと無理矢理会わせたって上手く行かないから不思議なもんだ。
(適当に椅子を引っ張ってきて座るとカフェテーブルに頬杖つき)
あ、チェスー、結局夜空の裁断ばさみってどうなったか聞いた?ほら、重くて箒に使えないって言ってたやつ。
そうですね。何かご縁があるといいですねー
(カウンターの影で材料の整理をしながら)
(椅子から立ち上がってぐっと体を伸ばし)
さっ…て、今日も一日頑張りますか。ご縁がありゃの話だけどな。