石造りの2階建て、その1階が店舗スペースである。
日の差し込む一角が外から中が見えるショーウィンドウにはサンプルの箒が飾られており、申し訳程度の客引きとなっている。
店内は開放的で存外物は少なく歩きやすい、シンプルでナチュラルなテイスト。
魔法具の材料となる素材のサンプルが宝石箱のような物に入った状態で設置されている円形の大きめなカフェテーブルが空間の中央にあることと、奥に元は喫茶かバーでもやっていた建物なのかカウンターテーブルがあること、そしてお試し用の品を収めたガラスケース程度。
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入口には、
【小さな道具、お買い求め頂けます】
【魔法の手助け致します】
・小さな素材を貴方に合った形に加工します。
箒の材料でも、貴方が持っているものでも、此処にあるものでもかまいません。
星の力に『形』を持たせる際の補助に。小さな変わった小物として。お気軽にご相談下さい。
・店主が趣味で作った道具達もお譲り致します。
如何せん、癖が強い子が多いこととは思いますが気になった子、手に触れてみたい子が居た場合はお気軽にお申し付け下さい。
と記されたボードも置いてある。
そうですね。あるべきものは、あるべきろころにー……とは、ちょっと違うのかもしれませんが。
はい、栗鼠さんでチェスさんですー。
……?音、ですか。僕には聞こえずー……ええ、この包みも箒でー……ああ、なるほど。これはお客様の箒だったのですね(合点がいったようにポンと両手を合わせ)
お客様。いえ、箒屋さんならこう言いそうです。『蕾の君』様。
宜しければこちらの箒に触れてみて下さい。(しゅるり、とシャロンさんの前で箒の包みを解き)
これは、空へと向かう箒。
真昼の青空に恋した妖精の遺骨と、その心から生まれたイシを使った箒。
箒の先端を空に向けるとぐんぐん上昇して空の上の方を飛ぶ事が出来て、けれども夜になると途端に気まぐれで、何だかおしゃまな少女のような箒。
祈りみたいな、願いみたいな、澄んだ恋心を運ぶ軽やかで可愛らしい子なんですよ。
(シャロンさんの前に『まだ見ぬ蕾の君へ』と書かれた封筒と、今シャロンさんが腰をかけている箒よりも美しい白色をした柄が陶器のような手触りの箒を差し出し)
ぷかぷか…ふよふよ…?……こっちはつるつる。うふふっ。
(段々慣れてきて、硝子の花を撫でたりするうちに表情が明るくなって好奇心を見せ始め)
面白いわ、素敵ね。今、本当にお話の中みたいよ。
類は友を呼ぶ、だったかしら。分かるわ、暗い人の所には仄暗い物が集まっていくし、夢に満ちた人の所には夢とロマンが詰まった物が集められていくもの。
…?
(ふと箒に乗ったまま首をかしげて)
…何の音、かしら。ここ、別に音楽はかかっていないわよね…?
(ひかえめにきょろきょろした後カウンターの方を見て)
えっと、リスさん…ううん、チェス‥さん、なのかしら。その包みも、箒なの?何だかそっちの方から音が聞こえる気がして…澄んだ…綺麗な音…。
『空飛ぶ箒』ですからね。全部の箒に箒屋さんの願いが込められてるので、無茶な乗り方しても乗り手を落とさない箒が多いんですよー。
(シャロンさんの方を向いてにこにこ微笑みながら)
……たまーに例外の方も居ますけれど。そういった方にはそういった感じの乗り手の方が付きますし。
クーノさん、ありがとうございます。きっと籠の箒さんの方は幼子みたいな方と一緒の方が良さそうですー。
そして、その封筒が付いた箒もそこでー……箒屋さんの事ですから必要とする方がもうじきいらっしゃるか、もういらっしゃるかだとは思うのですが。
そうですね。怒りそう、と言いますか、ぷんぷんしそうと言いますか。……あれ?
(『必要とする方へ』の文字の後に『まだ見ぬ蕾の君へ』と文字が浮かんだ手紙を見つめ)
成程。この箒、きっとこの近くにいらっしゃるお客様の箒ですね。封を開けた方が良さそうです。
(ぽつりと誰へでもなく言葉を零し)
(背後:すみませんでした…><)
おー、浮いたなぁ。(悠長な声上げ)
(届いた声にあっさり頷き)
おっけ、じゃあ適当に…スペース作って押し込んだら相席の箒が嫌がるかもしんないか。
チェス、あとで一緒でもいいって言う奴のトコに並べてやってよ。
(破れた中でも比較的大きめに面積が残った包み紙の皺を伸ばして、カウンターテーブルに広げると通学路の箒を真ん中に置き、そっと両端から再び包み紙を埃避けとして折り被せ)
…何かその内ショーケースが四季になってたりしてな。(ぼそ、)
(封筒が破り取った包み紙に紛れないように脇に除け)
俺はこれ読まなくていいよな、うん。
じゃあこっちは1回此処置くわ。壁に立てかけたら何か怒りそうな箒に見える。多分。
(PL:メッセージありがとうございました!時間空きはお気になさらず!)
ひゃ、わ、わぁっ…!
(浮き上がる感覚に驚いてチェスさんの手を取っていない方の手で箒をきゅっと掴んでバランスをとろうとわたわた)
……ほ、ほんとだわ、力持ちなのね…?
(ほんのちょっと足をぱたぱた動かしてみて本当に浮いていることに心底びっくりした様子)
(「そんなことないよ」と言うように静かに箒が浮かび)
箒屋さんが乗っても何でもないようにふわふわ浮かんでたので大丈夫だと思いますー。
箒さん達、力持ちの子が多いですから!
(ぐっと力こぶを作るようなポーズでえへへと笑い)
はい!僕は栗鼠の形をしているんですー。
ふわふわ大きいしっぽだなって自分自身でも思います。お気に入りなんですよー。
(クーノさんの声の方に耳がピンっと反応してそちらを向き)
通学路の箒さんは入用の方が居るかもですからショーケースでも良いかもしれませんねー。ちょっと店内ひんやりしてしまうかもですけれど。
あ、あとその『必要とする方へ』と書かれた封筒が貼ってある箒は担い手の方が現れるかもしれませんから奥に入れない方が良いかもしれません。
あ、…あんがと。
(真っ直ぐな言葉を受け止めて照れたようにぎこちなく顔を背け、意識が逸れたのを良い事に荷物を開けに足を向け)
開けたら一旦後ろに下げるか?それともちょっとの間こっちに置いとくやつ?
(何の躊躇もないが僅かばかり綺麗に開けられないだろうかという期待を滲ませては結局包装紙と同じ様に破り捨てていき)
おー、また何か異国風?な奴が来たな…。こっちは、普通だけど普通じゃない奴。あと何かひんやりしてる…?
(ぶつぶつと独り言を言いながら結局はバリバリと諦めた様に大雑把に包み紙を剥がしていく。しかしただぐしゃぐしゃにするのではなく一応綺麗に皺を伸ばして片づけようとしている辺りに微妙な性格が滲み出ているようだ…)
クーノさん…。私はシャロン。
牛さんだったんだ。耳、綺麗な色。
(さっきぴくぴく動いていた耳に興味を示していたが、箒を用意してくれる店員さんと箒に目を移して)
こんにちは。貴方は…リスさん?おっきな尻尾!
(箒の説明に頷いてはいるものの、あまり頭に入った様子はなく)
そうなのね…ごめんなさい、とっても綺麗で、不思議な感じはするんだけどお話のイメージがまだぴんとこなくて。
でもさっきよりずっと興味が湧いてるわ。だって本当に綺麗なんですもの。
(そっと歩みを進めて差し出された手を取って箒に腰掛けようとして)
大人しい…あ、あの、重かったらごめんなさいね。
(箒に話しかけて良いのかを迷う様に声をかけて)
サンプル用の箒ですねー。わかりました。
それでしたら、きっとこちらが使いやすいでしょう。
あ。クーノさん、その荷物は箒屋さんからみたいですので開けてしまって大丈夫ですー。
新しい箒達だと思いますから。
(ショーケースから1本の箒を取り出しながらそう伝え)
では、改めまして。sweep∽sleepにようこそ。
箒は理由がかみ合えば浮かぶものなのだそうで、この箒は空を映した水盆と月を映した水盆に同じ時間浸けた硝子の花をあしらった箒です。
硝子と言っても生きている花で、浸かっていた空にまた会えるのが嬉しくてふわりふわりと浮かんでくれるそうですよ。
箒の中には浮かぶ他に駆けてしまったり、潜ってしまったりする子も、勿論ほかの子だって多いのですが、
試しで触れるならば浮かんでいる子がいいかと思いまして。
どうでしょう、少し腰を掛けてみませんか?大人しい子なのできっと大丈夫だと思いますー。
(淡い黄緑色の硝子のような蕾と花が穂の根元から柄の中ほどまであしらわれた少し小ぶりの箒が地面から丁度椅子ぐらいの高さでふわりと浮かんでいる。その横でにこりと笑ったチェスが箒に腰掛けやすいようにシャロンさんへ手を差し出し)
(にこにこしながら話を聞き)
ありがと。此処に居る奴らも褒められて嬉しいと思うよ。
(後ろから聞こえた馴染みの声に喜色を浮かべて振り返り)
お、チェス、丁度良いトコに来た。
お客さん、箒の試し乗りがしたいらしいからショーケース開けてサンプル用に1本出してあげてくんない?
…てか荷物多いな。やってる間片づけるか。
それと、俺は牛だよ。スイスブラウン種。
お兄さんって呼ばれんのもくすぐったいし、クーノでいいわ。クーノ・ヤスピス。
(声のする方へと向かいながら、ひょこりと奥から店のカウンターに顔を出し)
お客様の応対中に申し訳ありません。
クーノさん遅くなりました。
(ぺこりとシャロンさんの方を向いて荷物を抱えたまま一礼。合わせてふさりとしっぽも揺れる)
いらっしゃいませ。
僕も此処で従業員をしている者です。
あ。こんな格好で重ねて申し訳ありません。
少し荷物を置いちゃわないといけませんね。
(少しカウンターから離れた所に包みや鞄を下ろしてから、「よし!」と言うようにニコリと笑ってシャロンさん達の方に向きなおり)
え、えっと、呼ばれたとかじゃないような…。外から見ていて箒素敵だなって思ったの。
私、箒ってシンプルなイメージしかなかったけど、ここのはまるでアクセサリーみたい。
指輪とかネックレスとか、言われれば大体の形は想像できるけど実際には素材もデザインも全然違う、っていうか。
(メニュー表のようなボードに目を向けて)
まだ欲しい物はよく分からないけど空飛ぶ箒ってとっても面白そう。
子供の夢だもの。試し乗りとかしてみたい!
(目を輝かせて)
…それと、お兄さんが何の動物かも知りたいな?
(店に踏み入る音に振り向きざま椅子から立ち上がって)
いらっしゃいませ。sweep∽sleepへようこそ。
(丁寧な礼を見せるわけでもないが不思議な気さくさで近寄るその頭に生えた耳は来客への興味を示してぴくぴくっと小刻みに一瞬動き)
んーと、何か探し物がある人?これが欲しい!とかこういう物を作ってほしいんだけど、とか。
(一度は傾げた首を元に戻すとやんわり笑みを浮かべ)
……それとも、呼ばれた人?何で来たか分かんないけど来ちゃったやつ。
(店の奥で何やら探し物をしながら顔を上げ)
あれ、声がしたような。どなたかいらっしゃいましたかねー。
クーノさんが表にいらっしゃるので、誰も居ないと言うことは無いと思うのですが……。
……よし、これと、これを鞄に詰めて、持って、と。探し物も揃いましたし、僕も店に出ましょうか。
(その時、店の一番奥でベルの音が一つ鳴る。
奥の壁にはいつの間にか油紙で梱包され、その一つ一つに封筒が貼られた包みが立てかけられてあった)
?箒屋さんからのお届けものですか。数は三つですね。
えーっと、籠の箒と、これは通学路の箒。あとこれは……『必要とする方へ』ですかー。
んー。この包みの大きさ的には箒ですけれど。あ、いえ、箒ですね。(包みについていた封筒を見て)
ここに置いて行ってしまっては怒られそうですし、一緒にもって行ってしまいましょうかねー。
(よいしょと言う掛け声と共に小物の入った鞄を肩から下げ、箒くらいの大きさの包みを3つほど両手に抱え店のカウンターへと向かい)
(第一階層を好奇心の向くままに歩いていて見つけた小さなショーウィンドウを見つめて)
素敵、箒って木製だけじゃないのね。それに…空が飛べたら素敵。
決めた。入ってみましょう。
(後のことなど何も考えずに扉を開けて無邪気な笑みを前面に押し出して)
こんにちは。
だろ?
(ぴかっと発光した豆電球を同僚の頭の上に幻視しつつ条件反射の速さでどや顔を披露し)
花って立体的だしな、箱の中も悪くないだろうけど平たく並べても露天商みたいになっちゃうじゃん。
お、おー…?はえーな…。
(思い立ったが吉日という言葉を体現した動きをおっとり首を傾げて見送った後、残された花を指というか爪の先でつつき)
んー…籠、瓶……。
ちっちゃいけど、元は材料にするやつってんなら独断で決めんのはなぁ。
(頭を掠める思い付きはあれど、とりあえず同僚の帰りをのんびり待つ。そんな姿をショーケースの中の箒たちが眺め、何か言うこともあるようだが当人は気づいていないようだ…)
ポプリ!
(ぴょこんと言う音がしそうな勢いで顔を上げ)
なるほど、硝子瓶や深めのお皿に並べても綺麗ですね。
僕は宝石箱の中か、厚い布の上しか思いつきませんでした。クーノさんは凄いですね。それなら、丁度良い籠や入れ物を探してきます。すぐ戻りますねー。
(言うが早いかクーノさんの前に花を並べたまま、店の奥へと早足で向かい)
結局、箒でも魔法具でも、一緒に居るのは俺達じゃないからな。
一緒に生きる奴が考えるのは妥当だよ。
んぁ?光翳し(硝子)と光遊び(銀)?
(頭を撫でていた手を下ろして眼下で探し物をする手つきを静観し)
小さな籠か何かに入れてポプリみたいのと一緒に店に吊るすとかすりゃいいのかね。
花束ですか。
そうですね、花自体は色々な場所から集められた子達ですが、どれを選んでどれを渡すかを一緒に考えるお手伝いが出来たらとは思いますねー。
正解が無いから、持ちうる回答を提示して、判断を委ねるのかもしれません。
(撫でてくれる手のひらに気持ちよさそうに目を細め)
あ、花で思い出しました。クーノさん、これは多分材料として使うものだとは思うのですが、飾って仕舞ってあげても綺麗なので見える場所に置いてあげてはどうかなと思って奥から出して来たものがあったんです。
ええと、硝子や銀と言った材料で出来た小さな花……薔薇の子は茎のトゲが刺さってしまうから置いて来たのですが……。
(ぽんぽんと自分のポケットを探るような手つきをして)
最初からその性質だったのか、はたまた運命という短過ぎる蜜月の邪魔者への復讐で歪んだのかは俺にはっていうか誰にもわかりゃしないけど。見出した奴の腕からもぎとられたもんなんだと。
(結果的に喋ってはしまったが何かを案じる様に最後はショーケースの方に視線を逸らし)
花束みたいなもんだよな。一輪ずつで渡すことはうちじゃまず無いけど、結果どういう風にまとめて一つにするか、正解が最初からあるわけじゃなくて。
その人の手に渡って笑ってくれたらそいつが正解になるっていうか。
(手癖のような割には愛情じみたものが傍目にも見えそうな優しい手つきで頭を撫でてやり)