夜歩く人たちのある日の記録。どんな事が起きたのやら。
(冴来さんの言葉にとてもとても戸惑ってしまいます。返事はしませんが、拒絶する気はないようです)
(冴来さんに背を叩かれて、少し落ち着いたようです。うんうんと頷き)
すまない……。(涙を拭いて)
花風冴来、僕の話を聞いてほしい……。
君の重荷になるようだったら、聞かなかったことにしてもらって構わない。
(そう言って、深呼吸して、話し始めます)
今日はどうしようもなく機嫌が悪くて、朝から兄さんにあたってた。
兄さんの帰りが遅かったから僕は凄く怒って。これぐらいならたまにあるから兄さんも普段通りで、それが僕を余計に怒らせた。
その時の僕は平静を失っていたんだと思う。
兄さんを怒らせたくて躍起になっていた。言ってはいけない事を言ってやろうって……。
(ここからは冷淡に語ります)
兄さんには好きな人がいた。僕はそれを知っててわざと彼女と付き合った。今はもうこの世にはいないけど。兄さんはあれは事故だと思ってる。それ以上は察してくれ。
兄さんに教えてやった。あの女がどんなつまらない女だったかって。振り子時計みたいに、刺激を与えれば人は簡単に堕ちていく。言ってしまった。兄さんもそうしたければ、いつでも貸してやったのに……って。
それなのに、兄さんは僕が彼女を忘れられなくて、傷付いているんだと思って慰められた。それは兄さんの方じゃないか、それに気付いたら堪らなく、なった。
(震えぎみに)
僕がどんな人間がか分からせてやろうって、思って、僕は兄さんに……乱暴しようとした。縛り付けて無理矢理……そ、それでも兄さんはいつものようにふざけて、笑ってたから、僕は、ぼくは……逆上して、ぶってしまった。
それで、それからは何をしたかよく覚えて無くて、ぼくは兄さんの声ではっとした。
「ごめんなさい」って、言ったのが聞こえた。あれは……あれは、兄さんが、父に折檻されてるときの言い方だった。
兄さんの背中の傷を見て、僕は昔の事を思い出させてしまったって、……冗談を言っていたのは、恐怖を隠すためだったんだって、僕を傷付けないように、馬鹿のふりをしてたんだって。
けれど……その声はふるえてた……。
ぼくはおこらせようとしただけなのに……。
兄ちゃんが、こわがってた。ぼくをこわがってた……?
僕は恐くなって途中で逃げてきた。
そして今ここにいる。
(虚ろな目で虚空を見て)