隣接する道場「仙狸館」の稽古場。
過去には門下生で賑わっていたこともあったが、今は昔
現在の利用者はほぼ一人。
一応申請次第で開放されてはいるがその事実を知る者は少ない。
……
(集中の彼方、凝縮された時間の中で己の急所に的確に撃ち込まれようとする拳を眺める。
その特一級の疾さ、強さ、正確さ。感動すら覚える。
長い時間を独り鍛錬で過ごしてきた自分にとって、同世代の武術家ーーそれも自分と同じ位長い時間を武に注いできた者に出逢えたことは格別の喜びがあった。頬が綻ぶ。
自分にいくらかの矛盾を感じつつも、今はどうでもいい と歓喜に、熱気に、身を委ねる。)
ーー……ッ
(歩みは止めず、ただ前へ。等速かつ神速の入り身で相手の死角に入らんとする。狙うは顎。
回避と投げ一動作、受即攻の術理で以って迎え撃つ)