隣接する道場「仙狸館」の稽古場。
過去には門下生で賑わっていたこともあったが、今は昔
現在の利用者はほぼ一人。
一応申請次第で開放されてはいるがその事実を知る者は少ない。
あ、気にしてた? ゴメンねマジで。
流石に四十路は言いすぎたかも。でも高校生には見えない。
(至って平然と滑り出す軽口。しかし構えは依然油断無く)
ああ、アンタ相手に「喧嘩」じゃあ勿体無い。
今日は端ッから空手屋として当らせて貰う。
(言いながら、遠くを見るような半眼で相手を見据えて。
改めて「巨きい」と思う。優に2mを超える巨躯の存在感たるや、数世紀を重ねた大樹の如くか。
さりとて鈍重さは微塵も感じさせない立ち振舞いが相手の力量を如実に物語る。
明確な強者との相対。楽しい。愉しい。自然、口の端が吊り上る)
いくぜェ、空手――
(縮まる彼我の距離。間合いまで三歩、二歩、一……)
――ゼァッッ!!
(間合いが交差する刹那、その半歩手前。
猫足からの跳び込む様な運足で放つ、間合いの外から無理矢理「届かせる」一撃。
狙うは左胸部、雁下。変則的な挙動とは裏腹の馬鹿正直な一本拳)