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お気に入りのぬいぐるみを抱きしめ、深く溜息をつく。
苦しさを少しでも外へと願った行為の音は
静かな家の中に思っていた以上に大きく響き
今自分は一人なのだと、より強く自覚する結果に終わった。
寝子島に移り住んでから義姉と住み始めた小さな家。
小さいといえども、二人で住むにはとても大きく感じて
義姉が猫鳴館に移ってからというもの
その空間は堪え難い孤独にかわってももを押しつぶそうとする。
知らない島。広い家。
耐えられたのは大好きな義姉がいたからだ。
強引で我儘で、時々は意地悪で
だけどいつも傍にいてくれた優しい、優しい義姉。
なのに義姉は一人で行ってしまった。
「必ず帰ってくるから、ちゃんと待っていてね?」
いつもの優しい笑顔で、静かにももを突き放して。
「いつ帰ってくるの?」
とすがる様に尋ねても
「気が向いたらね。」
と気のない返事。
あれから二週間。
義姉は一度も家に帰ってはこない。
「嘘つき。大嫌い。姉様なんて、大嫌い…。」
そう何度も何度も呪文のように小さく繰り返すけど
それは嘘なのだと自分が一番よくわかっている。
だってこんなにも会いたくて会いたくて仕方ないのだから。
一人が辛くて寂しくて、いまにも涙が溢れそうなのだから。
大好きなたくさんのぬいぐるみ達も
「おはよう」や「ただいま」に言葉を返してはくれない。
物言わぬ友達を抱きしめ、一日の終わりに思うのは
大切な義姉と過ごした、優しい日々のことばかり。
そうして何度目かの逡巡の末にももは思う。
「会いに来てくれないのなら、自分から会いにいこう」と。
「待ってなさいといったでしょう?
堪え性がない困った子。」
なんて叱られるかもしれないけれど、
それもこれも、嘘つきな姉様が悪いんだから。
そんな風に無理やり、弱気な自分を納得させて。
猫鳴館。
今にも崩れそうで暗い暗い建物。
それだけじゃない、変人の巣窟という噂も聞く。
だけれど、こっそりと掃除に向かった自分に
優しく微笑みかけてくれた人がいた。
図書館でお気に入りの詩を呟いた自分に
静かに答えてくれた人も、あの場所の客人らしい。
噂通りの場所じゃない。
あの人達みたいに、優しい人もいる。きっと。
だから、大丈夫。
またあそこに一人で向かうのだと思うと足が震えるけれど、気づかない振りをする。
大丈夫、大丈夫。
だってあそこには姉様がいるんだから。
もしかしたら、あの優しい二人にもまた会えるかもしれない。
だから…。
臆病な自分の心に、何度も何度も言い聞かせる。
大丈夫。大丈夫。大丈夫。
そうして、小さな勇気を振り絞って家の外へと足を運ぶ。
約束を守れない不出来な義妹からの
せめてもの手土産にと手作りのお菓子を大切に抱えて。
(どうか姉様がまた「美しき言」を僕にくれますように…。)