ぐるぐるバット短距離走は、尾鎌 蛇那伊のファインプレーの甲斐あってなめこ王国に軍配があがった。
　この状況にぐぬぬ……と歯噛みする横嶋 下心。
　もしあのとき自分が刺さっていれば引き分けになれたのか？
（いやいやいや！　絶対無理！　ここは気持ちを切り替えて――）
　次の競技は「ろうそく二人三脚」である。
　なにやら不穏な競技名だが、どうにかしてここで挽回するしかない。


　なんでこんなことに……なんてぼやいていても仕方ない。
　幸いなことに「聖なる」行いは得意分野である。何となく「ろうそく二人三脚」の出場を選んだ握 利平は、とりあえず服を脱いでトランクス一枚の姿になっていた。全裸や葉っぱほどのインパクトはないが、一風変わった「大漁旗」の柄がヘ・ンタイ・ストーンにウケたらしい。彼がズボンを脱いだとたん、石はぴかぴかと輝きだした。

「よし、今度こそ勝ってみせるよ、利平」
　肩を組みながらそう言う今だけの相棒は横嶋だ。
　横嶋はつちのこ王国。握はなめこ王国。互いに別の陣営であるが「異世界からの戦士が組んだほうが盛り上がる」という理由で組まされることになった。この競技の目的はあくまで「石を光らせる」ことである。
　何が哀しくて股間を葉っぱ一枚のみで隠しただけの男と肩を組まなければならないのか。横嶋がさわやかに挨拶をする一方で、握は触れ合う男の肌の感触に顔をゆがめていた。
「ちくしょー、女の子と肩を組めると思ったが誤算だったぜ」
「それは俺も同意見！　でもこうなってしまったからにはがんばるよ！」
　互いの足をしっかりと結び終えると、係員がろうそくを持ってきた。
　めらめらと火のついたろうそくは、観客からでも見えやすいようにかより石を輝かせるためか、やや太めで――どことなく卑猥な形をしている。
「うぉぁ……悪趣味なろうそくだぜ」
「んで、これ持ったまま走ればいいんだよね？」
　ゆらゆらと揺れそうになる蝋をこぼさないよう慎重に持つ２人。
　周りを見ると、他のペアにもろうそくが行き渡ったようだ。
「はい、それでは選手のみなさん。位置について――」
　よーい、どん！
　二種目め、ろうそく二人三脚の開始のピストルが中州に響く。
　せーの、と息を合わせて走り出す二人。二人三脚自体は体育祭でもおなじみの種目なので、相手のことを意識さえすればさほど難しいことではない。ただ――
「うわっ！　あっつ！　あちーぜコレ！」
　ただでさえゆらゆらとこぼれそうだった蝋は、一歩踏み出した途端に当然こぼれる。たらりと垂れた白いどろどろとした蝋が握の右手を汚し、うおおと彼は悲痛な声をあげた。
「大丈夫だ落ち着いて！　この蝋はプレイ用のヤツだからあんまり熱くないはず……ってあつっ！　やっぱあつい！」
　横嶋の言うとおりこれは「聖なる儀式」専用のろうそくである。なのでヤケド跡が残るほどの高温ではないのだが――とはいえお仕置きように使われるものだ。ある程度の熱さはある。
「こうなったらさっさと終わらせよう！　ペースあげるよ！」
「い、いや……スマン！　ちょっと……その、待ってくれ」
　横嶋がペースを上げようとする一方、なぜか急に足を緩める握。
「ど、どうしたんだよ、早くしないとほらあっつい！」
「ちょ、ちょっと……きゅ、急にちょっと、俺の……俺のハトが……」
　その握の様子に、横嶋がハッとしたように彼の「大漁旗」に目を向ける。
　不自然に隆起した握の大漁旗。大変だ、と横嶋は喉を鳴らした。
「利平くん！　ハトをポッポさせてる場合じゃないよ！　そんなんじゃまともに走れないでしょ！」
　とんでもない状況でとんでもないことになった握のハト。当然ヘ･ンタイ･ストーンはまばゆく輝き始めるが、蝋の熱さと戦う二人にとってはそれどころではない。
「んなこと言ったってしかたねーだろ！　お、落ち着け落ち着け……」
　まさか蝋を垂らされて目覚めてしまったのか？
　自分の内なる「聖なる嗜好」が目覚めてしまったのか？
「何かこうヒュンッってなることを考えるんだ！　そう……たとえばこの蝋を君のハトにぶっかけるとか」
「ひ、ひえっ……なんて恐ろしいこと言いやがるんだ」
　横嶋の提案に思わず身を震わせる握。
　しかしその甲斐あってか、彼のハトはようやく冷静さを取り戻したようでクルッポ――クールダウンしてくれたようだ。
「あぶ、危なかった……悪かったな、こっからゴール目指すぜ！」
「って大変だ！　ノロノロしてたせいでろうそくの長さが！」
　ふと手元のろうそくを見てみると、巨根と呼ぶにふさわしいサイズだったろうそくはいつのまにやら「短小」サイズにまで溶けてしまっている。
「ああああ！　あつい！　あつい！」
「バカ、蝋を撒き散らすな！　あついだろ！」
　短くなったろうそくを手にあたふた慌てる２人。どちらのもとも分からない白くてどろどろした蝋が２人の全身にべたりと張り付き、そのたびに痛々しい悲鳴があがる。


（ひょわわわーっ！　これはとってもサイコーな眺めじゃんっ！）

　太くたくましい棒を持ち、白くてどろどろした液体に身を汚しながら悶絶する緊縛ボーイズを眺めながら、桃原 空音――ではない、変態魔法少女☆そらりんは喜びのよだれを垂らした。
「い、イイッ！　二人三脚すっごくイイッ！」
　双眼鏡を手に食い入るように見つめる桃原。
　しかしレース自体は彼らの順位は不調だ（とはいえ握がハトをポッポさせたおかげで石の輝き度としては大きく有利なのだが）。現在トップを走るのは……。
「ひょえええーっ！　何あれーっ！」
　双眼鏡で覗いてびっくり。
　トップを独走しているのは――四足歩行で疾走する鎌八 まもると、馬、だった。


「いいねポニー！　君とオレ、相性バツグンかもね！」

　二人三脚の相棒として「いいポニーテールの子」を探し求めていた鎌八がやがて見つけた最高の相棒は……なんと馬だった。
　文字通りポニーテール。締まったヒップの先で揺れるその黒い艶やかさ。
（うーんサイコー。君が一番さ！）
　四本足で走る馬にあわせて、共に足を結ぶ鎌八も四足歩行で走っているというわけだ。ろっこんを使えば八本足にまでなる鎌八だ。きっと四足で走るのもどうということはない、のだろう。
　いや、彼の姿勢は厳密には「四足」ではなかった。
「心配するなって、相棒！　君のぶんのろうそくもしっかり持ってるぜ」
　彼の右手には２本のろうそく。つまり彼は器用なことに両足と片手の三足歩行で馬の脚力に追いついているということだ。ろうそくの熱さすら、今の彼にとっては燃え上がる愛情のしるし。尋常では考えられない芸当だが、これぞまさしくポニテ愛。彼はポニーのしっぽのためならなんだってする男なのだ。
　そんなポニーテールへの並々ならぬ執着心。当然彼の男気をヘ・ンタイ・ストーンは理解していた。石はまぶしく輝いている。
「その代わり、君は俺のぶんまでしっかり脱いでくれてるからね。おあいこさまだぜ」
　女の子なのに体張らせちゃって悪いね、と鎌八はぱちりとウインクしながら言う。
　馬はそりゃあただの馬なので全裸である。馬並みのアレでも見せてもらおうかと思ったところ――この馬が女の子だということが発覚した。それからは彼女の正真正銘のポニーテールに鎌八はすっかり骨抜きだ。
　独走状態の２人の前に、まっさらに張られたゴールテープが見えてくる。
「いいかいガール、君と俺とでゴールインだ！」
　ひゅう、と口笛を吹いてラストスパートをかける鎌八。
　スピードを上げた彼に同調して、馬も大地を蹴る力を強める。
　そしてテープを切ってゴールイン！
　……したのだが、速度が乗って興奮しきった馬はなかなか止まってくれない。
「おっ、ちょっ、ちょっと待ってよベイビー！」
　俺たちの戦いは終わったんだってええええ！
　ゴールしたことですっかり気を緩めていた鎌八は、そのままずるずると馬に引きずられていく。ちょっと待ってぇぇぇぇ、という悲痛な絶叫を響かせながら、二人三脚１位のペアは彼方へと走り去っていくのであった。