雨の日、秋の日、フツウの日？｜リアクション

雨の日、秋の日、フツウの日？

　真境名アリサは起きると、窓のカーテンを開ける。音からすでに察していたが――
「……雨なんて、大嫌い」
　窓の外は薄い光と雨で、どこか青白い光景だった。アリサは気だるげなため息をもらすと、一度起き上がった寝床にもう一度転がる。いつもより暖かい気がした。
　――今日はせっかくの、お仕事休みだっていうのに。
　たしか、一日中雨という話だった。まったくもってついてない。
　アリサにとって、こんな日に外へ出かけるのも億劫以外の何物でもない。かといって、じめじめしたアパートの一室でずっと閉じこもってるのも、なんだか性に合わない。それに一度起きてしまった。眠くならない。
　アリサは寝具を抱きしめ、しばし虚空をにらみつけていたが、時間と共に顔は不機嫌なものになっていった。
　窓の外からは雨のたれる音。どこか規則正しいそれは、今無為に流れている時間を教えてくれるようで。
「……ああ、マジで鬱陶しい！」
　とりあえず着替えることにした。横着にも起き上がらないままパジャマに手をかける。苛立ちへのせめてもの抵抗だった。放り投げたパジャマが宙を舞って落ちていく。むき出しになった身体に、空気はひんやりとまとわりついた。まだ寝具に残る温かみが、肌に心地よい。
　考えようによっちゃサービスシーンよね――と、アリサはナルシストめいた苦笑をしながら、改めて着替えを探す。
　窓からの光が、彼女の肌を青白く染めていた。

「……とりあえずシーサイドへ遊びに行こうかしら」
　しばらく黙考の後、アリサはそう言った。遊びに行くと言っても、これといって目的はない。ただ、じめじめしたこの部屋に引きこもってるより、まだマシな気がする。
　そうと決まれば身支度だった。肌寒いのは着替えの最中気づいたので、冬物の服とコートを用意する。これで多少は緩和できるはずだった。濡れてしまうのがなんとも業腹だが。
　外に出ると雨の音はより大きくなった。頬に湿気を感じる。我知らずため息を吐いて、アリサは傘をさした。寝子島駅へ向かう。

『ご乗車、ありがとうございました。次は寝子島シーサイドタウン、寝子島シーサイドタウン』
　通勤時間も過ぎれば、さすがに乗車している者は少ない。
　ドームの次に見えてきたアウトレットの建物を視界に収めつつ、アリサは席を立った。少々熱めの湿気がただよう駅を出ると、そこはもうシーサイドタウンの中心地。足の向くままに散策を……
　――なんて気にはなれないわね。晴れの日ならともかく。
　とりあえず来ようと思ったが、結局来るまでに目的はできなかった。さてどうしようと、とりあえずスマホで周辺情報の検索。
「ふーん」
　ねこったーを覗けば、シーサイドアウトレットで「雨の日ようこそプライス」をやっているようだった。値引きやおまけがついたりしてるらしい。さっき目についた場所だ。
　興味がわいた。
　アリサの足はアウトレットの方へ向かう。

「ん～」
　アリサは手に取った二つの帽子を見比べる。
　アウトレットに着き、めぐるのはカジュアルな店を中心に。これから着れそうなものは値下げ幅は少ないが、シーズンがやや過ぎたモノはその限りではない。服やらアクセサリーで気に入ったものは購入候補に入れていく。
　今手にしている帽子は、まとめて買えばずっとお財布に優しかったりもして。
「両方買おうかな」
　値引きについつい買ってしまったりして、気付けば両手に『戦利品』を抱えていた。
　――ちょっと、無駄遣いしちゃったかな？
　ふと、そう思ったりもするが、

「ま、いっか」

　すべては雨が悪いのだ。その分楽しい思いしたっていいじゃないか。
　そう思い直したアリサは、どうせなら食事でもと、近場の端末を検索する。
「ん？」
　――謎の怪生物、海に現る。
　ちらっと見えた単語に目に留まった。
「あ、映画じゃないのね」
　休日の時間は限られている。妙な噂に関わってる暇はない。
　アリサは端末を閉じると、意気揚々と歩き出した。