＜宝石人形＞紅玉ルヴィア｜リアクション

＜宝石人形＞紅玉ルヴィア

　　【忘れられた、曰くの炎で焼けた家】

　三夜呼宵はその一報に動揺を隠せなかった。

　星ヶ丘でボヤ騒ぎが起きたというその家は、呼宵がアルバイトに向かう途中で、広い庭をホースで水撒きをしているような、優雅な時間を過している典型的な富裕層の家だった。

　それが、今や。遠くからでもはっきり見える。
　玄関にドアは付いておらず、辺りには焼き焦げた臭いが押し出されるようにして流れてきた。
　玄関がはっきりとは見えないこの場所からでも、はっきり分かる程の臭いだ。家の中はボヤで済んでも、とても住めたものではないだろう。

「………」
　呼宵は言葉を無くし、しばらく様子を伺うように足を止める。
　余程心的ダメージが強かったのか、遠くの芝生のテラス席に座ってこちらに気づかない、家の主人に、何か良い言葉を掛けることも出来ず。
　何か一つ声を掛ける為にも、見舞いの品でも持ってくるべきだっただろうかと思ったところで、丁度そこに一組の寝子校の男女が向こうからこの家を見つつ歩いてきたところだった。

「ネットで流れていた歩く人形の件──ええ、確かに過去にそのような事件がありました。
　一緒に事件に関わっていた綾辻綾花さんとも先程連絡を取って、先に人形店の方に行ってもらって、関連性が無いか調べてもらっています」
「それなら、こちらの話を聞くのと同時に、情報が進展できるな。助かる」

「アリーセさん！」
　そんな言葉を耳に、呼宵はこちらに向かってくる見知った姿の、黒依アリーセに向かって呼び掛けた。
「呼宵さん」
「……何かあったんですか？」

　一緒にアリーセと共に歩いて来た八神修が呼宵に優しく声を掛けた。

　事情を話せば、
「それは丁度良かった。俺も、この家の方とは知人なんです。お見舞いと同時に何か調べられたらと思っていたのですが、友人と二人ではとても……」
「調べる？　何を、ですか？」
　普通にボヤではないかと思っていた呼宵は不思議そうに二人をじっと見る。

　言い逃れはとてもし難い上に情報も欲しい……僅かに罪悪感を感じながらも、２人はネット等の無責任な情報から、自分の関わった『歩く人形』についてまで、知っている情報を全て呼宵に話す事にした。

「そんな事が……！」
　寝子島に限っては、超常現象も何もがフツウにありえる世界だという噂は聞いていたが、まさか自分が今その現場に遭遇しているとなれば。

「……あの、もし良かったら一緒に同行させて頂けませんか？」
「ええ、是非」
　アリーセと並んでいた修が、紳士的な笑顔でその問いに頷きつつ、相手を安心させるように頷いた。

　玄関口まで辿り着くと、そこには座り込む、ネミッサ・ネモローサの姿あった。
ネミッサは足を上げて、可愛らしいスカートの埃を払い、その端を可愛らしく持ち上げてお辞儀する。

「ごきげんよう。
　ネミッサとしたことが、お見舞いの品を忘れてしまったの。
　お二人ともしばらく宿泊には臨時の別荘に向かわれてしまうと聞いていたから、急いで戻ろうと思ったときに、ここの蝶番が解けているのを見つけてしまって……どちらにしろ急いで戻らなくっちゃ──」

「ああ、それならこのお見舞いの品物を皆の共同出資という事にすればいい。そうすれば誰に無礼があるという事にもならないだろう？」
「まあ、ミスタ八神。
それでは、その案に乗らせてもらうわ。このお礼は後日必ず」
「この位なら構わない。それじゃあ──」

「まあ、凄い人ね──こんにちは、皆も噂を聞いて？」

　玄関扉を前に、集まっていた人物に声を掛けたのは、ほぼ数分の時間差で歩いて来た、桜庭弓弦、桜庭円、夜海霧楓の３人だった。
　声を掛けたのは弓弦。円と弓弦は姉妹で、楓とはネット情報から始まり、珍しい苗字から電話帳に行き着いて行って住所を調べて向って今に至るとのこと。

　一見関係なさそうな楓も、話を聞けばやはり“人形が動いている”という噂を辿って来たのだという。
　
「ネットから上がってた苗字が珍しくて、電話帳で調べてきたんだけど……こんな大人数でも大丈夫かな？」

「そうだな……少人数でバラバラ行くと、家主が落ち着かずに後の人間が叩き出される可能性もある。
一回目は既に警察の調書に記録される位には喋っていると考えると、何度も聞ける話じゃないし、むしろ逆に良かったのかも知れないな」

　そう自分に言い聞かせるように修が告げて、恐らくボヤの時に壊れているであろうインターホンを無視して、玄関柵から僅かに見える家の主へと声を掛けた。

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