そっくりさんが来た｜リアクション

そっくりさんが来た

　寝子島神社では、恵御納夏朝と河南得留が、もくもくと猫と遊んでいる。
　パペットの猫を器用に操作し、まるで猫と会話するかのように戯れる夏朝。
（変な奴……）
　そのさまを、じっと見つめる得留。
　なんだか、調子が狂ってしまう。

　自分と同じ顔の女が、自分の前にいる。
　不思議な気分だった。
　目の前の女は、今までにそんな経験はないのだろうか？
　自分とよく似た相手が、自分の前にいた、なんてこと？

　自分の存在を脅かされるような、恐ろしい体験でなければいいんだけど。

　　　　　　※

「どこへ行っても、猫を見かけるのね」あやかが智基に笑いかける。「素敵な島……」
　寝子島神社を辞した二人、次はロープウェイで九夜山展望台に向かう。
　頼りない、淡いあやかの肩が、自然に智基に抱き寄せられる。
（でも一番、私のためにここへ連れてきてくれたことが嬉しいな。
　ふとした瞬間に、やさしさが浮かぶ切れ長の目が大好きよ）

　段差が大きなところは、自然に手を差し伸べる。
　やさしさが、腕越しに伝わる。
　ぎこちないアクトレス。

　二人は、恋人としての姿を寝子島じゅうに残す。
　喫茶店では「一口どう？　あーん、なんてね」などと言いながらいちゃついてパフェを食べる。
　観覧車までは、長く伸びる二人の影が絡まるのを見ながら、遊歩道を散歩。

「ねえ、今日の思い出に写真を撮りましょう。そこの人」たまたま歩いていた、パーカー姿の男に、写真を頼む。
　つないだ手のぬくもりが、何よりうれしい。

　パーカーの彼は、あやかのデジカメで二人をとったあと、素早く携帯電話を取り出し、自分に向けて激写する。
　当然、二人の姿も入っている。
　あわただしく去っていくパーカー。

「……今の人、自分の姿も入れてなかった？」

　二人から十分離れたところで、パーカーの男はフードをとる。
　桜崎巴。
　彼女はいたく不機嫌だった。
　なんでもインターネットに、自分が男装をし、デートしている写真があるらしい。
　手近な奴に尋ねると、そっくりなやつがいるらしい。

（はっはあ、確かに偽物がいやがる）
　何の因果か、女は眼鏡屋そっくり。陰気な面をしているが、隈がなければ凛々しくて、いける顔立ちだ。
　男もダサくはないが、キザで、伊達男だ。自分とは相いれない。

　さあ、あとはこの写真を効果的に使い、噂をぶっつぶす。
　それでだめなら、いろいろぶっつぶす。