そっくりさんが来た｜リアクション

そっくりさんが来た

（Oh……あんな華奢な少女が、あんな野蛮なゲームヲ……）

　滝原レオンのそっくりさん、マイク・ジョーンズは、ゲームセンターの前で足を止めた。
　その両腕には、抱えきれないほどの人形である。
　なぜか女の子たちが、彼の姿を認めるや否や、かわいらしい人形を手渡してくるのだ。

　ギャラリー勢に囲まれて、水島陽海はひたすら困惑していた。
　本土出身の普通の女の子。当然、パンチングマシーンなどはやったことがない。
　寝子島にも、観光目的で訪れたのだ。
（せっかくだし、いろんな場所を見てみよう）
　どこに行こうか……駅からほど近い場所にあるシーサイドタウン、ここは有名だ。

　休日のシーサイドタウンは、人ごみでごった返していた。
　秋の陽が、天幕庇ごしに、長い影を作っている。
　瀟洒で、でも決して自己主張しすぎず、統一感がある。
　いろいろなお店をふわふわ巡り、たまたま入ったゲームセンター。
　そこでなぜか、パンチングマシーンである。

「スコア狙い？　頑張って！」
「壊しちゃだめだよ！」
「日本最高レベルの頑丈モデルだってさ！」

　やいやいはやし立てる周囲に、おろおろする陽海。
　――あれ？
　観客の中で、一際目立っているのは……？

「そっくりさんって、初めてみた……」
　藤堂月乃は、思わぬ成りゆきにびっくりである。
　彼女のゲームセンター来訪の目的は、当然スコア更新である。
　定期的にやらないと、すぐ勘が鈍るのだ。
　ゲームセンターも心得たもので、日本最高レベルのパンチングマシーンを、メンテナンスをかけまくって設置し、月乃の挑戦を待っている。
　パンチングマシーンでハイスコアをたたき出す少女と、それを阻止せんとする店側のバトルは、噂となり、即座にギャラリーができてしまうほどだ。

　互いに自己紹介を交わして、せっかくだからお店でも行こうと提案する月乃。
　賛成する陽海は、月乃にお願い。
「折角なので、パンチングマシーンをやるところを見てみたいな」
　きょとんとする月乃。だが、周囲の歓声に「一回だけね」と頷く。

　腰を軽く落とし、肩の力を抜く。鋭く息を吐くと、月乃の右手から先が消失した。
　巨大なパンチングマシーンが、しゃっくりしたような音を出し、衝撃の波紋が、ゲームセンター全体にびりびりと広がっていく。
　天井の梁が震えた。

　声も出ない一同。
　
　パンチングマシーンは、気を付けることが一つある。
　全力を出さないこと。全力を出したら、機械が毀れる。
　いかに効率よく、インパクトのある一撃を加えられるか。
　洗練に洗練を重ねた、緻密窮まりないアッパー。
　知性豊かな獣、ツキノワグマの一撃に、それは似ていた。

　どっと、歓声が沸き起こる。
　スコア更新。とんでもない点数が、激しく点滅する。
　か弱い乙女（物理）の、本領発揮である。

　唖然とする陽海に、華のように月乃は笑いかけた。
「すごい……」感嘆する。
「自分にそっくりな人に、そう言われると、なんか照れる……」笑う月乃は、早く出ようと陽海を誘う。

　点検した店員さんから、大目玉をくらわないうち。

　――今日の手ごたえは、多分ジョイント部を痛めた。

　張り切りすぎた。