そっくりさんが来た｜リアクション

そっくりさんが来た

「ははは、あの桜崎巴がデートだってさ」
「【閲覧注意】って書いてあるぜ」
「まあ、他人の趣味に口出すつもりはないが、あの桜崎と付き合おうっていうのがいるとはね……」
　ねこったーに上げられた画像を見て、げらげら笑う学生。
　旧市街は、この椿事でもちきりであった。
　しかも相手方が、時計屋の陰気な店主とは。
　こんな面白ネタ、ほうっておけるわけがない。

　一刻も早く広めるべく、ねこったーでリツイートして、周囲に拡散させまくろうとする。
　一人が、不穏な空気を感じて、顔を上げる。
「しかし、桜崎もやるもんだねー」

「どこの桜崎さんだい？」

　低く、怒りを抑えた声。
　携帯電話をいじっていた手が、ぴたりと止まった。
　嫌な予感が膨らむ。
　おそるおそろ上げた視線の先にいるのは、全身にどす黒いオーラをまとった桜崎巴。
　その手元にある携帯電話が、一枚の画像を投影する。
「なんだ……桜崎が二人……」
「そっくりさんだ。偽物だな」吐き捨てる桜崎。「お前らが、この馬鹿げた噂の発信源かい？」
「い、いや……ただ俺たちも、回ってきたの見てただけで……」
「拡散させようと、してたじゃないか」
「いや……」
「確認もせずに広めようとするなら救えないドジだし、確認したうえで広めるんなら悪質……いずれにせよ、救えないね」
　そういって、ぬっと突き出される『それ』に、一同は戦慄する。
「き、金属バット……」
　実に久々、このところすっかりおとなしくなったと評判の桜崎巴、獲物を手にしての天下無敵の無双モードだ。
　言ったもん勝ちのネットの世界。
　デマだろうが悪意だろうが、なんでも流通してしまう。
　戸は立てられない。パンデミックの如く、それはネットを、人の意識を嘗め尽くす。
　ならば、桜崎巴の目指すのは一つ。

『物理的制圧』

「うりゃあああ！！！」
「ぎゃああああ！！！」
　閉ざされたシャッターに、吹き飛んだ体が打ち付けられる。
　高く舞い上がって、電柱に引っかかる。
　したたかアスファルトとキスを交わした男は、巴に首根っこをつかまれ、引きずり上げられる。
「この、あたしとそっくりさんが入った写真を、全力で拡散させるんだね」
「は、はい……」
「ぐずぐずしてたら、丸坊主で謝罪さ。そういうの、流行ってるんだろ？」
「う、うわぁあああ！！！」

　慌てて操作する学生をしり目に、巴は彼方に目をやる。
　ネット社会の物理的制圧。
　光よりも早く、魔王は疾走を開始する。