そっくりさんが来た｜リアクション

そっくりさんが来た

　ひとしきり猫と遊んで、夏朝と得留は三叉路に立っていた。
「駅まで……送るよ」夏朝の申し出に、
「いいよ」と得留は答える。
「一人で帰れないと、また『男のくせに』って言われ……」

「え、君……男の子なの？」

　沈黙が流れた。
　鴉が啼いて、長い影が伸びた。

「ごめん……」か細い、夏朝の声が聞こえた。

　女の子に間違えられることはよくある。
　しかも、自分のそっくりさんだ。性別まで一緒と思い込んでもしかたない。

（変な奴にまで……女と間違われ……）

　影になって、夏朝の顔は見えない。
　本気でへこんでいる？　それとも、ちょっと笑っている？
　弟みたいだって、嬉しそうに笑っている？
　それなら嬉しいかも……って冗談じゃない！

「……決めた。体鍛える。
　牛乳も小魚も、たくさん食う。苦手だけど」

　見てろ、夏朝。待ってろ、妹。
　
「つぎに会う時は、でっかい男だ！

　そっちこそ、大人の女性になっとけよ！」

　指を突きつけ、一目散に走り出す得留。「ばーか！」

　様々な自分、様々な多様性と巡り合ってきた恵御納夏朝。
　今回の得留は、少し変わり種で、楽しかった。
　――大人の女性に……なれるかな？

　頑張って、牛乳の量を増やそうと考える夏朝だった。