そっくりさんが来た｜リアクション

そっくりさんが来た

　――仕方ないよ。縁がなかったんだから。

　紫と茉莉花。
　いつの間に、そんな風に話し込んでいたのだろうか。
　町はずれの、喫茶店。
　最近はやりのコーヒーショップというのとは少し違う、時代に取り残されたような店づくりだ。なんだか地味で、それでいて居心地がよい。
　少し早い、冬物の服。色違いではあるが、デザインは同じだ。
　髪は自分の方が短い。
　お互いの違うところを、妙に探してしまう。
　
　言葉を重ね、何時しか旧知の友人のように、二人は互いのことを話し合っていた。
　何かに集中すると、周囲が見えなくなってしまう、という紫。
　そこは自分とは違う。自分は飽き性で、あまり長続きはしない。
　でも、マイペースなところは似ていると思う。

　ＡＯ入試に合格した彼女、大学では心理学を専攻するという。
　それでもたまに、水泳部のプールで泳いだりして、無聊を慰めているらしい。
　なんだか日々をもてあましているのは、自分と同じか。

　自然に、恋の話になってしまう。

　茉莉花には、今、特定の恋人はいない。
　気になる人はいるけれど、今の関係が気楽というところがある。
　現在フリーという紫は、しばらく恋はしたくないらしい。
　失恋したの？　とも聞くことができず、しばらく妙な沈黙があった。

（縁が、なかった……ね）

　集中する性という、紫。そう言い切るには、どれほどの悔恨を超えたのだろう。
「縁がないのは、仕方ないよね……でもきっと、巡り巡って、いいご縁があるわよ」

　そんな、ありがちな言葉で慰めてみる。
　軽く礼を言うものの、彼女の秀麗な顔は、どこかさみしそうだ。

　心理学専攻の人間が、己の気持ちを持て余すのは、妙かもしれない。
　けれど、きっとそんなものだ。