もぎたて☆フレッシュ！　～どんぐり農園の愉快な果物狩り～｜リアクション

もぎたて☆フレッシュ！　～どんぐり農園の愉快な果物狩り～

「大変なことが起こっているみたいですねー！」

　胴体部分を苺に変えた金剛優芽が、眼鏡を押し上げる。
　体の一部が果物に変化し、お互いを食べ合うというのは『大変』どころの騒ぎではないのだが。
　妙に肝の据わったところを見せ、優芽がじっと考える。

「これは……食欲の秋の仕業かもしれませんね」まるで、名探偵が推理を披露するように、重々しくいう。「どんぐりさんも、きっとお腹が空いてしまったのでしょう……」

　窮地に陥るほど突拍子もない発想をしてみせる人間もいる。
　どうも、彼女はそのようなタイプのようだった。
　そうして、往々にして、そのような人間が、思ってもみない打開策を見出す。

　――切れるほど真摯な、優芽の眼差し。
　ぐうと、苺のお腹が鳴った。

　突拍子もない発想の源泉は、どうやら自分がお腹が空いていたからのようだ。
「胴体が苺になってしまいました……でも、これはこれでオシャレかもしれないです！」
　ポジティブな笑顔を、五月に向ける優芽。

　あまり公に知られていないことだが、金剛優芽は、その平凡で地味目な様子に似合わず、レディースグループの総長代理を務めている。
　ほわほわした様子にも関わらず、不良たちがなぜか優芽を慕い、ことあるごとに様子をうかがい、
「いざとなれば命も要らねえ！」とまでに言い出すのは、優芽の物怖じしないポジティブシンキングと、土壇場での度胸の良さによるものもあった。
　まあ、優芽としては、不良さんたちを更生させるのが目標なので、あまり慕われるのも困りものなのだが。

　で。

　のどかな秋の、ドングリ農園。
　歴戦のボクサーの如く、柿の両手を構える五月と、それを受け止めようとする優芽がいた。
　観戦者はいない。二人ばかり、倒れたままの者がいるが。

「私の柿を、食らうがよいです」ビシッと柿グローブを突きつける五月。

　ジャブ、フック、アッパー。
「抉るように柿！　抉るように柿！」
　蝶のように舞い、親鳥のように食べさせる。
　
「どうですか？」
　もむもむと、柿を頬張りつつ、優芽は答える。「上品で、甘すぎず、さわやかで……」
「渋みが、抜けてないのでしょうか」首をかしげる五月。
「お礼に、私の苺をどうぞ！」躊躇なく、自分の体の一部をもぐ優芽。「宜しければ！」
　礼を言って受け取る五月。

　苺を食べては柿パンチ。
　だらりノーガード戦法からの柿。デンプシーロール柿。

　謎の光景であった。
　秋の果樹園をバックに、二人の少女がボクシングをしている。
　しかも体は果物だった。

「ＨＡＨＡＨＡ～！」

　そこに現れたのは、先ほど裸体を見せつけた志波武道。
　それに、花厳望春であった。