【中間テスト】そんなこんなの最終日｜リアクション

【中間テスト】そんなこんなの最終日

　静まり返った桜花寮の食堂。中央寄りのテーブル席に小山内海が座っている。長い髪は下ろして、ゆったりとした襟のシャツにカーディガンを羽織っていた。持参した教科書やノートの頁を何気なく捲る。ハーフパンツから伸びた足をぶらぶらと振って見せた。
　沈んだ青い瞳でノートの端に小さく思いを書き込む。
『かたなくん、そろそろかな』
　速い足音が近づいてくる。間もなく刀が現れた。海の横の席に座ると手にしたビニール袋を差し出した。
「小山内、今日は勉強よろしくな。これ、お土産に買ってきた」
『ありがとう。たべものかな？』
「一口サイズの饅頭だよ」
『べんきょうにつかれたら、いっしょにたべようね』
　柔らかい笑みを浮かべた海は地理の教科書を開いた。刀は自身の鞄から生物と世界史の教科書を取り出して言った。
「地理は図書館で勉強したから、生物と世界史を教えて欲しい」
『わかった。それじゃあ、せいぶつからはじめるね』
　海は教科書とノートを使って教えた。刀が悩むような仕草をすると、スケッチブックに文字を書いて『どこがわからない？』と明るい表情で聞いた。愚痴に近い言葉にも真剣に耳を傾けて個々の課題をこなしていく。
　テスト勉強を始めて二時間が経過した。刀は生欠伸を噛み殺し、両腕を上げて大きな伸びをした。
「生物なのに英語の勉強をしているようだ」
『カタカナがおおいからね』
「人体の急所とかが出題されたらいいのにな。そこを攻撃するとこんな反応があるとか。これ、テストに出ないか」
　刀の真剣な物言いに海は笑みを作った。
『でないとおもうよ。それにせいぶつというよりも、ほけんのもんだいみたいだね』
　そうだよな、と刀は頭頂に手をやり、無造作に掻いた。その様子に海は横手のビニール袋に目を落とす。
『かたなくん、すこしきゅうけいしようか。おまんじゅうもあるからね』
　海は席を立った。食堂に常備されている麦茶を二つのコップに入れて戻ってきた。刀は包装を開けて切なそうな表情で饅頭を見つめている。
『さきにたべてもよかったのに』
「俺は小山内と一緒がいいな」
　その言葉に海は照れ笑いの表情で頷いた。
　初々しい二人の様子を寮母である座間トシコが少し離れたところで見ていた。
「困ったわね」
　トシコは腕時計に目をやると小さな溜息を吐いた。瞼を閉じた数秒後、食堂に背を向けて歩き出す。
「今日も何事もない穏やかな夜ね」
　柔らかい笑みでトシコは見回りを終えた。
　食堂の二人は勉強を再開した。生物を一通り終えて世界史へと移行した。
　時間に比例して刀の精神状態が悪くなる。訳がわからん、と悲痛な声で頭を抱えた。海は子供をあやすかのように背中をトントンと叩く。落ち着いたところで『ぜんたいのながれで、おぼえたほうがあたまにはいるよ。それとごろあわせかな』とスケッチブックに書き込んだ。
「世界史なんて俺の人生には必要ねえよ！」
『テストのせいせきで、じんせいがかわることはあるかも』
　海のやんわりとした指摘に刀は項垂れて、頑張るよ、と口にした。

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