【ハロウィン】寝子島神社で仮装行列をしたっていいじゃないっ！｜リアクション

【ハロウィン】寝子島神社で仮装行列をしたっていいじゃないっ！

「早く、狛猫さんに会いたいなぁ」

　明るい声に合わせて灰色の耳と尻尾が揺れる。ずいぶんかわいい狼男の仮装をした小学３年の瑠樹は、不在の両親の代打である叔父の鴻に連れられて、寝子島神社のハロウィンパーティに参加できる事が嬉しくてたまらなかった。

「狛猫さんのきぐるみがお菓子くれるって……きっと可愛いんだろうなぁ……想像しただけで和むなぁ……」

　きぐるみ好きの瑠樹のもっぱらのお目当ては、お菓子を配っているという、狛猫さんである。
　他の参加者たちの様々な仮装や露店も色々見て回りたい所ではあるが、それらは後回しにしていの一番に狛猫さんを探すのであった。

「叔父さん、早く早くー！」

　期待にテンションの上がった瑠樹はごった返す人ごみの間を風のように軽やかに駆けて行く。

「そんなに急がなくても、狛猫は逃げねぇよ……」

　そんな瑠樹を眺めながら、鴻は大柄な体をすれ違う人々にぶつからないように気を付けてかわしつつ後を追う。

「あー、狛猫さんだぁ！」

　瑠樹はようやく人ごみの中で埋もれるようになっていた狛猫さんを見付けだし、喜び勇んで駆けだした。
　だが、狛猫さんにあと一歩という所で瑠樹はピタリとその歩みをとめた。
　見れば狛猫さんは大人気。たくさんの子供たちに取り囲まれている。
　気持ちのままに割り込んでいたらトラブルになっただろう。
　瑠樹は冷静に列を探し、その最後尾に並んで順番を待った。

「狛猫さん、こんにちは！　さっそくだけど……トリックオアトリート！」

　瑠樹に挨拶された狛猫さんは大きく頷いて飴玉を一つ、瑠樹に手渡した。

「わぁ、飴玉だぁ。おいしそうだねぇ！　ありがとう、狛猫さん！」

　瑠樹は大喜びで飴玉を口に頬張る。

「良かったな」

　その様子を微笑ましく眺めていた鴻が戻って来た瑠樹の頭を撫でてやりながら言う。

「……あれ？　叔父さんは飴玉貰わないのぉ？」

　鴻を見上げて瑠樹が不思議そうに尋ねた。

「いや、俺はトリック何たらでお菓子貰える年齢はもう過ぎてんの。
　むしろ言われたらあげる側なんだよ……」

　鴻はそう答えながら、懐に用意して来ていた飴を瑠樹に見せ、そのうちの一つを手に取らせた。

「ねぇ、狛猫さんと一緒に写真撮ってもらってもいいかなぁ？」

　瑠樹が飴玉を舐めながら、鴻にお願いする。可愛い甥っ子のお願いだ。鴻に断る事など出来はしない。

「……って、狛猫さん、いいかい？」
　
　瑠樹が持ってきていた子供用カメラを片手に、狛猫さんに聞いてみる鴻。
　狛猫さんは、『はい喜んでー』とでも言っているかのように大きく頷き、手招きして瑠樹を呼び寄せる。

「数えて３で撮るぞー。１、２の……３」

　パシャ！

　シャッターが落ち、狛猫さんに抱きついて満面の笑みの瑠樹が写真におさめられた。

「ありがとうよ狛猫さん。しっかし、中の人も大変だよなぁ……」

「おじさーん、あっちにお店がいっぱい出てるよぉ。見に行こうよー」

　瑠樹が鴻の裾をクイクイとひっぱる。
　どうやらこの可愛い甥っ子のお願いはまだまだ尽きそうにないらしい。

「よーし、何か欲しいなら買ってやるよ。ただし５００円までな！
　それから、店を見て回った後は、コスプレ行列も見に行こう！」

「買ってくれるの！？嬉しいなぁ。それじゃ、えーっと……」

　二人は仲良く手を繋ぎ、もっとイベントを堪能するために歩みを進めた。