【生徒会選挙】歴代生徒会長からの挑戦状～寝子高バザール！｜リアクション

【生徒会選挙】歴代生徒会長からの挑戦状～寝子高バザール！

●明けて、月曜日

　バザーの熱も冷めやらぬ月曜日。
　ほんとうは選挙に天気なんか関係ないと言いたいところだが、良く晴れた秋晴れの空は、今年の生徒会選挙の清々しさを象徴しているかのようで、生徒たちの表情も心なしか晴れやかだ。　
　校庭のテントは片付けられ、午前の授業がそわそわとした気配を漂わせつつも通常通り行われた。昼休みになると候補者たちが最後のアピールとばかりに校内放送で訴えたり、学食で演説を行ったり、教室に挨拶に回ったりという如何にも選挙らしい光景が見られ、いよいよ迎えたホームルームの時間には、寝子高の全生徒が思い思いの候補者の名前をしたためた投票用紙を各教室に置かれた小さな白い投票箱に投げ込むに至った。

　その日の放課後、視聴覚室には立ち入り禁止の札が張られ、臨時の開票所と相成った。
　腕章を付けた選挙管理委員の面々が白い投票箱を手に視聴覚室に集合する。
　結果をいち早くスクープしようという野次馬たちは、体格の良い都築弦一郎や腕に覚えのある奈良橋博美によって「散れ散れ！」と追い払われた。

　こうして秘めやかな密室となった視聴覚室の中で、選管委員長の坂内梨香はもっともらしく白手袋を嵌めると、緊張した面持ちの委員たちを見回し、投票箱の中身を机の上に広げるよう指示をした。
　一枚一枚はかさりと軽くて、けれど想いが籠った大切な紙片たちが、手を取り合ってダンスでもするかのように机の上にまき散らされる。

「では始めましょう」

　一同は黙々と集計作業に取り掛かった。
「間違いがないように２回は確かめてくださいね。不正行為を見逃さないように、おかしいなと思ったら先輩に声を掛けてください。投票用紙も何かあった時の為に破棄せずに保管しておいた方が良いかもしれません」
　綾辻綾花はみんなに声を掛けながら、自分も仕事に真摯に取り組んでいる。
　梨香はじっとその姿を観察していた。そしてこう考えた。
　役割が人を育てる、という。３年生は次の世代にバトンを手渡していく義務がある、と。
「綾辻さん」
　梨香は綾花の肩にぽん、と手を置いた。
「あなたを見込んで集計係長に任命するわ。きりきり取り仕切ってくれる？」
「……はい！　わかりました！　ではみなさん、最後まで頑張りましょう！」

　黒板に書かれた候補者たちの名前。
　重ねられる『正』の字。
　疲労と、ねぎらいと、有難い差し入れと、集計の終わった紙の束。
　こうして綾花を中心とした選管委員たちは、この大変な仕事を、あたりがとっぷりと昏くなり、月が天を三分の一も駆けるほどの時間を掛けてやり終えたのだ。

　秘密と疲れた身体を引きずって帰宅した選管委員たちだが、翌朝も早くから仕事があった。
　朝７時、再び集まった委員たちは、バタバタと大騒ぎしながらも時間までにすべての手筈を整えた。

　――始業前、彼らの姿は屋上にあった。