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【生徒会選挙】歴代生徒会長からの挑戦状～寝子高バザール！
●志波陣営：シーウェーブ その４
黒依 アリーセが店番を代わると、カメラを手にした旅鴉 月詠が通りがかった。
「やあ、写真を一枚いいかな？」
「あら。新聞部のお手伝い？」
アリーセが訊くと、そういうわけではないが、と月詠は首を振った。腕章こそ隠しているものの、彼女もまた選管のひとり。選管であることを隠し、不正がないかチェックをして歩いていたのだ。だが、そんなことはおくびにも出さず月詠は微笑む。
真鍮の針金で作った樹の枝に秋冬使用を意識した、温かみのある三連のスエードレザーのブレスレットが掛けられている。樹の下に敷かれた薄いグリーンのクロスの上に並べられているのはレジン樹脂製の猫のチャーム。猫の色は、黒・白・青の３色。黒は伸びをしている様子、白は座って首を傾げている様子、青は丸まって寝ている様子で、いずれもとても愛らしい。
「たまには写真もいいよね。絵とはまた違う世界だ。Say cheese！」
素敵に飾り付けられたアリーセのブースを中心に、シーウェーブの様子をパチリ。
幸いなことに、今のところお代官様と呉服屋による黄金色のお菓子的な取引現場には遭遇していない。ないならないで構わない。今撮ったようないい写真は新聞部に提供してもいいのだから。
◇
ご当地ヒーローを目指す風雲児 轟は考えていた。黒猫組の奴らにちょっとでも貢献したい、と。
（にしても１００万円。そんなどこぞのクイズなハンターでしか聞いた事ない金額だよな。俺みたいな学生が実際手に入れるとなったらとんでもなく果てしない金額だぜ……）
でも、塵も積もればなんとやら。みんなで頑張ればなんとかなるだろうと、あたりを見渡す。いっそ飯を食いまくって貢献するって手も……などと思ったそのとき、レザーブレスレットが目に留まった。
「チャームを選んでいただければ、この場で取り付ますよ」
店主のアリーセの言葉を聞くと、轟は少し考えたのち、丸まって寝ている青の猫を選んだ。
「……これにしよう！」
アリーセはチャームの先についているリングをペンチで器用にブレスレットに取りつける。
「プレゼントですか？」
「ああ」轟は少し照れくさそうに頭を掻く。「恋人に、と思ってさ。最近はろっこん事件とかでなにやらで忙しくて会えてない日が続いてるし、そのお詫びも兼ねてだ。……島の平和も大事だけど、あの子の笑顔もきっちり守ってあげなきゃいけないよな。忘れないようにしてるのになかなか守れてない自分の力不足さが情けないぜ」
「そう思って貰えているだけでも彼女さんは嬉しいと思いますよ」
アリーセの一言に勇気を貰って轟は固く拳を握る。
「そうか？ そうだな。……なんか無性に顔が見たくなったから、今からでも会いにいくか」
その表情は何かを守ると決めた男らしく引き締まっていた。
アリーセは心の中で密かに祈った。――彼と彼女の間をこのブレスレットが繋いでくれますように、と。
◇
アリーセがディスプレイした真鍮の樹の前に、二十歳前後に見える女性が立ち止まった。
ショートカットで切れ長の目、背も高くどこぞの歌劇団の男役でも通りそうな佇まいだったが、表情はぼんやりと物憂げで覇気がない。
ブレスレットを手に取る。何か考えているのだろうか。それとも何も考えていないのだろうか。
ただ静かな時間が過ぎ、やがて彼女は白のチャームと合せてアリーセに差し出した。
「こちらでよろしいですか？」
「ええ」
と答えて軽く嘆息。どうかしたのだろうか。気になるけれど、訊くのは躊躇われる、そんな雰囲気。
だから黙ってペンチを握る。女性――朝鳥 さゆるはその手をみながらぽつりと言った。
「あなたも、クラスメイトも、みんな頑張っているみたいね……なんだか、あたしだけ場違いな気がするわ」
アリーセは静かに答える。
「そうですか？」
「……学校、ほとんど来てないから。でもこのまえ担任に『学校に顔を出せ』と言われて、今日はなんとなく」
「そうなんですか。……はい、できました。あなたに幸せがありますように」
……壊れてしまった自分の欠片を拾い集めても、その欠片をどうつなぎ合わせたらいいのか判らない……。
さゆるは思う。……ため息をついて頭を振る。
幸せ、と言う言葉は、縁遠いように思える。自分は壊れすぎてしまった、と思う。
それでも、誰かが祈ってくれる。そんなことがあるんだと……ふと振り返る。黒髪のアリーセを。
あそこは日なたの世界なのかもしれない。
三つの輪からなるブレスレット。これはまだあそこと繋がっているのかもしれない。これはあの世界との小さな窓。白い猫はその小さな窓からあちらとこちらを行き来する。するりと、自由に。
……そんなふうに思ったら罪だろうか。
黒依 アリーセが店番を代わると、カメラを手にした旅鴉 月詠が通りがかった。
「やあ、写真を一枚いいかな？」
「あら。新聞部のお手伝い？」
アリーセが訊くと、そういうわけではないが、と月詠は首を振った。腕章こそ隠しているものの、彼女もまた選管のひとり。選管であることを隠し、不正がないかチェックをして歩いていたのだ。だが、そんなことはおくびにも出さず月詠は微笑む。
真鍮の針金で作った樹の枝に秋冬使用を意識した、温かみのある三連のスエードレザーのブレスレットが掛けられている。樹の下に敷かれた薄いグリーンのクロスの上に並べられているのはレジン樹脂製の猫のチャーム。猫の色は、黒・白・青の３色。黒は伸びをしている様子、白は座って首を傾げている様子、青は丸まって寝ている様子で、いずれもとても愛らしい。
「たまには写真もいいよね。絵とはまた違う世界だ。Say cheese！」
素敵に飾り付けられたアリーセのブースを中心に、シーウェーブの様子をパチリ。
幸いなことに、今のところお代官様と呉服屋による黄金色のお菓子的な取引現場には遭遇していない。ないならないで構わない。今撮ったようないい写真は新聞部に提供してもいいのだから。
◇
ご当地ヒーローを目指す風雲児 轟は考えていた。黒猫組の奴らにちょっとでも貢献したい、と。
（にしても１００万円。そんなどこぞのクイズなハンターでしか聞いた事ない金額だよな。俺みたいな学生が実際手に入れるとなったらとんでもなく果てしない金額だぜ……）
でも、塵も積もればなんとやら。みんなで頑張ればなんとかなるだろうと、あたりを見渡す。いっそ飯を食いまくって貢献するって手も……などと思ったそのとき、レザーブレスレットが目に留まった。
「チャームを選んでいただければ、この場で取り付ますよ」
店主のアリーセの言葉を聞くと、轟は少し考えたのち、丸まって寝ている青の猫を選んだ。
「……これにしよう！」
アリーセはチャームの先についているリングをペンチで器用にブレスレットに取りつける。
「プレゼントですか？」
「ああ」轟は少し照れくさそうに頭を掻く。「恋人に、と思ってさ。最近はろっこん事件とかでなにやらで忙しくて会えてない日が続いてるし、そのお詫びも兼ねてだ。……島の平和も大事だけど、あの子の笑顔もきっちり守ってあげなきゃいけないよな。忘れないようにしてるのになかなか守れてない自分の力不足さが情けないぜ」
「そう思って貰えているだけでも彼女さんは嬉しいと思いますよ」
アリーセの一言に勇気を貰って轟は固く拳を握る。
「そうか？ そうだな。……なんか無性に顔が見たくなったから、今からでも会いにいくか」
その表情は何かを守ると決めた男らしく引き締まっていた。
アリーセは心の中で密かに祈った。――彼と彼女の間をこのブレスレットが繋いでくれますように、と。
◇
アリーセがディスプレイした真鍮の樹の前に、二十歳前後に見える女性が立ち止まった。
ショートカットで切れ長の目、背も高くどこぞの歌劇団の男役でも通りそうな佇まいだったが、表情はぼんやりと物憂げで覇気がない。
ブレスレットを手に取る。何か考えているのだろうか。それとも何も考えていないのだろうか。
ただ静かな時間が過ぎ、やがて彼女は白のチャームと合せてアリーセに差し出した。
「こちらでよろしいですか？」
「ええ」
と答えて軽く嘆息。どうかしたのだろうか。気になるけれど、訊くのは躊躇われる、そんな雰囲気。
だから黙ってペンチを握る。女性――朝鳥 さゆるはその手をみながらぽつりと言った。
「あなたも、クラスメイトも、みんな頑張っているみたいね……なんだか、あたしだけ場違いな気がするわ」
アリーセは静かに答える。
「そうですか？」
「……学校、ほとんど来てないから。でもこのまえ担任に『学校に顔を出せ』と言われて、今日はなんとなく」
「そうなんですか。……はい、できました。あなたに幸せがありますように」
……壊れてしまった自分の欠片を拾い集めても、その欠片をどうつなぎ合わせたらいいのか判らない……。
さゆるは思う。……ため息をついて頭を振る。
幸せ、と言う言葉は、縁遠いように思える。自分は壊れすぎてしまった、と思う。
それでも、誰かが祈ってくれる。そんなことがあるんだと……ふと振り返る。黒髪のアリーセを。
あそこは日なたの世界なのかもしれない。
三つの輪からなるブレスレット。これはまだあそこと繋がっているのかもしれない。これはあの世界との小さな窓。白い猫はその小さな窓からあちらとこちらを行き来する。するりと、自由に。
……そんなふうに思ったら罪だろうか。
シナリオ
シナリオデータ
シナリオスケジュール
- シナリオガイド公開日
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- 2015年04月19日
- 参加申し込みの期限
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- 2015年04月26日 11時00分
- アクション投稿の期限
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- 2015年04月26日 11時00分
