夢の晩餐｜リアクション

夢の晩餐

「ショートケーキ焼けてんじゃねえか！」

　完全に意表だった。
　鉄板の上でジュウジュウ焼けていたのは、イチゴのショートケーキ。

　天野の嫌いなもの、もうひとつ『甘いもの』。

「これはダメだ」にべもなく言い放つ天野。「喉が渇く。特有の臭いがつらい。何よりしつこい。甘みと脂が胃に……」

　うっとこみ上げるものを抑える天野。
　肉食のような、悲劇的ないきさつは特にない。

　単に好き嫌いの問題だった。

　第一これでは、少女のために勇気を出すこともできない。

　血の滴るシャリアピンステーキを一息に喰い、脅えに染まった目を向ける海美に、悲しげにこうつぶやく。
「生きるというのは、こういうことだ」
　こういうのは、絵になる。

　ショートケーキを貪り食って、ドン引きしている少女に一言。
「生きるというのは、こういうことだ」
　ほっぺたにはクリーム。まったくさまににならない。

「チョイス間違ってんだろ！」
　天野の絶叫とともに、鉄板に新たな物体が出現する。
「そういう意味じゃねええええ！！！」
　鉄板の上で景気よく煙を巻き上げるモンブランを指差し、さらに絶叫する天野。
「意味が違うっっっっっ！！！！」
　鉄板で焼くスイーツってのもおいしそうだね、と覗き込む理沙の傍らで悶絶する天野。
「本当に、これ全部食ったら、ここから出してもらえるのか……」
「この料理をすべて食べれば、夢から出られる……」弁天が答える。
　天野は精一杯見下す目をして、こう言い放った。

「だが断る」

　逆巻天野は動かないッ！！
　だがその後頭部を、金盥が直撃した。
「……この恨み、あとで晴らす」どっかりと座る天野。