進路相談、君等の道２【芸術科編】｜リアクション

進路相談、君等の道２【芸術科編】

●芸術科１年７組

【桜月の場合】

　月はスケッチブックを持っている。
　頁を捲るとその多くは服のデザインスケッチだ。
　それは、好き、というより、生きる術、と言った方がよりしっくりくるかもしれない。
　絵を描く祖父の背中を見、服を作る祖母のやさしい手を見るうちに、いつの間にか服のデザイン画をスケッチブックに描きとめるようになっていた。はじめは祖父母の顔を見るのが喜びで、それから本当にそうすることが好きになって。

「服のデザイナーになりたいと思っています」と月は言った。「今でも服のデザイン画を描いていますがこれはもう私の一部です、だから将来の職業にしてしまおうと思いました」

　担任の樋口弥生はその夢を聞くと、「素敵な夢だわ」と微笑んだ。
「具体的な進学先は考えているかしら？」
「はい。知識と人脈を作る為に木天蓼大学の芸術学部を考えています」
　それ以外にも、と月は続けた。
「演劇や音楽祭などで着る衣装などを作るのに関われたら、イメージを形にする為の経験を積めて人との繋がりも出来るって思ってます。ただ私は描けても作ることは出来ないので、私のイメージを現実の形に出来る仲間も必要かなって。一緒に目標を目指せる仲間を見付ける為にも人と接することの出来る大学進学を希望します」
「そうね。夢はなかなかひとりでは叶えられない。仲間と出逢うことはとても大切なことだと、先生も思うわ」
　月は先生の言葉に頷き、決意を新たにする。
「ただ……陽に当たって日焼けすると辛いので、日中の対策も考えないといけなくて……」
「からだのこと、ね。安易に大丈夫、なんて言えないのだけれど、問題が見えているときはなにかしら対策は取れるものよ。それこそ、周りの人に理解してもらって協力してもらうのが大切かもしれないわね。そして……『弱みは強みに変わる』。あなたにしかわからないことがある。だからこそ、あなたにしか解決できないことがあるかもしれない」
　もしかしたらね、と弥生先生は片目を瞑る。
　
　月には、もう一つ懸念があった。
「あの……以前先生に話した『影』のこと、覚えていますか？　あのあとも影が起き上がってもう１人の私のように動くんです。それも私が思ったように。……このままで大丈夫でしょうか？」
「怖いのね」
「……はい。どうすれば良いかわからなくて……」
「よくわからないことは怖い……そうね。私もそう。ということは、わかれば怖くないのかもしれない。それがあなたの中で起こることなら、なぜそれは生まれたのかしら。どんな必要があったのかしら。あなたにとってどんな意味があるのかしら。そういうことを『見てみる』。その結果――意味なんてないのかもしれない。神様のいたずらかもしれない。それならそれで納得して付き合う方法を考える。あら、……前に相談されたときとあまり変わらないことしか言えなかったわね」

　今日の話は咀嚼する時間が必要だ。未来のことも、不安なことも。
　先生が相談に乗ってくれたことに感謝し、月は小さく会釈する。
「今日はありがとうございました。まだ時間もありますし私も考えてみます」
　それから月は先生の趣味のよい帯留めに目を留め、はにかんだ。
「先生、バンドもされてますよね？　その時の衣装が素敵だったって聞きました。普段の着物も綺麗ですし」
「ふふ、ありがとう。……ああそうだ、職員室でカモミールティを頂いたのよ。すこしだけ時間が残っているから一杯いかがかしら？」

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