進路相談、君等の道２【芸術科編】｜リアクション

進路相談、君等の道２【芸術科編】

●エピローグ : お茶会 in 職員室

【旅鴉月詠の場合】

　白磁のカップに注がれた、爽やかな香りのカモミールティをひと口。
　本日、魔女殿は飄々とした顔で職員室の応接ソファに掛けている。
　職員室へ手土産はカモミールのティーパック。この香りは心を安らげると言われている。
　それから、可愛らしいラッピングペーパーに包まれたクッキー。
　これらは、月詠の差し入れだったのであった。

「進路相談というのは教室で行いたいのだがね」
　泉竜次先生は月詠の向かいで同じようにカモミールティを味わいながら面白そうにそう言う。
「なに、これはお茶会だよ。さあ、先生クッキーもどうぞ。ああ、私の手作りです」
「ふむ、君の手作りというと何やら怖いね。媚薬かマンドラゴラのエキスでも入っていそうで」
「ごくごく一般的な白い粉で作ってますよ。小麦粉、と呼ばれる粉でね」
　魔女と魔法使いが儀式でも行っているかのような含み笑いを交し合い、生徒と先生はちょいとばかし未来へ思いを馳せる。
「それにしても一年から進路相談とは早いですよね」
「早くはないさ」
「ふうん、そういうものですか。私の家は自由を愛す渡り鳥のような者が多いもので、三年も先の話を今からする、なんてのはどうにも奇妙に映るのですよ」
「そうかね。それで君は未来のことをどう考えるのかね？」
　そう尋ねられれば、月詠にはもう答えがあるのだった。
「私の行くべき場所は既に決まっている。マタ大です。芸術科ではないですが知り合いになった教授や大学生もいます。卒業しても縁によって変わりない交流ができるでしょう」
　月詠はカップを置き、傍らに置いてあったスケッチブックの縁を指先でそっとなぞった。
「芸術家というのは縁が大事だと思う。様々な縁が絡み合って大きな影響を与えるでしょう」
「なるほど」
　泉先生には月詠のいうことがよくわかった。その上で、彼女がこの年にしてそういうことを悟っていることに驚いていた。
　ただひたすらに自分の世界に籠っているだけでは、芸術は世に出ない。
　仕事にする、ということは、縁が物を言う。バナナ１本いくら、ネジひとついくら、ではない世界だから余計にそうだ。いいと思うものを作っても、それを知り、理解してくれる人がいないと成り立たない。
　この仕事ならあの人、と思う人がいること。また、自分自身もそう思ってもらうことが大事なのだ。

　もしかしたら彼女にはむしろアートディレクターの才があるのかもしれない。
　物事を全体的に冷静に見て判断する。月詠にはそういう視点がある。
　だが、『お茶会』でそんなことを口にするほど野暮じゃない。
　彼女には自分で自分の道を選ぶ力がある。ただ、それを見守っていればいいのだ。

「どうしました？」
　月詠に問われ、泉先生は思索を止めた。

「私の家は自由を愛し、様々な場所を転々とする渡り鳥ではありますが、今の私はこの島が気に入っているようで、この島を重要拠点とした渡り鳥でありたいと思います。泉先生がここから世界に発信しているように」

　うむ、と頷き泉先生はカップを掲げる。口もとには飄々とした笑み。
　いまだけは先生ではなく、善き魔法使いになろうではないか。
　祝福を贈ろう。

「若者の前途ある未来に、乾杯」

＜了＞

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あとがき

担当マスター：笈地行
ファンレターはマスターページから！

ご参加いただき、誠にありがとうございました。
さすが芸術科さん、多彩！　その一言に尽きます。
芸術の世界は広いですねー。いろんな国の言葉を喋れる人の多さも驚きでした。
国内の学校は、国立はそのまま大学名を使えるということだったのですが、
海外の学校についてはわからなかったので、国立の場合も念の為名前を暈させていただいております。
みなさんの夢がかたちになることを応援してます。

さて進路相談については、リアクションがすべてになります。
故に個別コメントはほとんどございません。ご容赦くださいませ。
次はいよいよ最後、普通科さんです。またよろしくお願いたします。

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