小学生、借り猫競走！｜リアクション

小学生、借り猫競走！

◎借り猫競争　３

「リアーネ！」
　競技開始前入場門へ向かう娘の姿を見つけ、ニコ・ライニオは手招きした。
「なあに、パパ？」
　そばへ駆けてきた娘のリアーネの手を握り、ニコは優しく微笑む。
「頑張ってね」
「ダンス、よかったわよ。リィ、頑張ってね」
　妻のユリアナも言う。
「うん、がんばるよ」
　リアーネも、笑顔で頷き、また駆けていった。
　スタート合図と共に
「がんばれー」
　と声援を送るニコ。
「こういうことしかできないけれど、きっと僕らの娘だもの、大丈夫」
　と隣のユリアナに笑いかけた。
　ろっこんが発動したことには気づいていない。

　スタートラインに立った赤組の曖浜瑠樹は、のんびりと白組の山根未亜に話しかけた。
「出られてうれしいねぇ。ほかのきょうぎも楽しいけど、借り猫競争が一番楽しみだったんだぁ」
　だが未亜の表情は厳しい。ポケットが膨らんでいるところを見ると、何か入っているようだが……
「ヤマネのもくてきはこのバトルにかつことだけだ！　かりねこきょうそう、ぜったいまけねーからな！」
　それでも瑠樹は笑みを崩さない。
「猫良いよねぇ。うちにも白猫がいるんだよぉ」
　出発のピストルが鳴り、皆が走り出した。
　猫耳のように見えるベリーショートの髪を振り、未亜が全力ダッシュする。
「おー、『くろねこ』か！　黒ねこなら体いくかんうらにいるな！　いつもたんけんしてるから知ってるぞ」
　未亜は体育館めざしダッシュした。

　奇しくも、瑠樹が引いたカードも『くろねこ』だった。
「たしか、体育館うらに黒い親子猫がいて、引っかかれた子がいるってうわさが……」
　だが瑠樹が向かったのは体育館ではなく、観客席だった。
「お父さん、お母さん、猫にあげられる物ない？」
「ああ、それなら……」
「え？　おじさんの昼ごはんねこ缶なの？」
　差し出された開いた猫缶を見て、瑠樹は目を丸くする。
「いや、人間用と間違えて買っちゃって」
　頭をかくおじさんに、瑠樹は言う。
「それ、借りてもいいかなぁ？　あと、お皿になりそうなものも……」

「かりる猫は『こねこ』」
　大きく書かれたその文字を、リアーネは両親のほうに向けて見せる。
「……みんなどこにかりにいくんだろう」
　ちょっと迷ったリアーネだったが。
（リィはまえに、うらにわでねこさんを見たってきいたからうらにわに行くわ）
　と決める。
「いまもいるといいのだけれど……」
　リアーネは裏庭に向かって走り出した。
　
「あっ、連れてくるの子猫だね？」
　双眼鏡で娘の様子を見ていたニコが声を上げる。
「抱っこはしやすいかなあ……さっきから何だか子猫を連れてきてる子が多いように見えるけど、いったい何匹いるんだろ」
「小さくても子猫の爪は痛いのよ……大丈夫かしら」
　ユリアナは心配そうだ。

　
「やるからには勝ちに行きます！」
　赤組の夕鈴翼がポニーテールと胸を揺らして走る。
　引いたカードは『かぎしっぽのネコ』。
「鍵しっぽのネコさんですか……」

　とりあえず目についた猫に向かっていくがなかなか見つからず、日当たりのいいところにやってきた。
「こんなところでお昼寝ですか？」
　一緒に寝ているあさひに気づく。だがまずは猫だ。
「シッポが確認出来ないと、どのネコさんか判りませんし、困りました」
　ぽかぽかな陽だまりで、猫たちは丸くなって寝ていて尻尾が見えない。
「気持ち良さそうに寝てるネコさんの邪魔をするのは心苦しいですが、借り猫競争に勝つためです、心を鬼にしてシッポを確認させて貰います」
　そっと持ち上げてみてシッポを確認する。
「にゃー」
　いやがる猫の声に、ようやくあさひが目覚める。
「むにゃむにゃ……あれ？」
　しかしまだ寝ぼけているようだ。
　翼のほうは何匹かだめだった後、ようやく。
「あっ、鍵ですね！」
　翼は嬉しそうに笑うと、自分のポニーテールの先端を掴んだ。
　前に髪の毛がネコじゃらしの代わりになって、ネコさんの気を引いたことがあるのだ。
　ゆらゆら揺れるポニーテールに気を取られ近づいてきた猫を、抱きかかえバスケットに入れる。
「もう戻ったほうがいいですよ」
　あさひに一声かけると、翼はゴールへダッシュした。
「あー、次の人が来ちゃったらもう間に合わないよね、ざんねん……」
　我に返ってその後を追うあさひだが、落ち込んではいない。
（おかあさんが「今日のネコさんおにぎりはかりネコきょう走バージョンよ」って言ってたからそれを楽しみにしようっと）

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