ご利益のある霊験あらたかなアルパカさん｜リアクション

ご利益のある霊験あらたかなアルパカさん

　　【いなくなりました】

　そのポスターの前にはちょっとした人だかりが出来ていた。
　

　”アルパカのフーちゃんを探してください“

　その一文の周りには、大人から子供まで、何が起きたのだろうかとポスターを覗こうとしている人でいっぱいになっている。

　その群れから何とか抜け出してきた数名が、居合わせたように息をついた。

　「はいー、すごい人でしたねー」
　抜け道がなく、人の間を縫って同時に現れた薄野五月と天動記士郎が顔を合わせる。

　「そうですねえ。
　またたび市動物園に限らず、動物が逃げ出したという張り紙は何度か見た事がありますが。
　しかし、生き物ですからねぇ……
　逃げたという感覚じゃなくて、フーちゃんにしてみればちょこっと散歩に出た感じかもしれない」
　「ああ、それはありますねー」
　しみじみと五月が同意する。

　「しかし、動物園の外は車も走っていますから……
　車を運転する以上、私も気をつけないと」
　「車での運転は大変そうですねー。
　私もフーちゃんが、ちゃんとご飯食べているかとか少々気になりますー。
見つけたらお家に帰してあげませんと」
　そんな会話をしながら、各々がそれぞれ心配して会釈と共に別れた朝。

　その帰り道、五月は見つけてしまった。
　ついにねこったーからはみ出し、ローカルネット情報にも上がり始めた一つの噂。

　『今、寝子島には”全身発光して、後光迸るアルパカ“が夜な夜な旧市街を練り歩いているらしい、丁度同じタイミングでまたたび市動物園のアルパカが失踪しており──』

　五月はアルパカが大好きである。どうしようもなく大好きである。
　そうたとえば、昨日の夜に出会って、あんなにも崇め奉っていた位には──

　「まあ。ではあの時、出前で見かけた神々しいアルパカさんは、動物園から逃げ出したアルパカさんだったのですねー」
　過去に遭遇していた事に、口元に手を当てながら驚きつつも。
　その一言を最後に五月は変わらずのローテンションかつマイペースで、一旦その場を離れていった。

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