黒くて毛むくじゃらの憎い奴｜リアクション

黒くて毛むくじゃらの憎い奴

●形勢逆転
新たな協力者の登場に汐音と修、十一が再び勢いを取り戻し、ありったけの殺虫剤で一気呵成に攻撃する。
しかし、徐々にだが薬剤が切れ始める。
最初に、真央の固着スプレーが切れた。
そして頼みの綱である修の背負型蓄圧式噴霧器の薬液も切れた。
十一の忌避剤はまだ少しあるが、これは殺虫効果は望めない。

その時。
『坂下、聞こえるか』
五感を強化した汐音の耳にだけ届くその声は屋上から退治を見守っていた天野のものだった。
『恐らくだが、その毛虫の群体にはリーダーがいる。そいつがろっこんを使って他の毛虫を操っているように思える。そいつを叩け』
叩いても焼いても、怪物の足下には今もなお続続と新しい個体が列を成して集まって来ている。
「くそ。せめて毛虫が増えるのを断つ事が出来れば」
修が悔しそうに歯噛みする。
ここでやっと植え込みから高見の見物を決め込んでいた八兵衛が動いた。
「…まぁーいっか、やっぱり襲われるの黙って見てちゃだめだよね、人としてフツウじゃないだろうし…」
八兵衛は植え込みから飛び出すと十一のタンクの中にあった忌避剤に手を触れる。
八兵衛のろっこん『リキッドバルーン』だ。
触れられた忌避剤は八兵衛の念力による誘導で水の球となって漂い、怪物の足下に集まってくる毛虫の列に張り付いた。
これで怪物に集まってくる毛虫の道は断たれた。
怪物を零葉の簡易火炎放射器が焼く。
焦げた毛虫がバラバラと足下に落ちる。
零葉が最後の一吹きを終えた缶を足下に投げる。

汐音がゴルフクラブを構える。
強化した視覚と聴覚を総動員して怪物を構成する毛虫の動きを見つめ、リーダー毛虫を探し出す。
見えた！殆ど全ての毛虫が常に動き、位置を変えるのに対し、たった一匹だけ、人で言う頭部から少しも動かない毛虫が。
渾身の力を込めてゴルフクラブを振り切る。
パーンと怪物の頭部が弾け散ったあと、四肢を構成していた大量の毛虫がバラバラと汐音の上に降り注ぐ。
怪物を仕留めて呆然としていた汐音は降り注ぐ毛虫を避ける事ができずふわり同様、毛虫の山に埋もれてしまった。
ひとまず、学生達の活躍により、怪物は噂のまま姿を消した。

天野はこの結果を見届けると誰にも姿を見せることなく家路に就いた。

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