黒くて毛むくじゃらの憎い奴｜リアクション

黒くて毛むくじゃらの憎い奴

●結成！毛虫駆除隊
怪物に対する認識に多少の差はあったかも知れないが、こうやって仲間（どうやら）が集まってくれたのは心強い。
巨大化の理由については様々な想定をしていたが、学生達の持物から察するに誰も一様に怪物の正体を桜の木に付いた毛虫ではないかと睨んでいるようだ。
「さあ、桜の木を守るために頑張って退治しよー」
汐音の声におー！と唱和する真央、十一を尻目に痺れを切らした修は、既に桜の木に向かって殺虫剤を撒布していた。
いちいち狙わなくても桜の枝には毛虫がびっしり張り付いている。霧状に撒布された薬剤は面となって確実に毛虫を捕らえる。
ボトボトと大量の毛虫が枝から落下し、しばらくうねうねと身をよじった後に動きを止める。
その様を見て興奮した修はさらに範囲を広げて撒布を続ける。最早周囲の事には関心が無くなっているようだ。
「ででで出て来い、毛虫っ！真央ちゃんが退治しちゃうもんねっ」
「とにかく虫滅ぶべし！爆発四散！サヨナラ！」
真央もそれに倣ってそれぞれの缶スプレー式殺虫剤を噴射し、十一は自作の虫除け剤を柄杓で掬って撒き始める。
毛虫は桜の木の下に落ち、黒い絨毯のようになり始めた。

その様子を窺う梢は目を閉じると前に向かってジャンプする。
その体は黒い羽根に瑠璃色の斑紋を持つ一匹の蝶に姿を変え、羽根を羽ばたかせると風に乗って高く舞い上がった。
空から見下ろす桜の下には夥しい毛虫の死骸。梢の心がズキリと痛んだ。

毛虫退治の様子を窺っていた者は他にもいた。
「怪物…。仲間意識が強い毛虫の変貌体か、もしかすると能力を持ったリーダー個体に操られているのでしょうか…」
長い黒髪を春の風に弄ばれながら、怪物の正体に思いを巡らすのは１年３組の哀坂零葉。
彼女はふと、足下に落ちていた紙飛行機に目を止める。
何やら文字のようなものが見える。
紙飛行機を丁寧に広げるとそこに書かれたメモを読む。
「どうやら似たような事を考えている人もいるようですね」
自身の推論と紙飛行機のメモを比較検討しながら呟く。
「まずは彼らをサポートしましょう」
毛虫退治に躍起になっている学生の一団を見つけると、零葉は汐音たちの元へ歩み始めた。

●集うもの達２
「真っ黒怪物ねぇ…。学園七不思議にしては実害があるよね…。でも、ちょっと面白そうかもしれない」
毛虫退治に精を出す面々を花壇の植え込みの中から遠目に眺める影がひとつ。それは２組の七草八兵衛。
「あれれ？何かちょっと人がいるや…。まいっか、自分から挑むリスクを負う事もなくなったし」
実際に襲われているところを見た方が対策も取りやすい。校長の件からも命の心配まではなさそうだ。
自ら危険に身をさらすことなく怪物を拝む事が出来るかも知れない。毛虫退治は有志に任せて高見の見物を決め込んだ。

「よっと。デジカメ取りに行ってたらなんか進展があったみたいだな」
植え込みを乗り越えて八兵衛の隣に陣取ったのは同じクラスの握利平。
「桜に巣くう巨大生物。写真撮れば誰か買ってくれねえかな？」
カメラを構えたまま、八兵衛に振ってみるが、ぼんやりとした生返事が返って来ただけだった。
利平は、まあいいか、と桜の木の方に祖父から拝借したデジタル一眼を向け直した。
「本物だったら月刊ウーが取り上げてくれるかも！」
彼の言う『月刊ウー』とは超常現象全般を扱う月刊雑誌である。
夢（？）は大きく広がっていた。

八兵衛、利平の視線の先には汐音をはじめとする毛虫駆除隊（暫定）の面々。
汐音や真央、十一がきゃーきゃーわいわいと賑やかに殺虫剤や忌避剤を撒くのに対し、修は黙々と機械的に作業を重ねていった。

このページにイラストを設定する