黒くて毛むくじゃらの憎い奴｜リアクション

黒くて毛むくじゃらの憎い奴

●怪物退治！
「まさか！？」
汐音が叫ぶ。
二本の柱が真央の胸ほどの高さでひとつに繋がると更に上に積み上がっていく。
修の頭を越えた辺りから新たに左右に二つの塊が生じ、棒のようになって下に伸びる。
さらに中央に小さな塊を頂くと、その姿はまさに黒い巨人。
巨大な毛むくじゃらの化物。大きさはゆうに２ｍを超え、桜の枝に届こうとしている。
もはや誰もが疑うべくもない、これが噂の『怪物』だ！
その形は一定だが、怪物を構成する毛虫達は常に場所を変えながら動き回っている。

「ほほほホントに出たぁ！？たたた助けて、にゃにゃにゃがおー！」
真央は両手を猫の手ように丸めると、三毛猫を召喚する。
「がおー助けてっ！真央ちゃんのお手伝いぷりーずっ！」
これが真央のろっこん『にゃにゃにゃがおー！』である。
召還した三毛猫にお願いをし、何かを１つだけ代わりにやってもらうという能力だ。
今、真央が三毛猫に願ったのは、『一緒に居てもらう事』
三毛猫の登場でこの場に踏みとどまるための勇気を貰った真央は三毛猫を小脇に抱え怪物に対して残り少ない殺虫スプレーを構え…。
プシュッ…。
既に残り少なかった殺虫スプレーはあっという間に空になった。
怪物の体からは毛虫が数匹、地面にこぼれ落ちただけだった。

殺虫剤を切らせた汐音はゴルフクラブを振るう。
だが、密集しているためほぼ確実に命中はするが、打撃面積の小さいそれは一振りで精々数十匹を叩き潰すのが精一杯だ。
「どけ、坂下。俺に任せろ！」
修が庇うように汐音の前に出て殺虫剤を噴霧する。これはかなり有効だが薬液の残りはあと僅かだ。

少しずつ質量を減少させながらも、怪物の歩みは依然として止まらない。のろのろとだが未だ圧倒的な質量を持って移動している。
真央が三毛猫に貰った勇気もここまで。召還された三毛猫も姿を消し、真央は恐れをなして逃走に移った。
「んぎゃ！？真央ちゃんの勇気の素がっ！？せせせ、戦術的転進、転進～！」

「…待ちなさい。これを使って」
恐怖に駆られ逃げようとする真央を制止したのは遅れて到着した零葉。
毛虫の毒針毛を飛散させないよう固着するタイプの駆除スプレーを真央に手渡す。
自らはスプレー式の殺虫剤を噴射。ガスにユーティリティライター（いわゆるチャッ○マン）で点火し簡易火炎放射器として使っている。
ちなみにこの方法。噴射口から缶内に引火し爆発する危険性があるため、良い子は決して真似をしてはいけない！
「なるほど。どうやら個体が群れることで巨大なひとつの生物のように見せていたようね」
これまで怪物の正体について考察してきた零葉が冷静に分析する。

●命名
「さしづめ『ブラックモップ』って感じかな」
植え込みから見ていた八兵衛が怪物に命名する。
その毛むくじゃらな容貌は、かつて隆盛を極めた幼児向けバラエティ番組『拓け！ポッキンキン』に出てきた人気キャラクター『モップ』に見えなくもない。
「あー、上手いな。そんな感じだな」
相槌を打った利平は祖父のデジカメで怪物を撮影しまくっている。
怪物は月刊ウー用。校内新聞向けには怪物退治に活躍する学生達の姿を。
その様子は、軽快なシャッター音と共に次々に記録されていった、筈だった。

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