チャリンコのお悩み、解決します｜リアクション

チャリンコのお悩み、解決します

　夕方、部活を終えた雨崎荒太郎は、軽い足取りで旧市街を歩いていた。目的地は『CutbiCycle』だ。居住地は猫鳴館なので学校までは徒歩で行けるが、行動範囲を考えると他に足がほしい。
「寝子島は意外に広いからねー、やっぱ自転車欲しいよねー」
　放課後は旧市街の居酒屋にバイトに行くし、秋季になると部活でシーサイドタウンのスポーツセンターのプールを使う。それに、恋人が旧市街に住んでいるので一緒に帰る時に便利だ。諸々の事情により、荒太郎は自転車を買うことを決心したのだった。
　白いフレームのシティサイクルは先日予約を済ませている。店主さんが話してくれたところによれば、軽い割に剛性があるので日常的に長く使えるそうだ。
「ごめんくーださい」
　軽快に店の引き戸を開けると、思ったより人が多かった。
「あ、おにーちゃん、いらっしゃいませー」
　柚瀬玲音が元気にあいさつする。
「やあ、レアキャラだねー。えーと……」
　荒太郎と玲音とは顔見知りだが、名前までは覚えていない。
「ボクはれーねだよ！今日は何かありましたかー？」
「うん、れーねちゃん、荒太郎兄ちゃんはこないだ予約した自転車買いに来たよっ」
「わかった！あの上のやつだね。さとるおにーちゃん、取るから肩車してー！」
　バイトの二輪悟は、割と無茶な要求にも笑って答えている。
「はいはい、危ないからすぐパスしてねー」
　荒太郎の予約したシティサイクルは、すぐに下に降ろされた。やっぱりシンプルデザインでかっこいい。荒太郎は早く乗りたくてうずうずしていた。
「すぐ乗るよねー！さとるおにーちゃん、油さしてー！」
　実際に働いているのは悟なのだが、玲音も玲音なりに頑張って仕事をしているのだ。

　ちょうどそのとき、また店の引き戸がにぎやかに音を立てて開いた。
「だぁれ、まきびしなんてまいたの！チャリンコパンクしちゃったじゃなーい！」
　お茶目にオネエ言葉を使いながら入ってきたのは、志波武道だ。
「あれ、武道先輩じゃないですかー」
「お、荒太郎くん、コンチャース！部活終わった後はお店の手伝いモネ！ってことで帰ったんだけど、ママチャリ修理に出してって言われてさー」
　武道は旧市街の米屋に下宿中なのだ。
「またパンクですか……今日は多いですね、ちょっと待っててください」
　バイトの悟が手際よく修理を始める。
　武道が手持ち無沙汰になったところで、荒太郎はちょっと気になったことを聞いてみた。以前この店で会った人と、武道のおもかげが似ている気がしていたのだ。
「まさか武道先輩ってお兄さんいたりしませんー？」
「いるよー！あまり似てないニーチャンがいる！俺次男坊なんだっ」
　武道はあっけらかんと答える。
「ニーチャンに似てるとこといったら眉と鼻くらいなんだよなぁ。性格も違うよ！」
「む……そういえば眉と鼻が何となく似てるような。似てないっていっても兄弟ってなんとなくわかりますねー」
　会話を交わしつつ、武道の興味は店に並べられた自転車に移っていった。これなら待ち時間も退屈はしなそうだ。